Photo3 神さまのおもざし 01
「まったく……訳が分からん」
焚火に木の枝を放り込みながら、ユリアスが悪態をついた。
「え? お腹空いた?」
「言ってない!」
ちょうど串焼きの入った包みをがさがさしていたハルは、きょとんとした。
「串焼き、いらないの?」
「……いる」
ハルは一本とって、大きな葉っぱが敷かれた簡素な木箱をユリアスに渡す。ハナブタの串焼きはおいしいので、すっかり好物になっている。
「この香辛料がついてるの、おいしい!」
「そうだな」
「なんで疲れてるの?」
「常識外のことを次々に見せられて、疲労しないと思ってるのか。馬鹿が」
「また馬鹿にするーっ。王子様のくせに、口が悪いんじゃないの? ユリユリ」
「ユリユリって呼ぶな!」
ユリアスの文句を聞こえない振りをして、ハルはちらりと小屋を見やる。
夕方に戻ってきた後、町から離れたところまで移動して、木陰にこの小屋を出した。夢幻鞄には色んなものを入れられるので便利だ。女神にもらったもので、これが一番うれしい。
「もしかしてお金を分けるって言ったのに、小屋を買ってすっからかんになったから怒ってるの? 共同利用で許してよー」
ハルの抗議に、ユリアスは眉を寄せる。
「怒ってないって言ってるだろ。天幕どころか、小屋を持ってくるお前のぶっとびように呆れてるだけだ」
「だって、屋根と壁と床って大事じゃない? 外には虫がいるし、地面に寝ると痛いし。ベッドを置けるのって最高だよね」
「こんな平坦な所だけじゃないぞ」
「テントとベンチとお布団セットはあるから、その時はそっちだね」
「もういい……常識を語り合うのが馬鹿らしい」
ユリアスは首を横に振り、会話を中断した。ハルはいかに大変だったか説明する。
「この小屋を夢幻鞄に入れるの、すっごい苦労したんだよ? 組み立てるのは、大工さんがすぐにしてくれたけど、見つからないように収納するのって大変で。メロちゃんに見張ってもらって、ちょうどいいタイミングでこうシュッと」
「お前の苦労のしどころがすでにずれてる」
「大変だったね、ありがとうって言ってくれない?」
「……大変だったな、ありがとう」
反論するのも面倒なのか、思いの他、素直にユリアスは返事をした。それでハルは満足して、やかんで沸かした湯をポットに入れる。
「はい、お茶。とりあえずさあ、一週間よろしく。旅のバディに合わない時は、その時点で解散ね!」
「バディ?」
「相棒のこと」
「分かった。しかし、妙な奴だ。俺についてこようなんて」
「案内人に選んだだけだよ。一人くらい、変わったのがいてもいいじゃん。だから面白いの」
「ふうん」
ずずっと茶をすするユリアスに、ハルは右手を出す。
「問題ないなら、はい、よろしくの握手!」
「……断っておくが、俺は、嫌なことは嫌だと遠慮せずに言うからな?」
「ユリユリがいつ遠慮したの? びっくりだよ」
「うるさい」
文句を返しつつも、ユリアスはハルと握手した。
「はい、じゃあ、よーろーしーく!」
ハルは腕をぶんぶんと振ってから、手を離す。ユリアスは不思議そうに自分の右手を見ている。
「お前、あんなに強いくせに、手にマメもないのか。やわらかくて驚いた。弓を使ったら、この辺が硬くなるだろ」
ハルの右手を示すユリアスに、ハルはユヅルを見る。
「これは女神ちゃんにもらった魔法の弓だからね、そのせいじゃない? あ、ユヅルは私以外は使えないから、気を付けてよ」
「女神を喜ばせるための使者か。絵を描いてまわって欲しいなんて、不思議な願いだな。神なら、自分の目で色々と見られるだろう?」
ユリアスの疑問もよく分かる。だがハルは、泣きついてきた女神リスティアと会っているので、違和感はない。
「女神ちゃんががんばって無理だったから、仕方ないじゃん。私もがんばったけど、まだ全然だよ。建物の写真は全然駄目。他の神さまにはありきたりなんだって」
