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骨董屋ナナセの(非)日常  作者: &u-X
第弐編-匣憑きの、式神
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伍 縁切の池

「貴様らがそれを私の主から奪ったのではないというのはよく分かった、だが主がそれを縁切り池に投げ込んだというのはどうも納得がいかない」


奥に通され、一通り話を聞いた箱の式神は不満げな声で言う、顔は仮面に隠れて見えないが、おそらく仮面の下でも不満げな表情をしているのだろう。


「あなたが捨てられたにしろそうでないにしろ、その箱を縁切り池に放り込まなければいけない事情があったのは確かなはずよ」


伏木さんに言われて俺が淹れてきたお茶を箱の式神が啜る、いったいどうやって仮面の上から飲んでいるのだろうか。


式神には、いくつかの種類があるらしい。

まずは家憑き、文字通りその家系を代々護るべくその家の当主に仕える式神、祓い屋の家系に多いそうだ。

そして次が使役、これは元々独立して行動していた妖などと術者の契約による主従関係だ、式神としては最もポピュラーな存在らしく、伏木さんの式神であるカイはこれに該当するらしい。

あとは憑依や生成、手近なモノに形になりきれない妖の魂を宿らせたりハザマにて妖が発生する状況と似た状況を作り出し、その場に誕生した妖を式とするモノだ、これは中位の術者がよく使うらしく、憑依型は紙人形、生成型は鬼火というのが一般的らしい。

目の前にいるこれは箱に憑依するために生まれてきたような存在で、このタイプでハッキリとした形を保ったまま動き回るものは非常に稀らしく、術者は相当の腕前を持っているかもしれない。


これまた俺が淹れてきたお茶を飲みながらカイが説明してくれた、こいつもこいつでその口でどうやってそんな器用に飲んでいるのだろうか。


「ナナセ様、只今戻りました」


袋に大量の野菜を詰めて帰ってきた狐頭の妖怪、伏木さんの式神の(きよ)だ。

カイが言うには先代の店主、つまり伏木さんのお父さんと契約を結んで伏木さんが店と一緒に引き継いだ式神らしい、つまり家憑きと使役の複合型といったところだろう。


「キヨ、ちょうどいいところに戻ったわね、さっき池婆が持ってきた箱の中にこの子が居たみたいなの、ちょっと術者の匂いが辿れないか試してもらえるかしら?」

「承知」


キヨは箱の匂いを少し嗅ぎ、いくつか札を手に取ってそのまま店を出て行った。


「相変わらず仕事熱心だねぇキヨは」

「あんたはもうちょっと働きなさいよ」


伏木さんがツッコミながら支度を始める、それを箱の式神が(多分)怪訝な表情をして眺めていた。


「自力で帰る、私をその縁切り池とやらに帰してくれないか?」

「今から私達もあなたの主を探すのよ、そもそもあなた一人でどうやって探すつもりなの?術者に呼ばれなきゃ術者がどこにいるかも分からないでしょ?」


箱の式神が言葉に詰まる様子を見せる、まぁ頼んでもいないのに完全に協力する流れだとそうなるのも当たり前だろう、事実俺もちょっと戸惑っている。


「余計な事をするな、私一人で充分だ」

「このままあなたを帰してそれを池婆に報告すると絶対に怒られちゃうもの、なんで手伝ってあげなかったんだって」


ポーチにいろんなものを詰め込んでカーディガンを羽織った伏木さんが俺に地図を渡してきた。


「私あの辺の道詳しくないのよね、案内してもらえる?」


* * * * *


「伏木さん、そのマスクどうしたんですか......?」


夜の公園を歩きながら恐る恐る尋ねた、こっちの世界(ウツシヨ)に戻ってきた時から気になっていた事だ。


「ハザマは基本的に空気がキレイだからいいけど、こっちの空気はどうも合わないのよ」


伏木さんは立ち止まり、目の前の池を眺めた、例の縁切り池こと三上ヶ池だ。


「池婆の事はよく知ってたけど、三上ヶ池に来たのは初めてね、静かでいいとこね」


確かにいいところではあるのだが、あちこちに設置された監視カメラのせいでどうも落ち着かない。


「私はあまり好きではない、どうにも薄気味悪い池にしか見えない」


箱の式神がイライラした口調で呟いた。


「そう見える人がいても仕方ないかもねぇ」


突然の声に皆が振り向く、池婆がいつの間にか後ろに立っていたのだ。


「ナナセちゃん、ここまで来るなんて珍しいわねぇ、それにしても、見覚えのない子がいるようだけど、その子はどうしたのかしら?」

「池婆が持ってきた箱に憑いてたようなのよ、誰かの式神だったみたいなんだけどね、池婆はあの箱の持ち主がどんな人だったかとか見てない?」

「顔は見てないけど、なんだか様子のおかしな感じだったわねぇ、黒い思念の糸が複雑に絡みついた感じだったわ、あれが呪いってもんなのかねぇ」


箱の式神がその言葉に反応を見せる、見るからに動揺しているようだ。


「それは本当か!?呪いはどれほど進行していた!?」


彼女は池婆の肩を掴み問いただす、結構荒っぽく揺さぶられてるのに池婆は全く表情を崩さなかった。


「まぁまぁ落ち着きなさい、お嬢ちゃんがあの子の事を心配しているのはよく分かったわ、それにあの子が呪いで命を落とす事は、どうやらあなたの消滅にも直結しているようだからねぇ」

「......そんなに強力な契約なんですか!?」


伏木さんが驚いたように口を挟む、後から聞いた話だが、式神との契約はいくつか種類があるそうだが、術者と式神の結びつきが強すぎて術者が絶命すると式神も道連れとして命を落とすものがあるそうだ。


「この子に絡みついてる思念の糸、これは契約によるものだねぇ、それが何重にも折り重なっているのよ」


池婆は箱の式神の手からスルリと抜け出し、池を囲う柵の前へと歩き出した。


「ナナセちゃん、その子のご主人は今キヨくんが探してくれているんでしょ?今日は一旦帰ってゆっくり休むといいよ、その子も泊めてあげてちょうだい」

「分かったわ、逢沢くん、明日は店じゃなくて直接ここに来てもらえる?今日はもう帰っていいわよ」


池婆はそれだけ聞くとスウッと消えて居なくなった。


* * * * *


『さぁ、5年が経つぞ、今度はお前がこっちに来る番だ』


ここはどこだろう、暗闇の中から私に話しかける声がする。

5年というワードで確信する、あれは私をずっと苦しめてきたアイツの声なのだろう。


『式神なんぞ使っても無駄だ、お前の死は確定しているのだからな』


使うつもりなんてない、カザミにはずっと生きててほしいから。

私の身勝手で生まれたんだから、私の身勝手で身代わりになるなんてあってはいけないんだ。


『しかし、最近はお前の式神も見かけないな、どんな小細工をしておるのだ?』


腕に激痛が走り、目が覚める、腕に残るアザが、また昨日よりも大きくなっている気がした。


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