シンの世界の料理【前編】
「じゃあ、せっかくだし昼ご飯食べてから帰る?」
「は、はい、そうですねっ」
「……ほな、わっちは今から陛下とミゲル様にコニッシュはんのご意志を伝えてきますわ。こういうのは早い方がいいですからな」
「「えっ」」
「シンはん、コニッシュはんをよろしゅう頼みますわ〜」
「「えっ! ちょ、ジェーンさーん!?」」
思わずシンの方を見上げてしまう。
シンも、私の方を困惑気味に見下ろす。
てっきり三人で食べて帰るのだと思ったのに。
「そんなに急いで伝えなければならないほど、私はお待たせしてしまったのでしょうか……」
「いや、あれは意味が違うと思う……」
「?」
「……う、ううん! うん! そうだな! うん!」
「?」
なにか一人で気合を入れたり、うんうんと頷いて納得するシン。
彼にはなにか、私には見えてないものでも見えているのだろうか。
そうなふうに思えてしまうほど不思議な動き。
「あ、あのぅ?」
「あ、いや、大丈夫! ……そ、そ、それより、俺の知ってる飯屋でいいかな?」
「は、はい。そういえば私、城下町のご飯屋さんはまだ行ったことがないので……」
「そうなの?」
「はい。……あまり……どんなに効果が薄いと言われても、やはり気になってしまうんです」
左目を覆う。
この国では、“おまじない”程度の効果しかない【魅了の魔眼】。
でも、やはりこの目を晒したまま歩き回るのは気が引けてしまう。
“おまじない”程度でも効果はあるんじゃないか、と……そう、思ってしまうから。
「あ、あのさ、それなら……もしかしたら嫌かもしれないんだけど」
「?」
「さっきケートさんの隣の店でこんなの売ってたんだ。魔眼封じの眼鏡は、【認識阻害】が出てきちゃうから使えないって言ってたじゃん? でもこれなら、どうかな?」
「こ、これは……!」
シンが差し出してきたのは……黒い紐のついた、丸いもの。
これは——なにかしら?
「なんですか、これ」
「眼帯だよ!? あれ、知らない!?」
「眼帯?」
「こ、こうつけるの。貸して?」
そう言って一度シンへ返すと、そのガンタイというものを私の顔につけてくれる。
左目を小さなお皿のようなところで覆い、紐を頭の後ろに——。
「「っ」」
目の前にいるシン。
彼が前から、頭の後ろに紐をかけてくれる。
そのせいか顔の距離が急に縮まった。
鼻先が触れてしまうのではないか、と思うほどの……。
「ご、ごめん。後ろに回って結べばよかったねっ」
「あ、じゃ、じゃあ私が後ろを向きます」
くるん、と回る。
お皿の部分を自分の指で固定して、後ろでシンが紐を結ぶ。
髪に触れる。
なんで、こんなに……ドキドキするの?
「で、できたよ」
「……あ、こうして目を隠すんですね」
「うん。別に消えてはいない、な?」
「認識できるんですか?」
「うん。多分効果そのものは発動してるんだと思う。でも、こっちから目、自体は見えないから……」
「私の魔眼は、見ている人を【魅了】するもの……だけど、この眼帯は……」
「遮断してるだけ、って感じかな。でも、片目の視界を遮ってるから……」
「魔眼封じのように、効果は消えてない……遮断……届いていない……」
「うん、どうかな?」
魔法ギルドの窓ガラスを振り返る。
確かに……視界が半分覆われて見えづらいけれど。
あの青い瞳が、見えなくなっている。
遮断——こんな方法があったなんて。
「い、いいと思います。視界が遮られてしまうのは、不便ですけど……慣れれば……」
「うん! あ、しばらくは無理しないでね。えーと、こんな状態だし、今日はやっぱりご飯やめとく?」
「い、行きたいです」
はっ!
な、なんかすごく食い気味な勢いで答えてしまった……!
はしたないと思われたかも。
「あ、いや、その……べ、別に食いしん坊なわけではないですよ……?」
「え、かわっ……」
「え?」
「い、いや、うん、なんでも、ないよ! え、えーと、じゃあ、俺が行く飯屋に行こう! あのね、俺の故郷の世界のメニュー作ってもらえるんだ!」
「え、シンの……?」
「うん、ラーメンって言うんだけど……」
両手を左右に振り、とても焦ってから少し肩を落とす。
ラーメン……聞いたことがない料理だ。
シンの世界の料理だなんて、私はとても興味があるわ。
だからシンの手を取って、影の増えた視界を彼の姿でいっぱいにする。
「あ、あの、私……食べてみたいです。シンの世界の料理……行きたいです」
「っ、うん……じゃあ行こう。俺が奢るから大丈夫だよっ」
「え、あ……ふふふ、はい。では、奢ってください」
確かお父様に「奢りは男の見栄だから、そう言われたら甘えなさい」って教わった。
素直に頼ると殿方はとても嬉しいのだという。
でも、そういうのは婚約者だったセリックにするべきだ、とも。
今はもう、私にはなにもないけれど……シンが嬉しそうにしたので父の言葉は間違っていなかったのだろう。
魔法ギルドから外へ出て、そのお店に案内してもらう。
大通りから城の方に進む。
その途中、角を曲がって人通りの少ない小さなお店に入った。
「お、シンの坊主、女の子連れとはぁやるようになったじゃねぇか」
「ちゃうわ! あ、いや……大将、またラーメン作ってよ!」
「おお、いいぜ! 今度こそ坊主の納得するラーメンになってるはずだからな!」
「へへっ、楽しみにしてるね」
『オドスト食堂』という看板が掲げられたそのお店に入り、テーブルに案内される。
店主はオーガ。
すごいなぁ、やっぱり。
さすが魔人の国だ。
オーガが定食屋さんを営んでいるなんてなぁ。








