No 16 魔族
16話です
「・・・クーガ?」
リーシャが不思議そうに俺の顔を覗き込む。今、俺はどんな表情をしているのだろうか。
「・・・。」
ダンジョン入り口前。ダンジョンから地上へ帰還し、街に出た直後、違和感を感じる。
何か胸騒ぎがするっていえばいいのだろうか。嫌な予感がするっていうのかな。首筋がピリピリする。とにかく、なんか変な感じがする。
そこまで思考が行き着いたとき、それは唐突に起きた。
耳に入ったのは笑い声。それは聞いたこともないような、甲高くて、不快で、良く通る声。
音源はそう遠くない。
俺達は顔を見合わせた直後、音の発生源に向かい走り出した。
ダンジョン前のそこそこ大きな通り、そこを折れた路地裏の一角。
そこを抜けると比較的大きな広場に出る。
目に入ってきたのは、笑い声をあげる男。
住民は悲鳴をあげて逃げていく。
俺の中の何かが警鐘を鳴らす。あいつは、危険だと。
あいつはまだ俺に気づいてはいない。
俺は自分の本能に従い、後ろから瞬時に接近。男の頭部に向け右足をフルスイング。確実に人間の命を奪うはずの一撃。
狂人は2メートルほど吹き飛び、地面に頭から叩き付けられた。
リーシャは俺の判断と行動についていけなかったようで、唖然としている。
普通に考えれば、鋼鉄のブーツで後頭部を強打。それも不意打ちでだ。二度と立ち上がることはないはずだ。
だけど、俺には確信があった。
こいつは、まだ死んでない。絶対に立ち上がると。
「いってぇぇ・・・ヒヒッ。・・・痛いなぁぁ・・・クヒッ・・・ヒヒヒヒヒヒヒ」
そして予想通りそいつは起き上がった。目の焦点はあわず、ふらふらと体を揺らしながら笑っている。体にダメージがあるようには見えない。
脳内にダメージがあるような気がしないでもないが、多分あれは素だ。
そいつは肌の青黒い人間、よく見ると顔に鱗が生えていて、目玉が異様に大きく、口の端が両頬まで伸びている。
「なぁリーシャ、こいつって・・・」
「うん・・・魔族だと思う。」
「ヒヒヒヒヒヒヒ・・・ヒ・・・?あぁ・・・?誰だぁお前ら。」
突然、魔族の目の焦点が定まり、俺達を見据えてきた。
瞬間、悪寒が俺を襲う。こいつはヤバい。かなりヤバい。
「・・・リーシャ。」
リーシャ軽くに目を向ける。それだけでリーシャは俺の言わんとすることを察し、頷きを返す。
「うん・・・あたしじゃ役に立てそうにないし・・・クーガ!任せたよぉ!!」
そう言い放つと全力で逃げ去って行った。基本好戦的なリーシャだが、多分俺同様に何かを感じ取ったんだと思う。そして勝てないと瞬時に理解し、撤退。こういう所は賢くて助かる。
・・・だけどね?ちょっとはね?「クーガを置いて逃げるなんてできない!」とかあっても良いんじゃないかな〜、とかね?まぁ信頼してくれてるってことなんだろうし、いいんだけどね?いや別にいいんですよ。これで良いんですよはい。
リーシャが見えなくなるのを確認し、俺は魔族と向き合う。
「ヒヒヒヒヒヒヒ・・・お前は逃げないのかぁ?」
「まぁな。・・・お前、名前は?」
「俺かぁ?俺はなぁ、デュートだぁ・・・ヒヒッ」
「じゃあデュート、お前がここにいる理由はなんだ?」
「・・・知ってるかぁ?」
「・・・なにを?」
「ヒヒヒッ・・・人間って、いい声で鳴くんだぜぇ?」
会話が成立しねぇ・・・。
「・・・。」
「怒ったり、泣いたり、喚いたり、叫び声や悲鳴だって個体によって全然違んだ・・・。魔物や動物を殺して我慢してたんだけどよぉ、全然足りねぇんだ・・・ぞくぞくってよぉ・・・来ねぇんだ。だから、人間捕まぇにきたんだ・・・ヒヒッ・・・。」
一応、俺の問いに対する答えだったのね。聞いた俺が馬鹿だった。こいつ狂ってやがる。
つーかどうやってこんなとこまで入ってきたんだよ。
「あぁ・・・決めた!決めたよぅ!ヒヒヒヒヒヒッ!お前で遊んでやるよ・・・イヒヒッ!・・・さっきの女、お前の女だろ?だからさ、お前の目の前で、オークに犯させてよぉ。孕ませてから、お前の腹を捌くんだ。そんで胎児を引きずり出して、お前の腹に入れてやる。そしたら、お前が孕んだみたいになるだろぅ?・・・ウヒ、ウヒヒヒ、・・・ウヒャヒャヒャヒャヒャ!アヒャヒャヒャヒャヒャ!!」
ここまで訳の分からん発想が出てくるのは素直に驚きだ。こいつ一体どうやって育ったんだ?
