No 09 ダンジョン
9話です
「グルゥゥゥ・・・」
目の前には大型のトリケラトプスのような魔物が一匹、後ろには地球でいうカバのような大きさのトリケラトプス魔物が三匹。
目の前のサイズが異常に大きいのは、ボス型と言われている魔物だ。通常の種と比べると異常にサイズのでかい大型の魔物のことだ。文字通りその魔物たちのボス的存在だ。個体数は通常の魔物の500分の1程度らしいので、レア魔物ともいえる。
ただ、ボスというだけあって通常の個体と比べるとその強さも圧倒的らしい。
「フスゥー フスゥー」
俺が半径2メートルの間合いに入ると、トリケラトプスは鼻息を立て威嚇を始め突進のタイミングを図り始めた。後ろのボアス達もまだ動かない。
睨み合いが始まってから5数秒間が経過した時、痺れを切らしたボストリケラトプスは突進を仕掛けてきた。
俺は軽く右に飛ぶことでこれを回避し、着地時に右足を軸に回転、擦すれ違いざまに一閃、ブーツの左踵をボストリケラトプスの首元に叩きつける。
「ブォ?・・・・・。」
この一撃であっさりとボストリケラトプスは脱力し、そのまま力なく倒れ、こと切れた。残りのボアスも難なく葬った。ボアスどもは粒子となって音もなく消滅していき、いつも通り魔石だけが残った。残った魔石をリュックに放り込みながら俺は思った。
魔物が弱すぎる、と。
俺がいるのはダンジョン地下54層、ダンジョンにもぐり始めて4日ほどたつだろうか。
ダンジョン攻略開始の初日、ダンジョンの1層はゴブリンやコボルトをイメージするような小型で、雑魚以外存在しないような階層だった。見つけた直後に蹴りとばすことに罪悪感を感じてしまうほどに弱かった。
ちなみに魔物がどうやって増えるのかというと、増え方は2つあり、1つ目は勝手に湧いてくる(どういう理屈かは知らん)2つ目は母胎から生まれてくる、魔物も子供を産むようだ。
種類によっては群れを作るものもいたりするらしい。
たまに見かけるパーティでは、4人くらいで1匹のゴブリンもどきを囲み、槍でつついたりしているんだが、あれは一体何をしているのだろうか?よってたかって小さな魔物を虐める遊びだろうか・・・。いや、分かってるよ?多分あれが普通なんだろうってことは。俺が強すぎるだけだよね?ごめんね!テヘ☆
初日に様子見として思ったことは魔物が弱いってことと、ダンジョン内が想像以上に広いということだった。とりあえず4層まで潜ってみたのだが、1層より2層、2層より3層、とどんどん広くなっているのだ。
多分、1日で20層よりも深くまで潜ることは、今の俺ではほぼ不可能だ。魔物全無視して走り続ければある程度までは潜れるだろうが、いきなりそんなことやってもどうしようもない。ということでとりあえず2週間分くらいの保存のきく食料を買い込んで、再出発し、今に至る。
嬉しいのがダンジョンは夜になると魔物も眠るということだ。最悪ろくに寝れないことも覚悟していたのだが、今のところは野宿にはなんの問題もない。
ダンジョンの魔物は層を重ねるごとにサイズや、スピード等、何らかの形で確実に強くはなっているのだが、それでもまだ弱すぎる・・・。54層地点、ボス級ですら上手くいけば1撃で倒せてしまうのだ。確か最高到達点は96層・・・上位冒険者、実は大したことない説・・・。とはいえ魔物の強さは格段に上がってきている。この感じだと、90層くらいになれば1人で倒すのは難しくなってくるんじゃないだろうか。
そこからさらに2時間ほど、最後にリザードマン的な魔物に囲まれ、4匹殴り殺したところで残りは逃げて行き、リュックもいっぱいになり、そろそろ今回は帰ることに決め、上層に向かって歩き始めた。
閑話休題
俺が地上に向けて歩き出して2日目、困ったことが起きた。
たまたま4人の集団がたき火をしているところに通りかかり、そのまま通り過ぎようとしたところ、何故か絡まれたのだ。
「お前、俺らに一言のあいさつもしないで行くつもりか?」
あいさつ・・・。あいさつってあいさつ?
