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私ができるお仕事模索中【3】


「舞はこの動きの鍛錬になるんどす。偉い方は“嗜む”のが当然どすな」

「そうなんですね……! 舞……踊りが緊急時の対応になるなんて、なんだかとても優雅です!」

「雅、いうんですよ」

「みやび……!」


 素敵な響き……!


「あ、それでレイヴォル王国のものより硬くて大きいんですね」


 ジェーンさんが持っているサイズでも、私が知っているレイヴォル王国の令嬢が持つ扇子とは大きさが違う。

 さすがに私の持っていた扇子は、国を出た時に家に置いてきたけれど……記憶の中のものと、この国のものとでは形も大きさも違う。

 折り畳まれており、開く所は同じだけど……。

 片手でスラララ、っと開くわけではない。

 ぱた、ぱた、と一枚一枚丁寧に開く。

 しかし、そうして丁寧に開くからふんわりと竹と香の香りが漂ってくるのだ。

 いい香り……。


「あれ、ミゲルさんの匂いと違いますね」

「ミゲル様は王弟ですから、黒方(くろぼう)の香りなどを好まれるんどす。今はそうでもおまへんけど、一昔前はこのように扇子に移す香の種類も、お家の階級によって決まっておったんどすぇ」

「え、えええっ」


 安い香は下の方。

 高い香は上の者。

 そのように区別がしっかりされていたらしい。

 しかし、数代前の王様が「この香りが好きだから、この制度をやめる」と言い出した。

 なんだかやめた理由が可愛い。


「それに、こういう香は異性を口説く時にも使うんどすぇ」

「へっ!?」

「その香による階級制度を取りやめた国王陛下は、当時香も焚けぬような下の階級の家の姫に一目惚れしてしまったんだそうどす。その姫の憧れの香が、梅花(ばいか)という梅の花の香りの香どした。国王は絶対使えぬ、下の階級の香でした。そしてその国王陛下はこっそりと梅花を焚いて、もし、その姫からこの香りがしたら、と思いを馳せておられたんどす」

「わ、わあっ」


 香りを焚けば、匂いは移る。

 その国王様は、想いを寄せる姫様へこっそりと梅花の香をお贈りになり、同じ香りを扇子や着物にしたためた。

 身分が下の姫と国王……許されざる恋だったらしい。

 しかし、逢瀬や文のやりとりを重ね、ついに姫様はこの国の国王様の香りが、こっそり贈られたものと同じだと気づく。


「その時に初めて姫様は国王様の正体に気づくんどす!」

「きゃーーーーっ!」

「あとはとんとん拍子、姫様は玉の輿。国王様と結ばれ、末長く幸せに暮らしましたとさ」

「す、素敵ですー!」


 なんて控えめで、淑やかで、甘酸っぱい恋物語なの……す、素敵っ!


「詳しくはこちらの『実録音凪姫物語』一巻で……」

「か、買います!」

「ほな新しいのを注文しときます。これはわっちのですけん、読み終わったら返してもらいますぇ」

「は、はい! もちろん! こちらの書物で、この国の文化を学ばせていただきます!」

「よきよき」


 買ってしまった。

 い、いいえ、これは勉強です。

 この国の文化へ理解を深めるための!

 きゃあ、楽しみぃ!


「話を戻しますけど」


 と、食後改めて私の作ったレース編みと刺繍の施されたハンカチをテーブルに広げられる。

 その隣にはジェーンさんの扇子。


「扇子にもそりゃあいろんな種類があります。特にこの国はわっちみたいな小型の犬型魔物やら、大犬型魔人、ミゲル様のような人の姿に近い魔人まで多種多様どす」

「はい」

「当然扇子も多種多様。中でも重役についておる方々、王侯貴族の方々は流行りに敏感で年に二、三回新品に取り替えられはる方もおられれば、オーダーメイドで作りはった扇子を何年も大切に使ってる方と様々どす」


 なるほど。

 流行り、というのもあるのね。

 そういうのってどこでわかるものなのかしら?


「役職によっても様々どす。武官の方などは扇子の中に鉄串を仕込みはって、万一の時に備えてはったりします」

「さ、さっき言っていた、攻撃されたら受け流す、みたいな……」

「そうどす。こういうのはオーダーメイドの方がほとんどで、鉄扇などの武器を作っとる専門家の方と相談してわかりづらいものを作ってはりますね。さすがに他者を攻撃するものになると扇子そのものを持ち込めなくなりますから、あくまで扇子として、というものになります。まあ、そういうものはコニッシュはんには向きませんでしょうから、狙うなら流行り廃りに敏感な文官の方々向けどす」


 文官の方々は宴などで舞を披露することもあり、実用性よりは見た目重視。

 紙より布の方が香の香りは入りやすいけれど、その分抜けにくい。

 そういう人たち用の『異性に魅力的に見えるおまじない』が施された護符効果付与付きの扇子を売れば、がっぽがっぽになる。

 ……とのことなのだけれど……。


「え、そ、それはよくないのでは」

「コニッシュはんが考えとるようなもんではないどす。それにこの手の“おまじない”は昔からありました。ついでに言うと、毎回この効果の護符付与しとるやつは女中にバレバレなんでモテまへん」

「お、おぅふ……」


 バレるほどやってるんですね。


「それに、護符効果付与のものはこれまで護符袋や手拭いのようなものがほとんどでした。それを扇子に施すなんて、誰も考えたことはりまへん。コニッシュはんの刺繍なら、分かりやすい護符効果を花の柄に埋もれさせてわかりづらくできます。モテたい文官たちは目の色を変えてお金を出すと思いますぇ」

「そ、そうでしょうか……? でも……」


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