私ができるお仕事模索中【5】
「…………できました!」
一時間ほどで刺繍が完成した。
それをジェーンさんに手渡す。
青い魔力糸で小さな花を縫って、糸の色を変えてそれが護符付与だとわからないようにしたのだ。
「おお、ええんと違います? 上出来ですわ」
「本当ですか? これ以上大きな花柄にすると、もっと時間が必要になってしまうんですけど……やっぱりこれだけだと地味ですよね」
「そうどすなぁ……デザインに関してはもっと凝ったものの方が人気が出そうどすなぁ。でもたった一人で量産するには、刺繍は向いてへんでっしゃろう? ある程度妥協して——いや、逆にこの布染めるのはどうでっしゃろ?」
「染める……?」
刺繍用の布は基本的に針が通りやすいように、普通の布よりも強めの糸で織ってある。
私のような趣味の延長で商売をしようとする者は、シルクのようなさらさらして柔らかな、失敗したら穴の空く一発アウト素材は難易度がとても高いのだ。
そもそも刺繍の技術の起こりはレイヴォル王国の平民が、服のほつれをごまかすために始めたものだと教わった。
それが商人から貴族に伝わり、貴族たちは豊富な財で大量の刺繍糸を作らせ、豪華な刺繍を行うようになった——と。
特に百年ほど前は刺繍の全盛期時代といわれ、ドレスに立体になるほど大量の刺繍糸を使うのが流行っていたんだそうよ。
おかげでその時代のドレスはかなり重く、今のようにダンスの時に翻ったりしなかったとか。
——と、嫌だわ、つい寝込んでいた頃に読んだ本の内容をつらつらと思い出してしまった。
「! ……あ……そうだ、立体にしたら……」
「え?」
「でも、染めるのも素敵そうですね」
「ん? ええ、そうね……ほら、この町だとレアの花染めっていうのがあってね」
「レアの花染め、ですか?」
「赤、青、黄色の三種類の花どす。それらを組み合わせて、さまざまな色で染めることができるんどすぇ。ほら、これとかレアの花染ですわ」
「わあ、すごく鮮やかな色が出るんですね」
見せてもらったのはハンカチ。
色とりどりの花の模様。
これが染め物でできているなんて信じられない。
そのくらい細かな色が出ている。
「で? コニッシュはんが言ってた立体って?」
「あ……実は故郷では……」
「ふんふん、昔刺繍糸を重ねまくって立体にしてた、と」
「そうなんです。でも、よく考えたら扇子に立体とかありえませんよね」
「そんなこともないかもしれまへんで。ほら、こう、開くと立体になる本とかあるじゃありまへん?」
「え? あー、子ども用の……」
はた、とジェーンさんと二人、顔を見合わせたまま固まった。
「「それだ」」
これはとんでもないものが生まれるかもしれない。
それから一週間後——。
「「おお〜〜〜〜」」
「こんな感じでよかったの?」
「は、はい! バッチリです!」
ならよかったわ、とにっこり微笑むのはアライグマ種の魔人、ジファーさん。
レアの花染めの職人さんで、ジェーンさんが試作品をお願いしていた。
そしてもう一人。
「はぁ〜、変なことを考えつくもんだなぁ」
「だ、ダメだったでしょうか?」
「ハハ、まさか。それなら最初に断っているよ。ちょっと仕掛けに苦労したけどね」
「す、すみません」
「ただ、量産は難しそうだよね」
「そうですね……」
こちらのお猿さんの魔人はドットさん。
扇子の串……もとい骨の部分をお願いした。
本のように開き、ぱちんと交差部分——要で固定するような仕様を作ってもらったのだ。
染め物屋さんのジファーさんに華やかな生地を作ってもらい、ドットさんの作ってくれた特別仕様の骨組みで、私が一週間かけて作った立体の花柄。
そうして完成した、護符効果付与付きの、立体刺繍扇子の試品……!
「…………微妙どすな」
「で、ですね」
「豪華ではあるわねぇ」
「完全オーダーメイドでもちょっといらねぇなぁ。でも美術品としてならアリかもしれん」
「「「美術品!」」」
なるほど!
と、顔を上げたけど、それってジェーンさんの希望に添えないのでは……?
「確かに美術品としてお城に展示できるようなレアの花染は一度作ってみたかったのよね」
「だよなぁ、オレも城に飾られるような美術品を作ってみたかったんだよ。とはいえ、扇の骨組み職人にゃあ陛下のお使いになる扇子の骨組みを作るくらいしかできねぇと諦めてたんだが」
うっ、でもジファーさんとドットさんは盛り上がり始めてしまった……!
そしてすごく熱量を感じる……!
これはもしかして別途作る方向で考えた方がいいのかも……?
「どうだい、コニッシュさん。オレたちと城に献上できるような、どでかい観賞用扇子作りを一緒にやらないか!?」
「ねえ、やりましょうよ! あなたの考えた立体刺繍も素敵だし、きっと陛下も認めてくださるわ!」
「ええんと違います? 城に献上できるレベルのもんができれば、宣伝効果バッチリどすぇ」
「な、なるほど……!」
確かに王様に献上した職人は、貴族たちからも声がかかりやすくなる。
陛下が認めたもの、それはイコール一流品ということだ。
当然その栄誉は後世に語り継がれ、歴史に名を残し、作品は保管されて後の世の人たちにも鑑賞される。
「……素敵ですね。でも、私なんか……」
「あら、なに言ってるのよ。この中で立体刺繍のやり方を知ってるのはコニッシュちゃんだけよ」
「そうだぜ、頼むよ。リアの花染立体刺繍護符付き扇子は、あんたの協力なしでは作れない!」
「お願い、協力して!」
「は、はわわわわわ……」
「どないしはります?」
ジェーンさんに聞かれて、そう言われたら、もう……。
「や、やります!」
「ありがとう! よーし、そうと決まれば設計図が必要だな」
「デザインは任せとくれ! まず試作品を作ってからだね。立体刺繍は時間がかかるだろうから、あまり多くはできないけど……花の部分は全部立体刺繍で頼みたいね」
「わ、私なんかができるのでしょうか……そもそも刺繍だって趣味程度のものでしたし……」
「この国ではコニッシュはんしか、立体刺繍のやり方を知らないんですぇ」
「あ、あう」
でもやろうと思えばできると思うし、というと、ならば知り合いの刺繍屋さんに立体刺繍を教えてやってくれと頼まれる。
依頼料は払うし、その刺繍屋さんが学ぶつもりになったら刺繍屋さんから勉強料をもらえるだろうから、と。
なんだかどんどん話が大きくなっているような気がするんですけど。








