04
結論から言えば、ユリアスを旅の案内人に選んだのは大成功だった。
ユリアスは風土に詳しい。町の中でさえなければ、この二年で国中をほとんど網羅したというだけはある。
西の砦町周辺を見て回った後、そのまま南下して、南西の砦町でも写真スポットを探した。
ユリアスを狙って魔物が寄ってくるので、二人で倒しては、素材や核を拾い集め、分け合ったものを町で換金する。そうすると、自然と結構な勢いで金が貯まっていく。おかげで、小屋に置いている家具や日用品がどんどん充実してきた。
七日目の夜、焚火を囲んで夕食の準備をしながら、ハルは考え事をしていた。
「これはお風呂用の小屋も手に入れるべきかも」
「俺はもう何も言わない」
ハルの独り言に、ユリアスは呆れ返った答えを返す。ハルは気にせず、ぶつぶつと呟きながら思案する。
「でも、メロちゃんがいないからなあ。夢幻鞄に入れる時に、人の目を誤魔化せないし……。そうなると、大きめのテントを買う? 買っちゃう?」
「わざわざそんなものを買わなくても、町に着いたら宿に泊まるなり大衆浴場に行くなりしてくればいいだろう」
「それはそれ、これはこれよ」
「勝手にしてくれ」
投げやりに返し、ユリアスは焚火を棒先でがさがさと突く。表面が黒く焦げた丸い塊が、ころころと足元に転がった。塩を振った木の実とキノコ、魚の切り身を大きな葉っぱでくるんで焚火に放り込んで焼く野営料理だ。
魚は、ハルが町で手に入れてきた塩漬けだ。中の国エルドアには海が無いが、川や塩湖はあるらしく、川魚の塩漬けが市場に多く出回っている。塩漬けと燻製が、定番の保存食らしい。
葉を木の棒で綺麗にはがすと、程よく蒸し焼きされた料理が顔を出した。
「うまそうだ」
ユリアスはこの包み焼きが好きらしく、一日に一回は食べている。
「王子様なのに、料理ができるのって意外。しかもアウトドア料理じゃん」
もう一個をハルの前に転がしてくれたので、そこからはハルも棒切れでつついて、包みをはがす。フォークで刺して魚を食べると、素朴で優しい味がした。
ユリアスは自分の分を食べながら、何を今更という目でこちらを見た。
「俺はこうなる前は、赤の騎士団団長だったんだ。幼い頃から師匠について訓練しているし、供とはぐれても生き残れるように、一通りは仕込まれてる。だから元々、野宿には慣れてるんだ」
「赤の騎士団? 王様の騎士団みたいな感じ?」
「違う、それは近衛騎士団だ。国の兵士の中でも、精鋭がそろっている部隊のことだ。大物の魔物が出たら、赤の騎士団が出向いて倒すんだ。赤は血の色でもある。血を流しても民を守る騎士団という意味だ」
ユリアスはにやりと笑った。その横顔が誇らしげで、なんとなくハルは微笑ましい気持ちになる。
「そっか、ユリユリはこの国では最強だったから、そこの団長だったってわけね」
「ああ。十五の時には国内トップだった。あの頃は髪も白くて、目の色も金だったからな」
「え?」
意外な言葉だった。
ハルはユリアスの容姿を観察する。どう見ても、灰色の髪と琥珀色の目だ。白い髪と金目というと、女神リスティアとほとんど変わらない色だ。
「この呪いは、魔を呼び寄せるだけじゃない。俺自身も弱体化していくんだ」
「そうなの!?」
あまりにもびっくりする真実に、ハルの声が裏返った。
「この仮面はそれを遅らせる補助具なんだ。だから触るなと言ってる」
「それは……分かるけど。でも、そんな。だってそれじゃあ」
ハルは予想される結末に愕然となった。
町に入れず、ほとんど外をさすらう生活をしているユリアスだ。いつか弱ったところで、魔物に殺されて終わりだ。
