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女神さまだってイイネが欲しいんです。(長編版)  作者: 草野 瀬津璃
第二部 赤の騎士団立て直し編
40/43

 05



 翌日の昼には、廃城ダウンが見える辺りに着いた。


「よし、では、準備が整うまで、浮き水晶周辺を仮の拠点とする。あの通り、魔物がうじゃうじゃいるからな、単独行動はつつしめ! 必ず二人、もしくは三人の少数パーティを組んで行動しろ。仲間とはぐれた時は、無理をせずに拠点まで戻ること、以上だ」


 赤の騎士団を見回して、ユリアスは団長らしく指示をした。


「はっ」


 彼らは声をそろえて返事をする。


「では、陣地を築け。フェル、念のため、簡易式結界維持機も発動させておけ」

「かしこまりました、団長」

「指示に困った時は、フェルか俺に直接聞きに来い。解散!」


 ユリアスの号令に返事をして、騎士団の人々はきびきびと動き始める。

 よく統率された人達だと感心しながら、ハルはユリアスのほうに近づく。


「女神スポットがあって良かったね、ユリアス」

「ああ。でなければ、もう少し戻った辺りに陣を築かなければならなかったな。――女神様の慈悲に感謝します」


 ユリアスは浮き水晶に向けて、祈りをつぶやいた。

 子どもの身長ほどある大きな青い水晶は、なぜか宙に浮かんでおり、その周囲を不思議な文字が囲んでいる。世界の各地にあり、触れようとしても手がすり抜けるが、浮き水晶の近辺は魔物が近寄らないため、旅人にとって安全な野宿ポイントになっていた。


 ハルにとっては、ハルが触れると意識だけが女神と会えるため、女神スポットと呼んでいる。

 女神リスティアとはついこの前に会ったばかりなので、今回は触れないでおくことにした。それに良い写真も撮れていない。


「それにしても、圧巻だねえ。(あり)の群れみたいで気持ち悪いなあ」


 ハルは遠い目をした。

 崩れ落ちた城壁に囲まれた要塞の中と外を、まるで甘い蜜にむらがる虫みたいに、魔物がひしめいているのだ。

 集合体恐怖症の人間が見たら、絶叫すること間違いなしである。


「撮影」


 鳥肌が立ってしかたがないが、何が神様の心をときめかせるか分からない。ハルは両手を使って絵の構図を探るようなポーズを取ると、フォトの魔法で撮影する。


 こうして撮った写真は、女神とハルしか見ることのできない夢幻フォルダに転送され、そこから、女神がジンスタグラムに投稿するのだ。あいにくと、ハルは女神リスティアのジンスタグラム以外は閲覧できないため、他の神々の人気投稿を見られないから参考にもできなかった。