「・・・何が面白いのか全く理解できなんだが、とりあえずあいつに手ぇ出したら、殺すぞ?」
まぁ、どちらにせよ殺さなきゃいけない気もするが・・・。
「ヒヒッ・・あぁ、どんな声で鳴くのかなぁ・・・どんな顔で怒るのかなぁ・・・お前は壊しがいありそうだぁ・・・ヒヒヒヒヒヒッ」
・・・既にこいつの中では俺で遊ぶことが決定事項となっているようだ。
今までは正直、魔族と闘うなんて罪悪感が残りそうで嫌だと思っていたのだが、ここまで頭おかしいなら、問題無い気がしてきた。ダンジョンで魔物狩る方が罪悪感感じるレベルかもしれない。
「はぁ・・・デュート、殺されても文句言うんじゃねえぞ?」
「ヒヒヒヒ・・・お前こそ、簡単に死ぬんじゃあねえぞぉ・・・遊べなくなるからなぁ・・・ヒヒッ」
その言葉を合図に戦いが始まる。
デュートの薬でもやっているように見えていた目が、一転して鋭い視線を放ち始めた。
来るッ!
俺がそう感じた瞬間、デュートは目の前に迫っていた。
予想よりずっと速い。
顔面目掛けた右フック。俺は即座に身体を逸らし、その勢いを利用し回転蹴り。相手は俺をなめきっていて、必中のタイミング。
蹴りは見事にデュートの顎に炸裂し、デュートは後方にひっくりかえった。
そのまま追撃を加えようと足を踏み出す瞬間、悪寒がした。
心臓が飛び跳ね、身体が一瞬硬直した。
その直後、目の前の地面が盛り上がり、天に向け、槍のように突き立った。
なんだこれ。
・・・とにかく、突っ込んでいたらヤバかった。確実に躱せないタイミングだった。
俺が困惑していると、目の前の土の槍は崩れ、デュートが立ち上がる。
「ヒヒヒヒヒヒ・・・お前、強ぇなぁぁ・・・だったらよぉ・・・こうゆうのはどうだぁ・・・?」
立ち上がったデュートは手のひらを俺に向ける。
「何だ・・・?」
直後、驚愕が俺を襲う。
「ッ・・・!!!」
デュートの掌から、岩の砲弾が発射された。
1つや2つなんてものじゃない。数えきれないほどの岩が群れを成して飛来してきた。
「うおおおお!?なんじゃこりゃあ!!」
俺は全力で回避。避けて、避けて、避ける。避けきれないものは叩き落とす。砕いた破片が体に飛来して、鈍い痛みが走るがそんなものに構ってはいられない。
俺が20個目の岩を砕いたところで、ようやく岩の嵐が止んだ。
今ので広場は滅茶苦茶だ。幸い住民は皆んな逃げ出しているから、被害者はいないはずだ。
だが、それよりも問題は・・・。
「ふざけんななんだ今の!?俺で遊ぶってのはどうした!?絶対殺す気だっただろ!?」
「あ・・・・・。ヒヒ・・ヒヒヒ・・・。」
こいつ・・・。
「つーか今のマジでなんなんだよ!?」
「知らないのかぁ?今のはぁ・・・魔法だぁ。ヒヒッ」
・・・・・・はぁ!?この世界魔法とか無いんじゃなかったっけ!?魔法存在するとか俺初耳なんですけどぉ!!??
「なんだそれ!!せこくねぇ!?なんでそんなん使えんだよ!?」
「ヒヒ・・・魔法が使える種族・・・だから、魔族。じゃない・・・のか?」
「いやなんで疑問形!?俺が知るわけねえだろうが!」
「ヒヒ・・・ヒヒヒヒ・・・」
・・・落着け、魔法がどんなもんなのか分かんねえし連発できんのかもわかんねえ。今のは様子見で、本命はもっとヤバいのかもしれない・・・。
とにかく情報が全くの皆無だ。このまま闘うのはリスクが大きすぎる。
ここはいったん退いて・・・
「ヒヒ・・・ヒヒヒヒヒヒヒ・・イヒ・・・イヒャヒャヒャアアアアー!!!」
突然デュートが発狂し始め、狂ったのかと思った瞬間、頭上に魔法陣のようなものが出現した。
直後、悪寒。
直感に従い回避。
「ッ・・・!?」
次の瞬間魔法陣から土の槍が飛び出していた。長さは優に4メートルは越えている。
こいつ絶対殺す気だ!
槍は瞬時に消え、再度魔法陣。
そこからは回避回避回避。もうデュートを気にする余裕はない。
魔法陣、回避、槍。 魔法陣、回避、槍。 魔法陣、回避、槍・・・・。
息が上がる、身体が重い、なんとか反撃の糸口を探そうとするが、頭がついていかない。
そして回避が50回を超えたくらいだろうか、俺の中で、何かが切り替り始める。
身体が熱い。
身体が軽くなっていく。
頭がさえていく。
視野が広がる。
自然と口角が持ち上がる。
目の前の敵が、今の俺のすべて。
勝利を求めて脳内が、全身が、奮い立つ。
俺は・・・こいつを・・・殺す!!!
後方に新たな魔法陣が出現、前方にはデュート、前への回避は不可能。
俺は反射的に跳躍した。
直後。
―――ドシュッ!
身体を槍が貫く音。
「・・・・・え?」
「ゴブゥ!?・・・アヒャ?・・・ヒヒヒ・・・ヒヒ・・・ㇶㇶ・・・ㇶ・・・。」
俺が回避した魔法陣からは、そのまま槍が出現し、その前方にはデュートがいたわけで・・・。
簡単に言うと、デュートが自分の槍で勝手に自爆した。
そのままデュートは静かに息を引き取っていった。
こうして魔族デュートは俺によって(?)倒された。
えーと・・・まあ、俺は辛くも勝利(?)を収めました。
ふう・・・きつい戦いだったぜぇ?
なんかグダグダになってきてますねぇ・・・。
なんとかして立て直さないと・・・。