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冒険のすゝめ  作者: サムライ
1/1

歯車が動き出す

「おい・・・あれ・・・」


薄い霧がかかった草原で男が囁く。

その渋い声には、明らかな緊張の色が出ていた。

その声に反応しゴクリと喉を鳴らしたのは、男の後ろを歩く二人の仲間だった。


先頭を行く男は筋骨隆々で、そのゴツゴツとした手には無骨な剣を持っていて、背中にはパンパンに膨れたリュックを背負っている。

右頬には大きな傷が入っていて、見るからに強そうだ。


そのすぐ後ろに続くのは端正な顔立ちの女で、綺麗な手には既に矢をつがえた状態の弓が握られている。


一番後ろを歩くのは少女という言葉が似合う、まだあどけなさが残る顔の女で、小さな手に簡単な作りのダガーをしっかりと握りしめている。


3人の魔道具が夜の闇を切り裂く。

頭に装着したそれは前方を照らすためのものである。

本来なら安心する光のはずだが、夜の霧の中ではかえって不気味だ。


「なに・・・?魔物?」


女が鷹のような鋭い目付きで辺りを警戒しながら男に聞く。

まだ、その「何か」の正体を掴めていない男は、女の質問には答えず、それにゆっくりと近づいていく。


「や、やめましょうよ・・・私、魔力切れててもう魔法も使えないですし~・・・」


少女が前を歩く二人を制止するが、その声は夜の静寂に消えていく。

少女はそれがいつものことであるかのようにため息を漏らし、震える足を無理矢理に動かしついていく。


男は「何か」のすぐ傍らに立つと、持っている剣でそれをひっくり返した。


「・・・」


「なに?」


男の表情は緊張から驚愕に変わり、もはや声すらも出ていない。

明らかに様子のおかしい男に女は、何があったのか聞く。

が、男はその「何か」をじっと見つめたまま口を開かない。


「何があったの?」


苛立ちの色が濃く出ている女の声に、やっと男が我にかえる。

そして、ゆっくりと口を開く。


「・・・人だ」


その一言でその場にいるただ一人、その場で倒れている少年を除く全員の表情が歪む。


「い、生きてるのか・・・?」


女がやっとのことで口を開く。


「寝息を立ててます・・・」


少女が倒れている人間に耳を近づけて生存を確認する。


「わ、私たちと同じ冒険者か?」


「武器もなければ、防具もおかしな布の服だけ・・・魔道具の類いも確認できない、それどころか荷物すらない・・・そんな冒険者がいるのであれば・・・まあ、そうだろうな」


女の質問に、男は皮肉っぽく答える。


「あり得ない・・・壁の外で人が生きていけるわけがない」


「・・・でも、こいつは無傷で昼寝を楽しんでやがる」


女の言葉に男は反論するが、その顔は明らかに同意見だと言っている。


「どうする?」


「・・・どうするったって」


女は男の問いに戸惑うが少し考えて顔をあげる。


「置いていくわけには行かないだろ」


「はあ・・・これでまた長老会のありがてぇ話を何時間も聞くはめになるな」


「また、怒られるんですか・・・私嫌ですよ~・・・」


「得体の知れない人間を壁の中に入れるんだ、まあ爺さん婆さんが黙ってねぇだろうな」


その場にペタンと座り込んだ少女に「冒険者ってのは目をつけられてるからな」と男が笑いながら言う。


「ギル、担いで行ってくれ」


「おいおい、勘弁してくれよ」


女の放った言葉に男は「ただでさえ、重い荷物担いでんのによぉ」と反論する。


「串肉10本」


「レイ様、まじ美人!喜んで!!」


が、女が続けて放った言葉で、男はすぐさま倒れていた人間を担いだ。


「さあ、帰ろうか・・・ロイサレドへ」


疲れの色が見える女の声が夜の静寂にとけて消える。

そして、4人は闇の中へと消えていく。








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