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「カイー」
幼い声が遠くから呼ぶ声が聞こえた。
見える世界は空高く、鳥の声も、風の音もこの耳に残る。
それなのにどこか虚無的で見える景色は自分の意思とは関係なく移り変わる。
「ファル、あんまり遠くに行くな」
幼い後ろ姿に呼びかける。
振り向いたその顔は笑顔で、幸福感に満ちている。
「カイも行こう。僕たちここを出るんだよ。向こうに行くんだ」
小さな指が示す先に見える、闇。
袖を引っ張る小さな手を握りしめる。
膝を折って目線を合わせる。
「ファル、向こうには行けない。何も見えないだろ」
そっと頬に触れようと手を伸ばす。
その瞬間、パリンと幼い顔は真っ二つに割れた。
バラバラと音を立てて辺りが崩れて行く。
一瞬の瞬きの間に世界が変わる。
見えるのは闇。その中央に浮かぶ炎とその中に佇む幼い姿。
「ファル…」
「カイは弱虫だ」
放たれた言葉は幼さも残っているはずなのに心に強く突き刺さる。
いつもの笑顔は消え、蔑むような表情さえも浮かぶ。
「…っ、駄目だ…」
「カイは弱い。だから僕と行けない。僕は行けるよ。強いから」
「ファル、行くな…っ」
その体を掴もうと手を伸ばす。同時に炎が行く手を阻む。
「カイ…」
「戻ってこい!ファルっ!」
どこか寂しげにも見える幼い顔。
ゆっくり炎が小さな体を包む。
「バイバイ、だよ」
最後に見せたのは涙と笑顔。
言葉と同時に炎は消え、小さな体も消えていた。




