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うららかな昼下がり。大きな窓からは季節の花が目を楽しませてくれる。
暖かな日差しを受けて、テーブルの茶器がキラキラと光っていた。
イサベラ・ファーウッドは、ふう、と息をついて手元の紅茶に目を向ける。水色のドレスが爽やかな少女が震える手で茶を注いでいく。
「イ、イサベラ様はお砂糖はおいくつ?」
この茶会の主催である子爵家の次女であるカタリナ嬢がにこやかな笑顔で尋ねる。けれどその口端は引きつってしまい、キツい顔立ちが更に歪んでいる。
気の強そうな見た目のわりに肝が据わってないな、と思う。いやこの場合は意外と優しいと評価するべきか。
「申し訳ございません。お砂糖は入れないでくださいませ」
頷こうとしたイサベラを遮って背後に立っていた従者、ラウルが言った。
本来、主催や主人の許しなく発言するのは不調法だが、ファーウッド家は格上の公爵家であるからカタリナ嬢も表立って咎めることが出来ない。ぐぬぬとカタリナが悔しげに睨む。
仕方なくイサベラが非難するような視線を背後に向けると、ラウルは涼しげに微笑み、肩をすくめてみせた。
そんな仕草が似合うのが余計に憎たらしい。
「このところ我が主はお気に入りのお菓子を食べ過ぎてますのでね。このままでは社交シーズンが終わる前にすべてのドレスを作り直さなくてはいけなくなりそうなのですよ」
「ラウルっ!」
悪戯気な口調にカタリナ嬢を含め招待客の女性二人もクスクスと笑った。こうなってはラウルの企みに乗るしかない。
「……もう、恥ずかしいわ。ええ、そうなの。私、この間王都に出来たケーキ屋さんに夢中ですのよ」
だからお砂糖は無しにしておくわ、と頬を染めながら内心は『帰ったらラウル締める!』と決意する。
「王都っていいますと、アリョーシャ商会ですか?私、まだ食べたことがないんです!」
「随分人気で今は特別な伝手がないと手に入らないのでしょう?」
「さすがファーウッド家ですねえ」
やはり年頃の女の子が集まると菓子の話題は盛り上がる。そのままお奨めのカフェや仕立て屋。飛躍して人気の男性の話題や貴族間の噂話までネタが尽きることはなかった。
やや緊張感に満ちた茶会であったが、とりあえずは不自然でないくらいの交流をもてたようでイサベラはホッとした。
とてもとても久しぶりの投稿です。
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