No 04 王様
4話です。 短いですがどうぞ
「・・・お前がやってないのは分かってる。」
引きずられ広間の外に出てドアを閉めた後、衛兵が顔を寄せて小声で話してきた。
俺がやってないのを分かってる?・・・は?じゃあ俺は何で今こいつに引きずられてたんだ!??
「はぁ!?お前マジふざけんなよ・・・!分かってて黙ってみてたのか!!どういうことだよ!!」
「・・・大事な勇者達の機嫌を損ねるわけにはいかない。」
それを聞いた瞬間俺はなぜか泣きそうになってしまった。何故かは分からない。胸の中が下から締め付けられるような、変な例えだが、飛行機やブランコでよくあるチンさむが胸の中で起こったような、そんな感じ。
俺には価値がないと、そう言われた気がしたからだろうか。俺に価値がない。そんなことはずっと言われ続けて来た。クラスメイト、教師、両親、祖父祖母、弟にさえも。それなのに俺は今更何に反応しているのだろう。
「・・・それでどこに向かってるんだ?」
不思議と衛兵に対する怒りはもう湧いては来なかった。
「・・・我が国王がお前に会いたいとのことだ。今から連れて行く。」
「そうか。」
正直意味が分からないが、もうどうとでもなればいい。どんな状況になっても俺は最強になってやるから。勝手にどこへでも連れて行けよ。
しばらく衛兵と歩き、王様の部屋らしき部屋の前に着き、衛兵がノックをし、扉と開いた。開くと同時に
「来たか。強姦魔よ、調子はどうだ?」
とクソジジイが書類を眺めながら顔も上げずに俺を呷り始めた。
「・・・俺はやってねぇ。」
無駄だと知りながらも反論すると、クソジジイは顔をあげてこう言い放った。
「分かっておるよ。貴様は童貞じゃもんなぁ?」
ものすごいニヤケ面で。このクソジジイ・・・。横で衛兵が噴出していた。そのうち死なす・・・。
「てめぇ・・・見てたのかよ・・・。」
「ああ、見とったぞ。・・・三上とかいう女勇者が何やら勇者樋口とのやり取りの後、広間で嘘泣きを始めたところからな。」
やっぱり樋口か・・・。ということはこの王様も俺が冤罪だと分かったうえでわざと助けなかったわけか。
「だったらなんで・・・」
「勇者たちの機嫌を損ねるわけにはいかんからな。」
「お前もそれか。ふざけんな。」
口でそう言いながらも、この答えは分かってたはずだ。分かっていたうえで、それでも聞いたのだ。何でだろうな。
「・・・すまない。」
しばらくお互い無言でいると、王様は俺に謝罪した。たった一言。本当にすまなそうに。少しだけ苦しそうな顔で。たったそれだけで、全て許せてしまう俺はおかしいのだろうか。俺は今までろくに謝罪なんてされたことがなかった。何をされてもいつも悪いのは俺。ものを隠されても、殴られても、バイトで貯金していた金を親に奪われても、悪いのはすべて俺。謝罪ひとつでこんなにも心が軽くなるのはとてもおかしなことなんだろう・・・。俺マジチョロイン。
「・・・別に。まぁこんなこと今に始まったわけじゃない。」
「・・・貴様がやっていないと分かっていても、儂は貴様を城から追い出さねばならない。」
分かってる。そんな顔をするなよ王様。別にもうあんたには怒ってねぇよ。
「・・・城を出ていく前に何か望みはあるか?ある程度なら叶えてやる。」
「しばらく生きるのに最低限困らない金と、この世界で最強の人間を教えてくれ。」
「それだけで良いのか?」
「あぁ。」
「金の方は分かった。最強の人間か・・・。人間性に少々の問題はあるが、最強と言えばやはり・・・アラン・リチュードだな。」
「そいつはどこにいる?」
「・・・教えを乞うつもりならやめておけ。」
「どうでもいいから教えろ。」
「・・・・・・・・・」
俺は黙って王様を見据える。王様はやがて諦めたのか、ため息を一つつき
「・・・この城を出て、街の西のはずれに豪邸がある。アランはそこにいる。」
そう俺に教えてくれたのだった。
「分かった。・・・ありがとな、王様。」
まぁ、俺が最強になった後、あんたに何かあったら助けてやるよ。
4話目終了です。短かったのでもう1話投稿します。