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街の入り口に必ずある物。
検問所。
街の住人以外がその街に足を踏み入れるには、この検問所の許可が降りなければ入ることは出来ない。
簡単に入ることが出来るのは、所謂集落のような村で、検問所も無人な場合さえある。
けれど都市と呼ばれるそこそこ大きな街になると、怪しいものは徹底的に追求される。
そんな光景は日常茶飯事。
この日も、そんな光景から朝は始まった。
「ですから、許可証がないと入れません」
丁寧だが、一切の迷いのない憲兵が直立で答える。
「ですから、許可証は持っていません」
相手もやはり丁寧に、間髪入れずに答える。
「貰ってきてください」
「どこで?」
「ご自身のいた都市か、友好都市か、あとは入都申請局ですね」
「そこで貰って来られるのなら、こんなにゴネませんよ」
この会話、実に二時間は繰り広げられている。
同じ答えに、ハァと大きく息を吐いた。
「お願いします。急用なんです」
「それを認めてしまっては、ここの意味がありません」
そりゃそうだ…とは思うのだが、この都市に入る必要がある。
だが、許可証は手に入れられないのだ。
「ちょっと、力づくで入るわよ」
一歩後ろで話を聞いていた相手が、憲兵の前に歩み出る。
その迫力に、思わず精悍な顔の憲兵は一歩下がる。
「駄目だよ、ルア。そうやって力で解決するのは良くない」
「あんたがいつまでもくどくどしてるからでしょ!」
「分かった分かった…そんな近づかないでよ怖いから…」
振り返りずいっと顔を近づける相手に、思わず困った顔で両手を上げる。
ちなみに、怖いのは顔じゃない。
「どうしても、入れないんですか?」
近づく顔を避けながら再度問うも、憲兵は大きく縦に頷くだけ。
若いのにしっかりしているなと思いながら、諦めたように軽く頭を掻いた。
「仕方ないね…」
「いいの?」
呟いた声に確認の声。
行こうと促して踵を返し、足を進める。
「あ…」
ふと、足を止め憲兵へ振り向く。
そこには同じ顔と同じ姿勢の若い憲兵。
「今日は…新月ですので早めにお帰り下さいね」
「は…?」
言われた意味がわからずきょとんとした顔を見せる憲兵に一礼して、今度は振り向くことなく都市を離れた。
♢♢♢♢♢
「ちょっとカイ!入れないじゃない!」
暫く来た道を戻っていたその背中に文句が投げかけられる。
「仕方ないだろう。許可証がないんだから」
「あんた入れるって言ったじゃない!」
「入れるかもしれないって言ったんだよ」
「同じことよ!わざわざこんな山道歩いて来たのにまた逆戻りなんて…スカート汚れちゃう」
「ルア」
足を止めて振り向いた顔に、落胆の色はない。
「入れるよ。僕は嘘は言わない」
「…知ってるわよ」
優しく笑うと騒いでいた声が大人しくなる。
「夜まで待とう。時間は無くなるけれど、急げば間に合う」
真っ青な空はまだ暗闇を知らない。
夜でも間に合うだろう。
「スカート、汚れてしまったね」
そっと手を伸ばしたその行動に軽く制止をかける。
「終わってからのお楽しみにしておくわ」
「そうだね」
笑いあった顔はお互いどこか冷たかった。




