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 茶会を終え、馬車に揺られながら御者をしているラウルに声を張り上げる。


「まったく!あの場にはおしゃべりで有名なアナ嬢がいたのよ!あっという間に広まっちゃうわ。次の夜会ではイサベラはダイエットしているだの、ドレスは結局作り直したのですか?なんて言われるに決まってるわ!」


「すみません。とっさに砂糖を入れない言い訳があれしか浮かばなかったもので、

 それにあながち嘘とも言えないでしょう?コルセットがきつくなっているのは事実ですから」


「そ、それはそうだけど。ほんのちょっとよ!砂糖を減らすほどじゃないわ」


 太ったなどと人聞きの悪いことは言わないで欲しい。たとえ、週3回お菓子を食べていたとしてもだ。思い切りむくれているとラウルは大げさに溜息をついた。


「砂糖に何か入っていたのですよ。銀の匙がそのままだったことを見ると即効性のあるものではなさそうでしたが……」


 本日の招待客はイサベラを含めて3人。イサベラ以外は仲が良く夜会でも固まっているのを見かける。きっとお茶の好みも知っていただろう。カタリナが砂糖を進めたのはイサベラだけだ。

 ラウルの説明にイサベラはしれっと答えた。


「そんなの分かっているわ。でもミルクに中和剤が入っているのでしょう?どっちも入れれば大丈夫だったのよ」


「おそらくその通りでしょうが、お嬢様は普段ミルクティーなど飲まないではないですか。下手なことをして怪しまれても困ります。あからさまにバレてしまえばカタリナ嬢の立場もございましょうし」


「あら、随分と肩を持つじゃない?」


「お嬢様に毒を盛ることに躊躇いを感じましたのでね。本来は善良な方なのでしょう。きっと父上か兄経由で脅されてしまったのかと」


 可哀想なことです、とラウルは声を落とした。

 まったく随分と甘いことだ。お前は誰の従者だ。どこぞの令嬢に同情する暇があるなら、主人の名誉を守って欲しい。


「ラウル。家に戻ったら紅茶を入れて頂戴。もちろんお砂糖たっぷりのね!」


 強めに言って不毛な会話を終わらせる。ラウルはついでにアリョーシャ商会のクッキーもつけましょうと請け負った。

 私が肥えるのは絶対ラウルのせいに違いない……




 イサベラ・ファーウッドは16歳になる公爵家の一人娘である。そして17歳の成人を迎えたら、第二王子の正室になることが予定されている。

 この国では15歳で社交デビューをし、17歳で婚姻が可能となる。王子とイサベラは幼馴染であり、幼い頃はファーウッド家に訪ねてきてくれることも、王宮へ遊びに行くことも多かった。その時に王子は大人になったら結婚しよう!と言ってくれたのだ。

 しかし10歳を超える男女は私的に会うことははしたないとされ、以来6年間姿を見ていない。けれど幼いながらもあの時の王子は真剣でイサベラもその時を信じている。


 さらにこの国の内情を説明すると、古くからの因習で王族の正室は自国内の者とされている。とはいえ戦も絶えて久しい昨今、諸外国との外交も重要な課題である。慣例通りなら他国から嫁いだ姫は第二妃以降となるのだが、それでは失礼に当たる、慣わしになど囚われず正妃に据えるべきだ、との声も年々大きくなっている。

 過去には形ばかりの正妃を国内から選び、他国の第二妃を寵愛し、事実上の正妃である、と屁理屈こねたこともあるが、第二妃の生国からみれば、第二は第二なのである。

 歴史を重んじ、慣わしに重きを置く者、情勢を鑑みて改革を求める派で諍いは絶えない。


 それゆえイサベラは革新派から目を付けられていた。脅しや誘拐されかかったことも数知れず。更に成人まであと1年となり、相手も焦ってきたらしくなかなか大胆な暗殺計画も多くなった。

 今回のカタリナ嬢の毒盛り事件など可愛いもので、帰りの馬車だって暴漢を振り切ってきたのだから。ここまで生きていることが奇跡と言えなくもない。

 

 イサベラは馬車の中で膝を抱えてそっと息をつく。


「もう少しの辛抱だわ。……でも、時間もないのよね」





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