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魔族の国【2】


「……ようま……? ……、……あ、あの……こ、ここは一体……?」


 招き人を見ると、とても顔色がよくない。

 今にも倒れてしまいそう。

 それを察してか、ミゲル様が彼の背に手を回して「まずは君、休んだ方がいいね」と廊下の奥を指さす。

 そのまま招き人の背中を支えながら、一室に案内すると通りすがった猫の魔人に布団を敷くように指示を出して同じ部屋の紙の扉を開くと服を取り出してきた。


「濡れているし、先に風呂に入った方がいいのかな? けれど顔色も悪いし、寝た方がよさそうだ。あとでお湯とタオルを持って来させるから、まずは着替えて休むといい。コニッシュは別室までおいで。男の子の着替えなど、女の子が見るものじゃないしね」

「はっ! はい!」


 そ、それもそうですね!

 慌てて頭を下げて廊下に出る。

 なにしれっと部屋までついていっているの、私!

 紙の扉が閉まり、中からミゲル様の声がした。

 招き人に、なにか説明しているような口調だ。

 聞いていると部屋の使い方みたい。


「お待たせしたちまちた、ミゲル様。ジェーン、参りました」

「!」


 廊下の奥から二足歩行の犬の魔人が現れた。

 とても小さな、私の膝丈くらいの魔人だ。

 その子は紙の扉の奥にいるミゲル様に話しかける。

 その名前は、確か……。


「ジェーン、ちょうど良かった。廊下に白い髪の女の子がいただろう?」

「はい」


 ちらりと見上げられる。

 お鼻の潰れたような顔の犬の魔人……なんだか、少し怖い。


「彼女の世話を頼むよ。二人とも疲労の色が濃い。まずは休ませて、それから事情を整理した方がいいだろう。文句を言う者がいたら僕の名前を出して構わない」

「よろしいのですか」

「ああ」

「かしこまりました」


 そう言って、頭を下げる犬の魔人。

 私の方を振り返ると、私に対しても頭を下げた。


「ジェーンと申します。犬族パグ種の魔人です。ただいまより、ミゲル様の命によりお世話をさせて頂きます」

「あ、え、あっ、あ、あの、あの……わ、私、その……」

「彼女は招き人の恩人だ、丁重に扱うようにね」

「かしこまりました」

「え、あっいや、そ、そんな、わ、私、あの……!」

「では、こちらへどうぞ」

「…………っ、……はい……」


 犬の魔人も、不思議な服装。

 そして、ちょま、ちょまっと歩く姿がなんだか、可愛く見える。

 あとお尻がぷり、ぷりってしてる。これは素直に可愛らしい。

 胸がきゅん、としてしまうわ。ずるい。

 案内されたのは中庭を挟んだ反対側の部屋。

 草のような香りがして、なんだか落ち着く。

「改めまして」

「は、はい」

「わっちはジェーンと申します。お名前をお伺いしてもよろしおすか?」

「ぉ……、……あ、コ、コニッシュと、申します」

「コニッシュはんですね。まずはお着替えください。ミゲル様の言う通り、ちょっと休まれた方がよろしおす。お顔の色が、よろしくありまへん」

「…………」


 独特な訛りと口調だなぁ……。

 私、そんなに顔色、悪いのかな?

 自分ではよくわからず、頰に触れてみる。

 思っていた以上にひんやり冷たくてびっくりして手を離す。


「本当は温泉でも入ってからゆっくりなすった方が、よろしんでしょうが……今にも倒れそうなお顔されとりますからね。まずは横になって。お医者様をお呼びしますんで、体調を整えてくださいまし。人間はか弱いから、土地の守護聖霊神様が合わないと寝込みがちになります」

「あ……」


 それは、思い切り心当たりがあった。

 私はこれまで、ずっとそうだったから。

 でも、左目に聖霊神の加護を与えられてからはそうでもなくなった。

 だからみんな、私も最初の頃は……この左目の加護を体調を整えてくれる加護だと思っていたのだ。

 しかし、そうではなかった。

 この左目は他者の心を少しずつ、違和感を与えることなく奪う魔眼。

 加護を得て以降、寝たきりからは少しずつ回復したので、魔眼には体調を整えてくれる効果も、あったのかもしれないけど……。


「わ、わかりました……」

「お食事は食べられそうですか?」

「え、食事……」


 食事、と聞いて……私はここ数日のことを思い出す。

 王子のパーティーが五日前。

 逃げ帰るというか、追い返されるように家に帰ったけれど、そのまま荷物をまとめさせられて日が昇ってすぐ追い出されたのが四日前の朝。

 それから道もわからずただただ彷徨い、記憶が薄い。

 食事を最後にしたのは、いつだったかしら。


 ぐうううううううううううぅ。


「!」

「ぁ……」


 そうだ。

 私はお腹が減っている。

 四日、食べていない。

 川で水を飲んでたり、木になっていた果実——すごくすっぱかったり苦くて全部食べられなかった——は食べたけど。


「ふぁ……」

「え! ちょ、ちょっとぉ!?」


 食欲がなくて食べないことはよくあった。

 けれど、四日もまともに食べないのはさすがに初めて。

 一日一食以下。

 そんな生活、したことない。

 暑さで生き倒れなかったのも奇跡だと思う。

 思い出したら急に体中から力が抜ける。

 目の前が歪み、意識がぶつりと途切れた。


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