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出会えてよかった人


 屋敷に戻ってからプリンさんとジェーンさんに聞いた、加護封じの作り方。

 物によるけれど、素材からその人個人の加護に合わせて様々な付与を行い、数人の呪術師や魔法師に調整してもらって初めて完成する。

 当然オーダーメイドで、高額。


「ですから、コニッシュはんの加護封じを作るなら身にまとうものがええと思うんどす」

「その意見にはわたくしも賛成ですが、それならば片目のレンズを魔眼封じにして、もう片目を【認識阻害】封じにすればどうですか?」

「神結晶が必要になりまへん? どうやって手に入れはりますん?」

「うっ、そ、そうですね」

神結晶(しんけっしょう)、とは、どんなものなのですか?」


 私が物知らずなだけだと思うけれど、首を傾げて聞いてみる。

 名前からして希少そう。


「神結晶は聖霊神様がお作りになる結晶どす。この世界でもっとも高濃度の魔力を蓄えており、ひとかけらで金剛貨二枚分になります」

「にっっっ……!」

「こんごうか?」

「ああ、シン様はこの国の通貨をまだご存じではなかったのですね。せっかくですからご説明しましょう」


 一番低い単位は石貨。

 これが百枚で銅貨一枚分の価値になる。

 銅貨百枚分は銀貨一枚分。

 銀貨百枚分は金貨一枚分。

 金貨百枚分は白金貨一枚分。

 白金貨百枚分が金剛貨一枚分。

 とはいえ白金貨と金剛貨は一般には出回っておらず、主に王侯貴族の大きな買い物の時に時折動く程度。

 少なくともレイヴォル王国と硬化価値は大差ないようだ。


「や、ややこしいなー。一円単位のものが急に百円になる感じ……?」

「?」

「あ、ご、ごめん。やっぱり異世界なんだなーって、思っただけ」


 ああ、そうか。

 シンさんは異世界からの招き人だものね、色々違いがあるのよね。


「コニッシュはんは大丈夫そうどすか?」

「あ、え、えっと、は、はい。レイヴォル王国と同じ感じでした」

「ならよろしおす。ともかく、そういう感じで神結晶は大変高価どす。ミゲル様に頼めばご用意くださると思いますが、お願いしてみますか?」

「む、無理です! 無理無理無理無理!」


 そんな高価なものを「タダでください」なんて、それこそ! それこそ!! サイッッッテーではいないですか!

 ですよねー、と頷くジェーンさんとプリンさん。

 他の、他の素材はないのでしょうか!


「他の素材ですと、やはり魅了系、挑発系の効果付与になりますかね。ですが挑発系は主に戦闘に用いる付与になるので、お勧めはできません」

「っ!」

「闇の聖霊神様の采配の素晴らしさどすな」

「そ、そんな……」

「ええんと違います? 別にもうレイヴォル王国には帰る予定、あらしまへんのやろ? この国の者はレベル1の魔眼に惑わされる者なんぞ、いやしまへん。このままで十分だと思いますけど」

「…………」


 そうなのかもしれない。

 確かに、もう故郷には戻れない。

 家には帰れない。

 あの頃には——。

 未練はないのか、と言われると、ほんのちょっぴり残っている。

 せめて皆さんに謝る機会がほしかった。

 特に、迷惑をかけてしまった家族や、こんな私と婚約してくれていたセリック、学園で親切にしてくれた方々に。

 そして、私はやはりこの魔眼が、嫌い。


「ごめんなさい、やはり魔眼封じの眼鏡は使いたいです」

「なんでどす?」

「……この魔眼があると、親切にしてくれた皆さんのことを、ずっと疑ってしまうからです。人の善意が、信じられないからです」

「!」


 たとえどんなに大丈夫だと言われても、この魔眼がある限り私は皆さんの優しさを素直に受け取ることはできない。

 それはとても悲しい。

 私の心が、潰れてしまいそうなのだ。


「ほんなん、気にせんといいんと違います?」

「?」

「多かれ少なかれ、生きてるっちゅーことはそういうんの連続どす。ええんと違います? わっちも今こうしてコニッシュはんの相談に乗ってるんは、仕事だからどす。お給金がもらえるからどす。友人知人、家族同僚、みんなそういう、一種の損得で動きます。それが普通だと、わっちは思っとりますけど」

「……え、えぇ……?」


 かなり身も蓋もないのでは。


「そもそもコニッシュはんは元貴族なんでっしゃろ? 人間の貴族にはそういう損得で婚約、結婚、とかありまへんの?」

「え、い、いいえ、それは、もちろんそうですけど」

「ほならなにをそんな気にしはりますの? 善意の塊で動くなんて逆に気色悪いわぁ。下心があるのは当然ですわ、ヒトの中で生活してれば当たり前どす。それのなにが悪いんです?」

「……えっ、え、っと……」


 あれ、私の言ってることがおかしいのかな?

 頭の中が混乱してきた。


「俺は困ります!」

「え?」


 声を出してきたのは、シンさん。

 すごく真顔で「俺はコニーと仲良くなりたい!」と叫ぶ。

 ちょ……!?


「コニーにもっと頼られるようになりたいです。それに、俺まだコニーに助けてもらったお礼をしてません。でも、今のコニーはきっと、俺のそういう気持ちとかも全部魔眼のせいだと思う。それって、俺が一番困るんですよね!」

「なるほど……。ほな、安い素材でなんとかできないか考えてみまひょ」

「は、はい。お手数をおかけします……」

「…………」


 野垂れ死ねばよかったと、心の中でまだ思ってる。

 でも——。


「よかったね」

「……は、はい」


 シンさんに会えたことは、よかったと思う。


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