Secret base
「わたしはミライ。ミライから来たの」
彼女の第一声はそんな馬鹿げたふざけた内容だった。
放課後の帰り道。田舎の高校と自負できるほど、近くに山がそびえ立つ我が母校。
ほんの気まぐれで、小学校の頃に作った秘密基地の様子を見に行ったんだ。
そしたら、まだあるの。秘密基地。もう十数年は経ってるってのに、屋根と壁を兼ねるブルーシートは、何度も張り直した跡がある。
それでも、まだ残っていた。
その感動のままに、大人になった今では小さすぎる入り口を開ける。
すると居たのだ、小さな女の子が。
俺の足音に気づいていたのか、隅っこで見つからないように小さくなっていた。
そして言ったのだ。ミライから来ましたと。
「阿呆か。非行少女め」
「いや、飛ばないし」
「飛行じゃない、非行だ」
「おっさん、バカでしょ?」
俺はため息混じりで警察に電話をするためにケータイをだす。
「ちょっ、ちょっと待ってよ」
彼女…ミライは慌てた。
「なんで警察呼ぼうとすんのさ!」
「…俺は携帯を出しただけだ。やましいことがあるから警察を呼んでいるように見えたんじゃないのか?」
「やらしくなんかない!」
「お前バカだろ」
「馬でも鹿でもない!」
「馬と鹿の区別もつかないやつだって言ってるんだよ」
「あーそうですか!警察を呼ぶんなら呼んでみなさいよ!あたしは今からすっぽんぽんになって悲鳴あげてやるんだからね!おっさんの人生を道連れよ!」
…人生、ね。
「じゃあ、そうさせてもらうぞ」
「えっ、ちょっとぉ!少しは慌てなさいよ!」
「俺はロリコンじゃない。小学生の裸を見たってなんも思わない」
「あたしは高1だ!」
「…まじかよ…」
改めてミライをみる。
140前半にもいかないであろう身長、棒のような体つき。お世辞にも中学生とも言えない。
「手遅れだな…」
「うるさい!大器晩成なんだよ!」
「では、高校生のミライさん?警察に引き渡しますよー」
「やめろぉ!」
外見からの油断か、はたまたミライの俊敏さが類いまれなるものだったのか、耳に当てようとした携帯を奪われてしまう。
「あっ!返せ!」
ミライは意地の悪い笑みを浮かべ、俺の携帯をいじっていた。取っ組み合いになり奪い返したものの、ロック番号を変えられてしまったのか、解除が出来なくなっていた。
「ふっふっふ。あんたがショップに行ってる間に逃げてやるんだから!」
思わず頭を抱える。時刻は14:00を回る。今から帰れば余裕で閉店までには間に合うが、わざわざ店で手続きを行うことの面倒くささはとんでもないものだ。
「…」
言葉に詰まったものの、得意気にしている自称高校生に対する対抗意識と、気紛れとが合わさり、俺は秘密基地の外に携帯を投げ捨てた。
流石にミライは面を食らっていた。
「トモダチいないのかぁー!」
そして、予想外の同情をかけられた。