「げっ。イイネが十個ついたんですけど……。本当に、神様の趣味は意味不明」

「相変わらず、神々の評価はよく分からないな。だが、魔物が神のお気に召すことだけは共通しているようだ」

「私からしたら、あんなの、不気味なだけなんだけどね」

「そうだな。不気味な絵が好きな人間もいるから、神がそうでもしかたがないんじゃないか?」


 無難なことを言って、ユリアスは苦い顔をする。


「しかし、何があんなに魔物を()きつけるんだろうな」

「魔物ってエネルギーを取りこんで強くなるんでしょ? なんかこう、地脈的なエネルギーポイントとかだったりしないの?」


「ハルの言う通り、魔力が湧くポイントはあるが、それならば俺でも感じ取れる。ハルはどうだ? 気配は魔物と似たようなものだぞ」

「いやあ、まったく。だから不思議なのよねえ」


 そんなに分かりやすい理由ならば、こんなに何度も廃城になる前に、先人が気づいているはずだ。


「ねえねえ、ユリユリ。ちょっと偵察がてら、散歩に行ってみない?」

「そうだな。有角馬は魔物におびえて暴れそうだから、徒歩で行くか」


 ユリアスは杖を持ち、ハルも弓になったユヅルをたずさえた。


「フェル、ちょっといいか」


 ユリアスがフェルに不在を告げると、フェルはおおげさに反応する。


「二人で偵察ですって? 我々もまいります!」

「無茶をするつもりはない。どんな様子か見てくるだけだ。それに、俺達の魔法の邪魔になるから、お前達はここで陣地を築く仕事をして待っていろ」

「邪魔ですって!」


 フェルはムッとしたようだが、ユリアスは首を傾げる。


「黒の御使いと、力を取り戻した俺にかなう奴が、この国にいるのか?」

「う……っ。いませんけど! ああもう、分かりましたよ。ですが、夕方までにはお戻りくださいね!」


 ハルとユリアスのタッグが、現在、この国で最強レベルだと思い出したフェルは、ものすごく嫌そうに受け入れた。

 時に上から目線で強引なユリアスを知っているハルは、フェルの心配ぶりが不思議でならない。


「フェルさんって、意外と過保護ねえ」

「殿下が無茶ばかりするからです!」

「国の滅亡がかかってるわけでもないのに、無理なんてしない。約束する」


 ユリアスが真摯な態度で宣言したので、フェルはうなだれた。


「そこで素直におっしゃられると、何も申せませんよ。お気を付けて行ってらっしゃいませ」


 負けた……と悔しそうにため息をつき、しぶしぶ送り出してくれた。




「フェルさん、あんまりツンツンしてないじゃない? どっちかと言うと、世話焼きなお母さんみたい」

「どうやらこの三年で、心労をかけまくったようだな」


 街道を走りながら、ハルが話しかけると、ユリアスは複雑そうに返事をする。


「あいつの母親が、あんな感じだ。子どもの頃は、心配させるなと叱られたものだよ」

「幼馴染なの?」

「ああ。フェルの父親は、王家に仕える学者でな。俺の教育係だったんだ。その関係で、母親のほうも世話係をしていて、フェルとは、一緒に学んだり遊んだりして育った仲だ」

「王族もそんな感じで友達ができるのねえ」

「まあな。友であり、家臣だ」


 思い出話をするユリアスは、自然とやわらかい表情になる。


南都(なんと)イザレインに行かれる前までは、兄上ともよく遊んだものだ」

「……は? 兄上? あのおっかない陛下と?」


 耳を疑い、ハルは思わずユリアスの横顔を凝視した。


「まさか! 二番目の兄で、サマナ兄上だよ。あまり力は強くないのだが、農業に関心があって、穀倉地帯の監督をされているんだ。多忙な方だから、旅でも会えなかったが、物資は用意してくれていただろう?」


「あ、そういえば、前に、ユリユリを都市の外に出すことを、グレゴールさんと二番目のお兄さんだけ反対したって言ってたっけ。味方?」

「ああ。陛下のことを苦手に思われているから、表だって反発したのはあの時くらいだったな。がんばってくれて、うれしかったよ」


 他の家族は冷たい母親や妹だったので、ちゃんと仲の良い兄弟もいるのだなと、ハルはほっとした。


「こちらの拠点が落ち着いたら、サマナ兄上に会いに行こう」

「うんうん、そうしよう。今なら、堂々と南都に入れるもんね」


 そんな話をしているうちに、廃城の近くまで着いた。ハルとユリアスは足を止め、人間の接近も気に留めず、廃城をなめくじのように這いまわる昆虫型の魔物を眺める。


「ふう、近くで見るとますます気持ち悪い」

「巨大化したギーカーがうようよしているぞ。鳥肌が立つ」


 大きなムカデだけでも嫌なのに、どうやらクモがいるようだ。それを餌にして、蛇やトカゲも集まっている。魔物同士が鉢合わせ、戦いが起きて、どちらかが勝つ。ほぼギーカーの勝利のようだった。


「ねえ、蛇がいるよ。あれってナーガ種?」

「いいや、ナーガ種は鉱龍からのことだ。等級五か、六の雑魚だろう。後で記録係に確認しよう」


 ユリアスはあの蛇の魔物の名前を知らないようで、手早くメモを付けた。


 等級というのは、魔物のランクのことだ。


 魔物討伐連盟という、兵士や戦士が必ず登録する組織があり、そちらでは戦士の強さによってランクが付けられている。色位(しきい)といい、強い順に、金・銀・銅・灰・黒に分かれていた。


 一方で、魔物は強い順に、七つの等級に分かれている。一はドラゴン種、二はナーガ種、三は死人種、四はゴースト種、五が毒を持つ雑魚で、魔法を使うものもいる、六は簡易魔法を使う雑魚、七は雑魚だが一般人には脅威となる……というような分類だ。


 金は等級一を倒せる者のことで、銀は等級二、銅は等級三と四、灰は等級五、黒は等級六と七だ。

 ちなみに、ユリアスはこの国で唯一の銀の色位を持っている。

 ドラゴンは災厄レベルで、もし現れたら、ほぼ国が滅ぶそうだ。


「メタリッカはいないよね?」

「いない。この辺りにはニガミドリの葉が生えていないからな」


 ユリアスの返事に、ハルは心から安堵した。

 メタリッカ。雑魚の魔物だが、ニガミドリの葉を食べるため、体内で発酵した草の汁のにおいがやばすぎて、その汁を柵に塗っておけば、他の魔物が近寄らないほどだった。ちなみに、手につくと一週間はにおいが落ちない。


「とりあえず、外側をやっつけちゃう?」

「俺がやる。力が戻ってから、魔法の加減が難しいからな。ちょうどいいから練習台になってもらおう」


 ユリアスは眼前に杖を構え、じっと集中した。どこからともなく空に黒雲が現れ、一瞬の後、廃城に雷雨が降り注いだ。


 ――ドーンッ


 すさまじい雷鳴に、ハルは思わず耳を手で押さえる。明るい昼間にもかかわらず、辺りを照らし出すほどだった。


「わあ、ユリユリってば。修復箇所が増えちゃったね」

「……すまん」


 廃城の崩れかけの城壁は一部がえぐれ、黒く焦げて煙がたなびく。

 外側の魔物はあらかた死んだようだが、これは騎士達を連れてこなくて正解だったと、ハルは自分達の判断に満足した。


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― 新着の感想 ―
[良い点] おお、第2部が始まったんですね! ハルちゃん達にまた会えて、嬉しいです。 [気になる点] ハナブタ…いつ読んでも美味しそう。 [一言] 第1部の時と違って、ブクマを使いこなしているので い…
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