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 08



「山賊に捕まってたんすか?」

「ああ。宿代わりに便利だったんで、牢屋で休んでいた」

「はあ」


 ユリアスののんきな返事に、ヨハネスは反応に困ったようだった。気のない声を出して、ハルを見る。


「ちょっと私を見ないでくださいよ、この人が変わってるのは私のせいじゃないんで」

「お前に変わってるなんて言われたくない」


 ハルはユリアスをにらんだが、彼の言葉に、周りがいっせいに頷いたので、そちらもにらんだ。


「仕方ないですよ、ハル様。女神様の御使いですし、黒髪黒目なのにお強いし、空まで飛んでしまっては……なんかもうどうしようもない感じ」

「他に言い方はないの!? メロちゃん」


 メロラインの取り成しに、ハルは思わず詰め寄った。ユリアスは深い溜息を吐く。


「叔父上が丁重に扱えというなら、王子としてはそうせねばなるまいな。ああ、面倒くさい」

「本音がだだ漏れですよー、王子様ー」


 ハルはわざと丁寧な呼び方をして、ユリアスにツッコミを入れる。


「まあ、なんにせよ、無事で良かったよ。山賊も捕まえたし、そろそろ奇岩地帯を抜けよう。またダータンに襲われちゃかなわない」


 ヨハネスの提案に、皆、頷く。


「では俺は別ルートで……」

「また言ってるの? ユリユリってば。いいじゃん、一緒に行けば。西に用があるんでしょ?」

「用は特にない。一ヶ所にいると俺を狙う魔物が集中しすぎるから、移動してるんだ。それに俺と一緒では皆が迷惑する」

「えっ、迷惑なの?」


 目を丸くして、ハルがヨハネスらを見やると、彼らは気まずげに目をそらした。

 この空気は分かる。はれものを扱う態度だ。


「国を守るために戦って、それで呪われたのに嫌われるっておかしくない?」

「そうしないと生き残れない者が多いというだけのことだ。俺は気にしてない」


 ユリアスは達観した返事をして、歩き出そうとする。それをヨハネスが止めた。


「いいですよ、殿下。西の砦町まででよければ、ご一緒しましょう。ハルちゃんがいるので、特に護衛の負担にはなりませんしね」


 ヨハネスがヤンソンを見やると、ヤンソンは少し困った顔をしたものの頷いた。


「ええ、構いませんよ。確かにあなたは英雄だ。魔物を退治して回っていただくおかげで助かっているのも事実です。歓迎しますよ」

「ほら、いいって。良かったね、ユリユリ」


 ハルが明るく声をかけると、ユリアスは戸惑った顔をした後、ぼそりと悪態を返す。


「ユリユリって呼ぶな」




 ユリアスの言う通り、それから魔物の数が増えた。

 だが先にハルが見つけて、退治して回ったので特に問題無しだった。

 西の砦町の門前で、ハルはユリアスに礼を言う。


「ユリユリのお陰で、魔物の素材ががっぽりで大儲けできたわ。ありがとう! ちゃんと分けてあげるね」

「お前、本当に頭がおかしいな。こんなことで礼を言われたのは初めてだ」


 ユリアスはしかめ面をしたが、照れているのか耳が赤い。


「照れてる~」

「うるさい!」


 怒られたが、ハルは全く気にしない。

 ムカつく青年だと思っていたが、ツンデレぶりが面白くて、ハルはユリアスを友人みたいにからかっていた。


「ほら、じゃれてないで行きますよ、ハルちゃん」

「はーい」


 カサリカに促され、門へ入ろうとしたハルだが、ユリアスが立ち止まったのでハルも止まる。


「あれ? どうしたの?」

「殿下は町には滅多と入られないんですよ」

「え? でも、この前は王都で……」


 メロラインがそっと教えるが、ハルは納得しないで眉を寄せる。


「あれは兄上に呼ばれたからで、普段はここで兵士に魔物の素材の換金と物資を交換してもらうだけだ」


 ほんの少しだけ苦い顔をして、ユリアスは目をそらした。

 そのわりにユリアスは清潔だが、洗浄の魔法があるのをハルは思い出した。洗浄といっても、簡単に汚れを飛ばす程度のものだ。

 つくづく、この青年は貧乏くじを引いたのだと、ハルはやっと理解した。


(なんか、そういうのってムカつく)


