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女神さまだってイイネが欲しいんです。(長編版)  作者: 草野 瀬津璃
第二部 赤の騎士団立て直し編
38/43

 03



 廃棄された中央街道は、雑草におおわれている。しかし石畳がある場所だけ草の色合いが違うため、遠目からは草原の中に線が引かれているように見える。

 大所帯がゆっくりと進む中、ハルは魔物の接近を騎士達に教えたり、自分も魔法の矢で撃ち抜いたりして、快適に旅をしている。


「黒の御使い様、どうやって魔物に気づいているのですか? 訓練した斥候(せっこう)ですら気づかないものも言い当てますよね」


 有角馬に単騎で乗っているフェルは、驚きと感心をこめて、ハルに問う。


「うーん、なんとなく分かるのよね。あ、あっちにいるなあ」


 ユリアスの後ろに座ったまま、ハルは遠くを見やる。


「ああ、あれか」


 その魔物にユリアスが気づいて、魔法を放った。落雷によって、潜伏していたギーカーが黒焦げになる。巨大なムカデのような魔物だ。

 騎士団の中でも下位の騎士が、すぐさま魔物の核を回収しに駆けて行った。


「私も目は良いほうですが、お二人ほどではありません。どうしてこの距離で見えるんですか」


 呆れているフェルの言葉を聞いて、ハルは笑った。


「あはは。メロちゃんと同じことを言ってる~。私は上位世界から来たのと、女神様の加護のおかげよ。この場合、ユリユリがおかしいのよね」


 ユリアスは有角馬の馬上から、ハルをにらむ。


「ユリユリって呼ぶな。お前な、俺の威厳とか考えろよ」

「そんなことを言ってるから、くそ真面目で固すぎるんでしょ。いいじゃん、ユリユリ。かわいいでしょ」

「じゃあ、お前はハルハルか?」

「呼んでもいいけど、なんかそれで呼ぶユリアスのほうが馬鹿みたいだよね」

「おい!」


 ハルがあわれみを浮かべると、ユリアスはこめかみに青筋を立てる。

 このやりとりに、フェルは目を丸くする。


「殿下、本当に丸くなられましたね。真面目すぎて冗談も通じなかったのに」

「フェルさん、冗談が通じなくて天然なのは、今でも変わらないから安心して」

「はは、そうですか。ああ、そうだ。私のことはフェルと呼び捨ててください、黒の御使い様」

「私のことも、ハルでいいわよ」

「はい、ハル様」


 ハルとフェルが気安く言い合っていると、ユリアスは面白くなさそうに口をゆがめる。


「二人して、好き勝手に言うな」

「はいはい。ごめんってば」


 ユリアスがすねると面倒くさいので、ハルはひらひらと手を振った。


「ところで、殿下、ハル様」


 フェルはおずおずとこちらをうかがう。


「なんだ?」

「先ほどから気になっていたのですが……。もしやお二方は交際されているとか?」


 フェルが質問すると、騎士達の視線も飛んできた。ハルは手を振る。


「ううん、付き合ってないわよ」

「告白はしたが、返事はもらってないな」


 ユリアスがあっさりとそんなことを言うので、ハルはぎょっと目をむく。


「えっ!? それ、言っちゃうわけ、ユリユリ!」

「事実を告げて何が悪いんだ?」

「そういうところが頭が固いんだよ!」


 ハルは頭に手を当てる。ユリアスは首を傾げた。


「ほんっと天然だよねえ。事実ならなんでも口にしていいわけないでしょうが。情緒とかないわけ~?」

「我が主が申し訳ありません、ハル様。後で言っておきます」

「フェルさんが謝っちゃったよ! 駄目だよ、そうやって甘やかしちゃ。言わなきゃ分かんないんだから、この人」


 ぷんすかと怒るハルに、騎士団の女性達から同情の目が向けられる。男性のほうも、「あーあ」という顔をして首を横に振っていた。


「すみません。しかし、そんなに親密なのに、付き合っておられないのが不思議なのですが」


 フェルは謝ったものの、納得していないようだ。


「なんで?」

「自然とタンデムされてますし」

「私は有角馬に乗れないんだよね」

「気安く会話をしておられます」

「友達だからねー、こんなもんじゃない?」


 ハルの大雑把な返事に、フェルはやはり首をひねる。ユリアスがふんと鼻を鳴らす。


「ハルは明るくてうるさくて、誰にでも気さくだから、こんなものだ」

「うるさいは余計なんですけどー」

「文句があるなら、とっとと返事をよこせ」


「ええー、今すぐは嫌だな。ユリユリはさあ、私みたいなのが物珍しいだけなんだって。本来の場所に戻ってから、よーく考えたほうがいいよ」


 ハルはユリアスの背中をポンと叩くと、飛翔の魔法を展開して、ふわりと空に舞い上がる。そのまま、近くの馬車の屋根に降りて座った。

 ぎこちない空気が漂い、フェルが頭をかいて謝る。


「えーと、なんだか申し訳ありません、殿下」

「構わん」


 ユリアスはため息をついて、視線を前に戻す。しつこくしないだけ、ありがたい。


(はあ、まったく。大勢の前でする会話ではないわよねー)


 たまに見せるユリアスの無神経さに、ハルはイラッとし、白猫のユヅルをなでて気持ちを落ち着かせた。


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