Photo2 さまよえる死人たち 01
結論から言えば、ユリアスは騎士団所属の職人達に怒られた。
「修理箇所を増やすなんてひどいです、殿下!」
「ただでさえ予算を減らされて、材料が少ないんですよっ」
職人達はちょっと涙目である。
たじたじになっているユリアスに、ハルは横から茶々を入れる。
「かわいそー。ユリユリがやりすぎるから……」
「弱体化していた時の感覚で魔法を使うと、ああなるんだ! まだ勘が戻らないのだから、しかたがないだろう!」
「わっ。私にだけ強く言い返すなんて、サイテー」
「お、おい、本気で引くなよ、俺が悪かった!」
へそを曲げるハルを見て、ユリアスは分かりやすくあたふたした。
そんなユリアスを眺め、職人達はほろりときたらしい。
「敬愛する団長が、女性の対応でうろたえていらっしゃる」
「鈍感なところもおありだから、ハル様のはっきりしたおっしゃりようはありがたい。良い方がお傍にいてくださってうれしいことだ」
「団長、応援しています!」
年配者の多い職人達は、すっかり我が子を見るような目をして、ユリアスを励ました。
「は? どうして応援されたんだ? さっきまで怒っていたのに」
「そういうとこが鈍感なんだよねー?」
ハルが職人達に問いかけると、彼らはいっせいに頷いた。
「それにしても、材料が少ないの? 資金が足りないだけなら、私も出すよ」
東側の沼地を旅した時に、鉱龍を何体か狩った。その時の死骸が、まだ夢幻鞄に入っている。高価すぎて市場が混乱するから、出していない状態だ。それをちょっと売れば、材料費くらいまかなえる。
職人は残念そうに、首を横に振った。
「エルドアは石切り場となる山が少ないので、石材は国が管理しています。できるだけ再利用することになってるんですよ。予算とともに、材料も減らされたので……」
「そういう事情があるのね、なるほど。ねえ、ユリユリ。近場で採ってきちゃ駄目なの?」
すると、ユリアスは考え込む仕草をする。
「メロラインが用意してくれた資料を読んだが、近辺に岩場はなさそうだ」
「えっ、じゃあ、あのお城はどうやって建てたの?」
「恐らく遠くから運んできたんじゃないか?」
「えーと、奇岩地帯とか? 岩がたくさんあったよね」
ハルの問いかけに、職人が苦い顔をして返す。
「ハル様、あそこの岩はやわらかすぎて、建材には向きません。雨が降るだけで、劣化しますからな。もって数年ですから、城に使うには……」
「ああ、そっか。石灰岩ってそうだっけ」
世界遺産にも、奇岩があったことを思い出し、ハルはがっかりした。大理石ならば使えただろうに。
「魔法で岩を出すのは?」
「魔法で呼び出した岩は、一時的にしか具現化できない。時間が経つと、エネルギーに戻って女神様のもとに還る」
「へえ、そうだったんだ」
「お前な……、半年は一緒にいたのに、どうして気づかないんだよ」
ユリアスに呆れたっぷりに駄目だしされた。
「しかし、魔法か。そういえば」
ユリアスは影庫から、メロラインがくれた書類の束を取り出した。パラパラとめくっていく。
「どうしたの?」
「この城を襲撃する魔物の種類を書いてくれていたんだよ。昆虫が多いとのことだったが……、ああ、これだ。もしかすると、城の材料はこれかもしれないな」
ハルは横から書類を覗く。
「ロックゴーレム?」
「そうだ。魔物の死骸は残るだろう? ロックゴーレムの死骸は岩と土だ。城の向こう側、西のほうに多く生息しているらしい。今回は東側しか偵察していないから、明日はあちらに回ってみよう」
ユリアスが出した解決策に、職人達はわっと湧く。
「石材になる魔物ですか、それはいい!」
「わしらもご一緒しますぞ!」
職人達はやる気たっぷりで、ハンマーを取り出してぶんぶんと振る。血の気が多いことだ。
「あれ、職人さん達は非戦闘員じゃないの?」
「騎士様ほどじゃありませんが、いざとなれば共に戦いますぞ! 我らも赤の騎士団の仲間ですからな」
ふんっと力こぶを見せつける彼らは、一般人より強そうだ。
「彼らは道具を作り出して、後方支援をしてくれるが、自衛はできる。でなければ、赤の騎士団についてこられない」
「精鋭だけあって、さすがだねえ」
ユリアスの説明を受け、ハルはそれもそうかと思いなおした。身を守れない者が、魔物の脅威に最もさらされる前線に出るなんて、死にに行くようなものである。