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うかれ猫の俳句日記4 2018.9.14

作者: うかれ猫

今日の厄 ホクッとおとせり 栗ご飯


 犬に噛まれた。

 あの忌々しい犬め。

 初めて訪問するお客の家だった。

 チャイムを押そうとしたそのとき、玄関先に繋がれていた犬が突然、唸り声も上げずにガブッと来やがった。あわてて飛び退くぼく。痛い!そりゃそうだ。犬に咬みつかれりゃ、痛いわな。

 くそっ、どうして。どうして玄関先に立っただけで、こんな目に合うんだよ、どうして?なんでだよ。

 今日は朝から、ついてないことばかりだ。


 とりあえず医院で手当てをしてもらい、会社に帰ったのは1時過ぎだった。

 課長が言う。「おまえがボーッとしてるからだよ。もう今日はいいや。年休も消化しなくちゃならんし、おまえもう帰れ」だとさ。

 ぼくがよほどしおれてしぼんでいたのか、事務の山本さんが「ねえ、ひどいよねー。その犬蹴っ飛ばしてやりたいよねえー」と、ボールキックのように足を振り上げるので、ぼくの頬は思わず緩んでしまった。

「ねえ、お昼食べてないんでしょ。あたしはみつ子と外食したから、あたしのお弁当上げる。帰って食べな」と言って、山本さんがビニール袋に入った弁当箱を差し出した。


 帰り道の公園のベンチにすわり、弁当を開く。

 小さなパックがふたつ。柿色のハンカチに包まれたそれは、シワひとつなくきれいに折り込まれ、まるで百貨店の包装のように完ぺきだった。その結ぶ目に手をかけたとき、ぼくは山本さんの部屋のドアノブに触れたかのような錯覚に襲われた。

 お弁当のフタををそっと開ける。

 ひとつのパックには、黄色い栗ご飯。もうひとつには、緑色も鮮やかなゴーヤのおひたし。なんてシンプル。なんて綺麗。もうこれは、ほとんどプライベートな小部屋だ。

 栗の甘みと、ゴーヤの苦みが心地よい。

 いつかぼくは、犬に噛まれた痛みなど忘れてしまっていた。

 弁当箱をカバンに入れて立ち上がると、弁当箱の中に入れた小さなフォークがコトッと音を立てた。

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