No 15 今の日常
15話です。
携帯電話の電子音が耳を打つ。
眠い目をこすりながら、手探りで音の主を探す。
手に硬い金属のような感触が伝わり、それを手に取り、画面をタップする。
「ふぁ・・・おはよぉ~・・・朝だよ~・・・。」
それを耳に充てると、眠気漂う声が聞こえてきた。リーシャだ。
「モーニングコールなんだからもっと眠気が覚めるような声が欲しいなって俺思います・・・。」
「だって眠い・・・。」
「・・・まぁいいや。起こしてくれてありがとな。」
「うゅ・・・おやすみ。」
それを最後の言葉に電話は切られた。
今手に持っているのは、この世界の携帯電話のようなものだ。俺は携帯と呼んでいるが正式名称は携帯通話機、だそうだ。
見た目はアイフ〇ンと同じような感じで、機能としては、登録した相手との通話、メールが出来る。メールはSNSと同じような形式だ。さすがにアプリ機能付き、なんてことはないがかなり便利だ。
結構高額だったが金は有り余るほどあるし、あって損はないということでリーシャと一緒に買いにいったものだ。
時刻は朝の5時。
ベットの上で伸びをして、3度転がった後、俺はベットから立ち上がった。
部屋着から半袖短パンの動きやすい服装に着替え、外に向かう。
日課である朝のジョギングだ。
普通ならこの時間にはもうジジイが起きているはずなのだが、今屋敷には俺一人だ。
なんでも王様の呼び出しで、2ヶ月ほどほど城に行かないといけなくなったらしい。
俺の飯はどうするんだ、と散々ごねたがさすがに引きとどめることはできなかった。
そのせいで毎朝起こしてくれる人がいなくなり、朝起きる自信の無い俺はリーシャにモーニングコールを頼んだわけだ。
リーシャも朝は弱いらしいのだが、毎日ちゃんと起こしてくれている。
1時間半ほど走り、汗をかいてきたところで屋敷でシャワーを浴び、着替えて適当に飯を食う。
こんな感じで俺の一日は始まる。
クマに似た魔物が俺達に向かって突進してくる。
ただ、クマと違うのは体長が4メートル近いこと、額に変な角が生えていて、上腕がムキムキでゴリラのように筋肉が盛り上がっていること。
いやこいつもう絶対クマじゃねえじゃん。
ここは地下76層、最近リーシャと一緒にダンジョンに潜るようになっていて、先ほどまで駄弁りながら歩いていた。
そんな中、ものすごい速度でこのクマ(仮)が突っ込んできたのだ。
最初に動いたのは俺だ。
クマに向けて一気に加速、瞬時にクマの目の前へ。
クマは即座に腕を振り上げ、俺に向けて叩きつける。
それを回避しそのまま瞬時に後ろに回るりこみ、地面にたれる尻尾を思いっきり踏みつける。
「グヮガギャアアアアアアアア!!!!????」
「ははっざまあ。」
これで完全にヘイトの対象は俺だ。クマは怒りに我を忘れ、俺に向かい腕を振るう。
普段であれば、ここから急所をタイミングよく狙い澄まして砕く、あるいは倒れるまでヒット&ウェイを繰り返さなければならない。どちらにしても面倒だ。
だが、今の俺には仲間がいる。
「だりゃああ!!!」
ドゴォォン!と鈍い打撃音が響き渡る。リーシャが頭に血が上ったクマの背後に回り跳躍、後頭部にフルパワーでハンマーを振り下ろしたのだ。
「ゴブゥ・・・・!?」
巨大クマは頭部を叩き潰され、即死した。
敵が単体の場合、仲間が1人いるだけで驚くほど戦闘が楽になる。
複数の場合だって、単純計算でも相手しなければならない数が半分になる。
本当に楽だし、安心できる。
本音を言えばもう少し・・・いや、かなりスリリングな展開が欲しいとも思わなくもない。
ただ、そんな願望でリーシャを危険に晒すのは以ての外だ。だからそこは自重している。
リーシャは基本的にハンマーを使って戦う。一時期俺のまねをして拳で戦っていたこともあったようだが、本人が言うにはハンマーが一番得意らしい。俺もリーシャにはハンマーが結構似合っていると思う。
「やりぃ!!」
リーシャが片手を挙げてこちらに駆け寄ってきた。
「ナイスハンマー」
俺はリーシャと軽くハイタッチをかわし、残った魔石を拾い上げたバックに放り込んだ。
俺がリーシャとコンビを組むようになって2週間ほど。
リーシャは俗にいう天才、ってやつだと思う。一番最初にリーシャの闘い方を見たときには驚愕した。動きがかなり非効率、にも関わらず、ハンマーは腕力任せでものすごい速度で振るわているし、動きだってかなり速い。
これで効率的な体の動かし方、筋力の使い方を覚えればかなり化けるのではないか、という俺の考えは予想通りに的中した。腕の筋力だけでなく肩、腹筋や背筋までフルに使ったハンマーの振り方、予備動作を最小にしたり、動き出しを助けるためのステップ。
そんな簡単なことをいくつか教えるだけで、あっという間に見違えるほどに強くなった。
俺だって別に闘い方自体を誰かに教えてもらったことはない。だが、自分なりにより強く、より速く、より燃費良く動けるようにいろいろと考えていた。
リーシャの場合、それがなかったみたいだ。何も考えずにただ全力で突っ込んでハンマーを振り回す。実際それでそこそこには闘えていたので、それ以上考えることはなかったようだ。
まぁ、それで闘えていたのが以上なのだが。
「いや~、クーガと一緒だとほんとに楽だね。」
「まぁそうだな。俺もリーシャがいると楽だし、楽しい。」
「へへ〜!でしょ!」
もう少し実力が付けば、2人で90層より下へと進んでみる予定だ。リーシャはまだまだ強くなりそうだし、先が楽しみだ。
今回は短いですね。ごめんなさい(T_T)
明日か明後日には魔族を登場させる予定です。