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護符作りパート2【後編】


「『自動回復』の護符を作りたいです」

「うむうむ。では作りましょう」

「……あの、魔法紙よりも強いのはわかったんですが……どうしてこんなに威力が違うんでしょうか」

「文字——言霊の力の方が強いからですね。魔法紙は複数回使えたり、リサイクルできたりするでしょう? その分制御の力やまた使えるようにするための保護の力も働いている。それと、魔法陣は魔力で写し込みます。しかし護符は一枚一枚文字を手書きします」

「あ……手間も違う、んですね」

「ですです」


 それなら威力が違うのも無理もないのか。

 そうだよね、魔力で魔法陣を刻むのと、文字を一文字一文字入れていくのでは……。

 なるほど……。


「そしてとても難しいですよ。一文字でも間違えたらやり直し……おじゃんです」

「ひ、ひぃ……」


 改めて言われるとプレッシャーがものすごい……!


「そして護符のなにがおそろしいかっていうと下書きが許されないところ。すべて一発書きでなければならないというところ」

「えええっ! そ、そんな! さすがにそれは自信がないです……!」

「しかしそれが護符作りというもの……。己と向き合い、護符の効果を信じ、筆を滑らす一秒先の自分を信じるのです。だからこそ効果も値段も高くなる。それが護符」

「っ」


 自分と向き合い、護符の効果を信じ、筆を滑らす一秒先の自分を信じる。

 だからこその効果と値段。

 ——それが、護符……!!


「ものすごい説得力……」

「でも付与魔法が使える者は、それの才能があるということですよ。鉛筆と普通の紙で練習する者もいますが、それだと護符の効果が下がります。ささ、一発OKを出すまで頑張りましょう」

「ひえ……」


 見本の『自動回復』の護符を差し出され、それを見ながら軽い絶望を覚える。

 左右対称の誇張しまくった呪文。

 これを、書く……!

 しかもお高い護符紙と星砂インクで……!


「……い、いきます」

「はい」


 一秒先の自分を信じる。

 筆にインクを染み込ませ、いざ、紙に先端を置こうとした——けれど、プルプル震えてうまく位置が定まらない。

 まずい、これは……。


「じゃあ、私仕事に戻るので頑張ってください。失敗したらここから護符紙、とって使っていいですから」

「え、ま、待ってください……護符紙って無料ではないですよね……?」

「うふふ……ぐふ、ぐふっ」

「えっ! あ、あとから請求されるとかなら、困るので! 今言ってください! 買い取りますから!」


 反応が怖い!

 なに、そのどう受け取ればいいのかわからない反応!


「まあ、気にしないで使ってください。あとで教えますから」

「え、ええ……」


 気になるし、請求されると思うと手がガタガタ震えるんですけど。

 なのに、ケートさんはそのまま店舗受付カウンターに戻って行ってしまう。

 間もなくお客さんの声がして、店舗内と受付カウンターを遮るようにカーテンが閉められた。

 すると、音も声も完全に聞こえなくなる。

 遮音のカーテン——魔道具だったんだ。

 少し怖いけれど、逆にお客さんの個人情報を漏らさないための処置。

 当然のことなのだろう。

 私の時も使われていたのだとすると、ありがたいもの。

 さて、他人のことより自分のこと。

 目の前の護符紙は一枚だが、横の棚にたくさん同じものが入っている。

 しかし、護符紙は確か普通の紙よりお高いはずだ。

 ケートさんはああ言っていたけれど、失敗はできないと考えるべき。


「頑張るぞ……」


 シンに、渡すの。

 そのためにやるって決めたんじゃない。

 だから、やるのよ。


「……っ」


 一秒先の自分を信じて。

 それがどれほど難しいか。


「あがっ」


 それ見たことか。

 筆を置いて一秒で歪んだ。



 ***



「…………」

「ぐふふふ、ぐふふふふっ! すごく失敗しましたね。グフ、グフッ」

「すみません……」


 時間は五時。

 この国だとそろそろ日が昇る時間。

 簡単に言うと“夕方”だ。

 普通の店は、店じまいの時間となる。

 私はこの時間まで一枚も完成させることができなかった。

 護符、あの価格は納得である。

 項垂れていると、ひとしきり楽しそうに笑ったケートさんは私の前に座り、私が失敗した護符を束にしてトントン、と四隅を整えた。


「星砂インクは世界の(ことわり)に干渉ができる、特殊なインクです。ご覧なさい」

「え?」


 四角いフライパンのような鉄板。

 その上に、束を斜めにして逆さにすると、その角からインクがとろりと落ちていく。

 まるでパンに塗りすぎたはちみつが、垂れていくかのような様だ。

 キラキラとした濃紺のそのインクが鉄板の中に溜まり、一滴も護符紙から落ちなくなるとケートさんはそれを差し出して見せてくれる。

 私が失敗した文字は、すべて消えていた。


「え、ええ?」

「これは誓約。誓いの時にも使うインクです。星砂インクは星との約束。星に誓いを立てる時に“伝える”効果を持ちます。護符神はこのインクの力を魔力と結びつけて“護符”とする。護符に刻むのはただの文字ではなく、己と向き合い効果を信じ、筆を滑らせる一秒先の自分を信じた結果を『約束』するもの。コニッシュさんはまだまだ自分との向き合いが足りないのでしょう」

「っ」

「また明日。明日こそ完成させなさいな。討伐は明後日でございましょう?」

「っ……!」


 顔を上げる。

 そうだ、明日までに完成させないと。

 けれどケートさんには「生き物はずっと集中していられない。だから休息というものがあるのだ」と言う。

 ぐうの音も出ない。

 でも、護符紙がこうして無駄にならないのなら——。


「あの、最後にもう一枚書かせてもらえませんか?」

「ぐふふ」


 ニヤリ、と笑われた気がした。

 一枚だけ……最初と同じく一枚だけを手渡される。

 そして一本の竜髭の筆。

 私は、自分と向き合うのは……まだ早い。

 自分というものがまだ定まらない。

 でもひとつだけ揺るぎないものがある。

 それを筆に乗せて——書けばいいのだ。


 ————シン、どうか無事に戻ってきて。




「…………できた」

「完成でぇ〜〜〜〜す! 素晴らしい! 見事です!」

「あ、ありがとうございます! ケートさん!」


『自動回復』の護符が作れた!


「では、ありがとうございました。ケートさん」

「いいえ、いいえ〜。無事に渡せるといいですねぇ」

「は、はい」


 家に戻ってから、作ってある護符袋に入れて渡そう。

 私が作った『自動回復』の護符は一日で使い切れてしまう。

 もし万が一、遭難でもしたら保たなくなる。

 だから、効果がさらに微弱になっても護符袋に入れることにした。

 生存率を上げるためだ。

 それにケートさん曰くこの『自動回復』の護符は必要ならば、魔力を込めること一瞬で消費することもできるらしい。

 つまり大怪我をしても、魔力を込めればその大怪我をも一瞬で治癒可能なのだ。

 使い方は、持ち主次第。



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