 苛立ちを覚えたが、ハルが強いからそう思う余裕があるのだとも分かっている。もし弱い立場だったら、魔物を呼び寄せる人間が傍にいたら恐ろしかっただろう。

 だが、ハルは女神のお陰でとても強い。


「ねえ、ユリユリ、この辺にいて。買い出ししたら戻ってくるから」


 ハルの言葉に、ユリアスはふっと笑った。


「気を遣うな。ハル、お前のお陰で久しぶりにゆっくり出来た。感謝してる」

「そういうこと言うと、もっと腹立つでしょ! 損しすぎよ。ねえ、ユリユリはこの国の地理に詳しいわよね?」

「まあ、移動して回ってるからな。それがどうした」


 ハルはガッツポーズした。


「だったらちょうどいいわ。私の案内人になってよ」

「案内人……?」

「そう。地図を読むのって苦手だし、ユリユリは国で一番強いし、私も強い。野宿の時も、交代で休めるなら、一人旅より楽でしょ? だからまあ、ウィンウィンじゃないかなって」

「ウィ? 何を言ってるのか分からんが、確かに楽だろうな」


 その時、ハルの足元でユヅルが鳴いた。


「ミャアッ」

「あ、ごめん。ユヅルもいるから、二人と一匹よね?」

「ニャッ」


 その通りだというように、ユヅルは頷く。


「急いでください、結界を閉じますよ!」


 城門の上から兵士が声をかけたので、ハルは慌ててきびすを返す。


「とにかく、夕方までには戻るから、この辺にいてね! よろしく、ユリユリ」

「はあ? よろしくって、俺は了承してない……」


 その時にはハルは門の中へ入り、結界が元に戻る。


「それからだ。いい加減、ユリユリって呼ぶな!」


 苦情に手を振って返したところで、門が閉ざされ、ユリアスの姿が見えなくなった。

 言い逃げになったことにハルが苦笑していると、メロラインがハルの肩を叩く。


「ハル様ってお人好しなんですね」

「それって褒めてるの?」

「ええ。魔物を呼ぶのはとても怖いことです。だから、尊敬していても、距離をとってしまいます。あなたが御使いで良かった。殿下のこと、よろしくお願いします」


 頭を下げるメロラインを、ハルは頬を指でかきながら見る。


「そう言われてもね。人として合わなかったら、すぐに離れると思うわよ?」

「でも私は大丈夫な気がしてますわ。グレゴール様から、殿下はとても真面目な方だとお伺いしております。あの感じで、息抜きして差し上げればよろしいわ」

「息抜きって……まさか口喧嘩のこと?」


 ハルの問いに、メロラインは大きく頷く。


「なんでも言い合える友人って大事ですよ」

「あれはただのののしりあいな気が……」


 良いのだか悪いのだかといった感じだが、メロラインには問題ないらしい。


「ま、ちょうどいいから案内人になってもらうよ。教えてもらったけど、地図と方向ってよく分かんないのよね」

「ですから、太陽と星の位置をですね」

「太陽が真上にある時はどうすりゃいいのよ」

「……殿下に訊いてください」


 メロラインはさじを投げ、隊商に追いつこうとハルの手を引いた。



 二章終わりです。

 これがうわさのケンカップル?(笑)とか思いながら書いてますよ。

 三章からは、ユリアスと旅しながら、写真を撮って回ります。 


 私、地図を見るの苦手なんですよね。

 地図を持ったままその場を回ったり、地図を回したりして、混乱してきますし。携帯の地図アプリを見ながら真逆に行ったりも……。

 でも勘で進むと、遠回りしても目的地につける不思議な奴です。

 ハルにはその辺を短所にして織り込もうかと(笑)

 旅行好きなのに道に迷うけど、行動力はあるので人に訊きまくり、そのうちに仲良くなっちゃう最強旅行者って感じにしよう。

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― 新着の感想 ―
[一言] ケンカップルだ!可愛いよねケンカップル! 私も地図読めないし、方向音痴だし。 誰かと一緒だと安心なのわかる。 そっちじゃない、こっち!って教えてくれるから。
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