「え・・・あぁ、おはようございます・・・?」
「てめぇ舐めてんのかコラ!あ?」
なんか他の3人も立ち上がって参戦してきた。俺なんかしたのか?・・・訳分からん、困った・・・。
「てめぇ俺らが誰だか分かってんのか?あん?」
なんでこいつらこんなヤンキーみたいな口調なん?せめてヤクザ口調にしようぜ。おうあんちゃん、ちょっと面貨しな、とかワレコラァ、とかさ。君ら顔おっさんぽいから似合ってると思うよ?・・・いやどっちにしてもウザいけどね?つーか誰とか、知らんし。
「いや、すいません。知らないです。」
「てめぇ、・・・殺されてぇみたいだな。」
どうやら会話の選択肢間違ったみたいだ。他にどんな選択肢があったんだろうか。てかこんだけで殺害ルート確定とか、お前らヤンデレですか?俺のこと好きなん?あと判定辛すぎません?まだ出会って1分よ?
「オラァ!」
「ッ」
どうしようかと考えているといきなり殴られた。避けることも余裕でできたんだが、まぁわざと殴られた。
あまり面倒なことにはなりたくない。
ジジイとの無暗に人を殴らないって約束もあるし・・・。そこから何度も寄ってたかって殴られたのだが、正直全然効かない。いや、全く痛くないわけではないのだが、ジジイに半殺しにされすぎたせいか、多少殴られたところでどうってことない。
口の端など、表面の切れやすい部分等には傷がつくにはつくのだが、骨や筋肉、内臓、体の内面のダメージはほとんど感じない。多分だが、骨や筋肉が再生されていくうちに、ジジイの攻撃に適応しようと異常なほど頑丈になっていっていたおかげと思う。
要は修行の副次効果だ。もっとも、ジジイの攻撃をまともに受ければただでは済まないが。
「ちょっとあんたたち何やってんの!!?」
殴られ始めて1分ほどか、まだ終わらないのかな~などと、ほとんど他人事のような感覚で殴られ続けていると怒鳴り声が飛んできた。
「クローバちゃん、いや、こいつが挑発してきて・・・」
いやしてねえからな?お前ら一方的に突っかかってきていきなし殴り始めただけだからな?
「言い訳しない!寄ってたかって一人を殴るなんて最低だよ!」
「ほんとそれな・・・」
ヤベッ、声に出てた。
「ああ!?てめぇ調子乗って」
「ラウル!!」
「ッ・・・すいません・・・。」
再び威嚇を始めようとするも、女の子の人睨みで黙るヤンキー、もといラウル君、だせぇな。
ヤンキー4人組が静かになると怒鳴り声の主が近くに寄ってきた。
「ごめん。大丈夫?」
この人は知ってる。確か、アーシャ・クローバ、だ。17歳、種族はアマゾネス、ランキング9位、現役冒険者の中で1番強い冒険者と言われている女性だ。
この世界では女性に対する固定観念が強く、一般的に物静かな女性が好まれ、活発系の女性は疎まれる傾向にあるため、気の強いような女性はほとんどいない。
にも関わらず、この娘に好意を抱く男は数多くいるらしい。
理由は単純、ものすごく可愛いのだ。アマゾネス特有の小麦色の肌はとても綺麗で、エルフなんか比較にもならないほどの美貌、とにかく綺麗で可愛いのだ。アマゾネスは基本的にガサツであまり顔も良くはないと聞く。何方かと言えば嫌われ種族らしいのだが、この娘は例外のようだ。
てかなんでランキング9位がこんな雑魚そうなの連れてるんだ?
まぁ人間不信気味の俺からすれば積極的に関わりたいとまでは思わない。どうでも良いし、適当におさらばしよう。
「いや、全然大丈夫ですよ。気にもしてません。」
「そっか・・・。そう言ってくれるならありがたいよ。・・・けど、1人でこんなとこ来たら危ないよ?どうやって来たか分かんないけど、早く帰った方がいいよ。」
俺ってそんな弱そうに見えんのかな・・・。まぁ別に訂正する必要もない。
「じゃあそうします。これで失礼します。」
「ん、じゃあまたね。」
謝罪が適当だなー。なんて思うかもしれないが、ここはダンジョンだ。冒険者どうしのいざこざなんてしょっちゅうらしい。
実力主義の冒険者の中では、喧嘩すれば負けた方が悪い。怪我させられたってさせられた方が悪い。そんな理不尽が普通、ということらしい。
リンチを止めてもらい、謝罪まで貰ったのだ。冒険者社会の中で考えれば、むしろ超優しいとまで言える。
ていうか俺の場合、冒険者とか関係なくこういった場面で助けて貰ったこと自体始めてな気がする。
そんなことを思いながら俺は軽く会釈してまた地上に向けて歩き出したのだった。
これが彼女との最初の出会いだった。
初ダンジョンですが、すぐに終わってしまいました(^-^;
本格的な闘いなど、もう少ししたら始まるのでそれまでもう少々お待ちください