無人の船
時間がないながら新連載です。
1話1話が短いので時間がない人でもオススメです。
銃につけたライトは静かに暗い構内を照らしていた。
カツカツと静かな闇の中に足音が響いていく。その人影は人の形をしてはいる。
だが鋼鉄のボディ、顔を隠したヘルメット、構えられたショットガン。
正に特殊部隊という言葉に相応しい姿であった。
「ジョー、到着した。」
右耳のあたりにある小さなスイッチを押しながら男は声を絞り出す。すると数秒もしないうちに返答を告げるノイズ音が走った。
『ジーナス、場所を確認した。船内の様子を教えてくれ。』
「甲板の非常口から入っただけだからわからんが、船内の電力が全部落ちている。」
『OK、ではそこからまっすぐに進んだところにある電力室に向かってくれ。』
「了解。」
通信を切るとジーナスと呼ばれる男は静かに船内を歩き出した。
メルキデス星系第三惑星は開拓民族である。
銀河中の不毛惑星を渡り歩き植林をし、大地を潤し、水路を作り全宇宙の難民が生活できる移住地を作るのが仕事だ。
その数億もある開拓用のカーゴシップの一つテラポリアスから連絡が入った。
『何物かが船内に侵入した』
と……
入ってきた道の奥に大きな扉が見えてきた。
金属製のドアノブを回し重い扉をゆっくりと押し開ける。
部屋の最深部にブレーカーと思われる大きなスイッチとサブ電源と思われる赤いレバーがあった。ジーナスはまずブレーカーのスイッチを入れた。
ガチャン!!
と言う音はするものの部屋の明かりもエンジン起動時のモーターの摩擦音もなかった。
次に隣のサブ電源のレバーを下ろした。
だがこちらも反応は無し。
「変だな……。」
ジーナスは部屋の中を見回すと壁際のある場所に向かった。
そこにはエネルギーメーターと電圧、電流計、そして電波回線である。
いずれのメーターもゼロを表示していた。
「ジョー、エネルギーが全部なくなってる。船内の酸素濃度も低くなってきた。」
『ジーナス、では彼らが連絡を入れてきた2階のオープンフロアに向かってくれ。
念のため明かりを消して赤外線モードで行くんだ。』
通信が終わると腕にある機械で何かの操作をし出した。すると視界が暗くなり赤外線モードに切り替わる。
障害物などが黒みを帯びた青緑色で確認できるようになる。
ショットガンのライトを消すと警戒しながら廊下を歩き出した。しばらくすると前方で何かが動いているのを確認できる。
そこにはワイヤーと思わしき物が揺れていた。
「エレベーターか……。」
閉じられなくなったエレベーターの上部を確認するとそこには大きな穴がブチ開けられた後があり非常用のシャッターがその裏から閉じられていた。
次にエレベーターのはるか下に発炎筒を落とした。
その明かりはまっすぐ暗闇に落ちていくと小さく下の方で燃えているのが確認できた。
「あそこから侵入してこっから下に移動したのか。」
階段に走ると物音を立てないように忍び足で2階に向かう。
2階にの長い廊下の奥に開けた空間が見える。
廊下の両端には各乗組員の寝室と思われる部屋があった。
奥に進むにつれて何か床が湿っているようなヌチャッヌチャッという音が足音に混ざるようになってきた。
奥に着いた時赤外線モードでは確認できないほどに物が散らばっていることがわかった。
ジーナスは赤外線を切りライトをつけた。
そこには切り刻まれた家具や倒された本棚、銃弾の後、そして見る影もない肉片が散らばっていた。
部屋の周りを見渡すと窓際に一番綺麗な遺体があることに気がつく。
それでも顔は銃弾でぐちゃぐちゃに崩壊し右腕は骨だけになっていた。その肢体の傷口を触って指の上でヌルヌルとこすり出す。
「まだ滑らかだ、死んでから時間が経っていない。」
ゴソッ
寝室の方から物音がした。