「なんでそんな状況なのに、家族は何も言わないの!?」
家族ならば、ユリアスを守ろうとするのが普通ではないだろうか。力の無い者ではなく、彼は王族だ。資産も力もあるのだから、人を雇うなりすれば良い。
「今の王が決めたことだ。二番目の兄と叔父上は反対して、手を尽くしてくれたが駄目だった」
「今の王って……つまり一番目のお兄さん?」
恐る恐る問うと、ユリアスはあっさりと頷いた。ハルは眩暈を覚えたが、迷いつつ問う。
「えっと、お兄さんと仲が悪い?」
「俺は家族だと思っているが、あっちが俺を毛嫌いしているんだ」
「ええとええと……腹違いの兄弟?」
「同じ正妃筋だぞ」
「うっそー! ありえない! なんなの、そのクズ!」
思わず立ち上がって、ハルは怒りのままに、違う方を向いて叫ぶ。ユリアスは冷静に問う。
「落ち着いたか?」
「まあ」
「とりあえず座れ」
ユリアスが落ち着いているので、ハルも気持ちが鎮まった。バスマットほどのラグの上に座り直して、また包み焼きをフォークでつつく。力を込めてつついていたら、硬い木の実があらぬほうに飛んでいった。
「分からないでもない。兄には俺が邪魔だったんだ。当時はまだ父も生きていてな、最有力の次の王が俺だったんだよ」
「三男なのに王様候補なの?」
「この国の継承順位は、血筋以外では外見の色と能力だ」
「だからって、何その恩知らずって感じ!」
我慢できずに、ハルはくわっと目と口を開けて悪態をつく。ユリアスが噴き出した。
「言いたい放題だな」
「怒らないの?」
「怒ってどうなる。呪いが解けるならそうするが、そうでないならただの無駄骨だ。兄と争いたくない」
「最善は争わずに勝つ、だっけ。ユリユリは大人だね」
ハルは感心しきりで、ユリアスを褒めた。
「そんな時間があるなら、他のことをしていたほうが有益だろう。恨むのも怒るのも疲れる」
「訂正。ちょっとおじいちゃんくさい」
「うるさい」
悟りすぎて老人じみていると茶化すと、ユリアスが素早く言い返した。
最初は、ユリアスを口の悪い嫌な奴と思っていたハルだが、数日も共に過ごせば、単に思ったことをはっきり言いすぎて、誤解されやすいだけだと分かってくる。文句だけでなく、褒める時もストレートだ。本人はいつでも大真面目なのが面白い。
「そういえば、今日が七日目だ。どうするんだ?」
「もうそんなに経ったっけ?」
「おいおい、お前のほうが老人に近付いてるんじゃないか」
「ちょっと日にちを忘れただけでしょーが」
イッと歯を見せて威嚇してから、ハルは姿勢を正す。
「結構楽しかったし、ユリユリが問題ないなら、旅のバディを続行してくれると嬉しいな」
改まるとなんだか気恥ずかしい。ハルはユリアスの前に、右手を差し出す。
ユリアスはしばし手を見つめてから、握手を返す。
「……まあ、暇つぶしくらいにはなる」
「素直じゃないー!」
「うるさい」
手を離し、ぷいっとそっぽを向いたユリアスの耳が赤く染まっていたので、照れているようだ。
あんまりつつくと蜂みたいに怒り出すから、ハルは気付かなかったことにして、包み焼きを頬張った。
アマゾンに住んでる部族とかが、葉っぱの包み焼き食べてるけど、あれおいしそうだよね。TVで見た時は、川魚と野菜とパクチーが入ってたな。(パクチーは嫌いだけど……)
この作品、「綺麗にまとめる」のをあきらめて、断片の使徒みたいに気ままに書きはじめたよ。
大筋は決めてあるから、それに沿いながら適当にのんびり書く~。
「戦友みたいな恋愛」を書いてみたくてね。友情がベースなのも楽しくていいかも。