「住む土地や気候で文化の違いが出るが、そんなものは世界ごとだと似通って見えるのか? 面白いな」
ふんふんと興味ぶかげに頷くユリアスに、ハルは右手をびしりと上げる。
「はい、ではここで、バディ会議を行います。これからの旅に当たり、気を付けて欲しいことはありますか?」
「ユリユリって呼ぶな」
「却下」
「はやいな、おい!」
即座に言い返すユリアスに、ハルはけらけらと笑う。
「他には?」
「仮面には触るな。取るな。呪いの進行を遅らせてる補助具だから」
「やだなあ、ひとの持ち物には、勝手に触らないよ。そうだ、長時間離れる時は一言断ってね。探すのは面倒だから」
「分かった」
ユリアスは考える仕草をする。
「俺は今は特に思いつかないが、魔物の数が多い時は寝ていても起こせよ」
「了解です。私はねえ、あ、言うの忘れてた。私、人間の相手は出来ないから、よろしく」
「そういやあ、洞窟でもおかしなことを言ってたな」
思い出したのか、詳細を話すよう促すユリアスに、ハルは女神にかけられた制限について話す。
「なるほどな、人型の魔物はどうだ? たまに、人間に化けてるやつがいる」
「魔物だから大丈夫だと思うよ」
「それなら問題ないだろう。奇岩地帯の山賊みたいなのは、滅多といない。あれは絶滅危惧種だ」
「ヨハネスさん達と同じこと言ってる」
ハルが笑うと、ユリアスは肩をすくめる。
「だいたい、狙われるのは群れから離れたやつだ。動物でもそうだろ? 子どもや怪我をしたやつが群れから外れると、そこを天敵が襲う」
「弱肉強食だね」
「そういうことだ。分かった、だが……」
気まずそうにするユリアスに、ハルは目で問う。
「会ったばっかの男相手に、弱点を話すのはどうかと思うぞ。お前、一応、女だろ。一応」
「そこまで強調しなくていいでしょ! 性別は女よ! お・ん・な!」
「少しは警戒しておけと言ってるんだ。せめて人となりが分かるまでは隠すとか……」
「ユリユリのことはよく分かんないけど、私はメロちゃんのことは信用してる。メロちゃんがグレゴールさんを信じてて、そのグレゴールさんが甥のあなたをとても心配してるんだから、つまりあなたは良い人なんでしょ」
ハルの指摘に、ユリアスはなんとも反応に困った顔をする。口をパクパクさせた後、目をそらした。
「……どうだかな」
「国のために戦ったせいで呪われたのに、文句一つ言わないんだから、すでに良い人でしょう。私ならムカつくから出て行って、自分のお城を作っちゃうわね」
「建設には人手が足りない」
「そういうことを言ってるんじゃないわよ。安全な場所に家を用意して、そこだけで暮らすってこと。誰かのために魔物を狩ったりはしないわ」
ハルの意見に、ユリアスは首を横に振る。
「考えたこともない。王族は、民のために尽くすものだ」
「本気で真面目なのねえ。それにさ」
「ん?」
「あなた、私に興味ないでしょ?」
ずばりハルが問うと、ユリアスは面食らう。
「お前の世界の奴は、そんなに堂々と人間関係に線を引くのか? つまり興味を持つな、と」
「え? まさか興味あるの? 一目惚れしちゃった? ごめんね、でも私、流石に付き合えないかな!」
ユリアスはこめかみに指先を押し当てる。
「……おい、どうして今、俺が振られたことになった。迷惑だからやめろ!」
「ほら、それなら問題ないじゃん。それじゃあ、よろしくね」
あはははとハルは笑い飛ばす。ユリアスは心底疲れた顔をして、深い溜息を吐く。
「俺はすでに不安だ。こんな変な奴、どう対応すりゃあいいんだか」
「ユリユリもなかなか変だよ」
「うれしくない!」
怒るユリアスを適当に流し、ハルは木箱から串焼きを取り出して頬張った。
・2018.4/6 紙袋⇒木箱に修正。
次のページで紙の貴重さについて話してるのに、商品を紙袋でもらってたらおかしいよね(笑)




