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 03



 同行していた面々が、草原にいっせいに花が咲くという奇跡を目の当たりにしたために、ハルは嫌でも自分が何者なのかを説明しなくてはいけなくなった。


「はあ、ハル様は父神様の世界からいらしたんですか?」


 ヨハネスはぽかんとして質問した。


「そうなんです。最近、神様の間では、自分の世界の絵を自慢しあう遊びが流行ってるらしいんですよ。それなのに、リスティア様の絵には全然イイネ……えーと評価をしてもらえないから、私が旅しながら絵を描いてくれって頼まれたの」


 写真と言っても伝わらないので、絵ということにしてハルは説明した。ヨハネスはまだ唖然としている。


「女神様に喜んでもらうため、絵を描いて回るって、本当にそのままの意味だったのか!? いや、ですか? てっきりそういう名目の巡礼の旅なんだと……なあ?」

「ええ、私もそう思ってたわ」


 ヨハネスに同意を求められ、カサリカは頷いた。そして、手を挙げて問う。


「さっきの奇跡は、もしかして女神様がお喜びになったことで起きたのですか?」

「そうだと思うよ、私は初めて見たし……私には花を咲かせる能力なんてないですもん」


 メロラインは琥珀色の目を輝かせ、胸の前で両手を組む。


「ということは、他の神様から評価を得られたということですか?」

「そうよ。やっと一柱分が増えたの」


 ハルが肯定すると、皆、おおーっと歓声を上げた。拍手して喜んでいる。


「私には他の神様に何がうけるのか、いまいち分からないのよね。それで旅をしながら探して回るつもりなの。だからね、皆さん。すごいのは私じゃなくて、女神様よ。私は上位世界から来ているのと、女神様にもらったこの武器のお陰で強いの」


 ハルはここぞとばかりに、自分はすごくないアピールをする。


「だからお願いなんで、拝まないで! ヨハネスさんも、今更、様で呼ばれると鳥肌が立つからやめて!」


 ハルの拒否に、ヨハネスが微妙そうな顔になる。


「そこまで嫌がらんでも……。女神様の使いってだけで十分すごいだろうに」


 溜息を吐いたヨハネスは、ホワイトグレーの髪をぐしゃぐしゃと掻き回してしばらくうなっていたが、ようやく頷いた。


「分かった! じゃあ、元の通り、ハルちゃんと呼ぶからよろしく頼むな」

「はい、よろしくお願いします」


 お互いにがっしりと握手をしたところで、周りも自分達もそうすると声を揃えた。カサリカはとても納得だと、何度も頷いて言う。


「ハルちゃんが黒い髪と目なのに、高い能力を持っているのが不思議だったんだけど、女神様の使いならおかしくないわよね。高性能な武器と身体能力で補ってるのかと思ってたわ」

「見た目については、私が違う世界の人間だから、この世界の法則から外れてるせいだと思うわ」

「そういうことか」


 ヨハネスが声を上げる。


「だから、黒の御使いってメロラインさんがおっしゃってたんだな」


 ヨハネスも大いに納得したようだ。

 ハルは苦笑いをする。


「その呼び方、まんますぎて微妙なんだけど……まあいいわ。とりあえず、皆さん、変わった景色を知っていたら、私に教えてください。リスティア様が喜ぶわよ」


 女神の名前を前面に出して、情報を求めると、皆の表情が輝いた。


「ご利益ありそうだな。よし来た、とっておきの場所を教えてやるよ!」

「支部長、ずるいっす。まずは俺達から」

「いやいやここは、隊商の長である私から」


 我先にと話し始めようとするのを、ハルはパチパチと手を叩いて止める。


「喧嘩しないでくださーい。話す順番で何かが変わるわけではないんで、この仕事の間にゆっくり教えてください。私も覚えきれないから」

「分かりました!」


 返事をして、何の話をするんだとわいわいと盛り上がり始める隊商と護衛達。

 場が落ち着いたのを見て、ヨハネスが右手を大きく挙げて注意を引く。


「よし、皆。ひとまずここで解散としよう。野宿の準備をしようや。夜になると面倒だ」


 日が沈み始めたのを見て、皆、慌てて準備を始めた。


「じゃ、ハルちゃん。また後で話そうぜ」

「はい、よろしくお願いします」


 護衛の指揮を執るため、ヨハネスとカサリカもハルの傍を離れていく。ハルはようやく人心地がついた。

 だが、メロラインは難しい顔をしている。


「よろしかったんですか、ハル様。そんなに大々的に広めてしまって」

「え、駄目だった? 内緒にしろなんて、女神様には言われてないけど」


 きょとんとするハルに、メロラインが小声で言う。


「だってハル様は人間とは戦えないんですよ? 変な人に付きまとわられたらどうするんですか」


 ハルはぱちくりと目を瞬いた。メロラインの眉間に皺が増えた。


「考えてなかったんですね?」


 誤魔化しても仕方がないので、ハルは素直に頷いた。


「う、うん。だって、なかなかイイネが付かないから、皆に協力してもらったら早いかなって。……ええと、駄目だった?」

「ハル様ってすぐにここに慣れてしまうし、しっかりなさっているけど、少し抜けてらっしゃいますわよね」


 呆れるメロラインに、ハルはじとりとした目を向ける。


「いや、それ、メロちゃんには言われたくないんだけど」


 真面目でクールなのに、人酔いしたり車酔いしたり、見ていてハラハラするメロラインなので、ハルにはとても心外だった。


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