空の猛獣と地上の地獄
「あー、見事に吹き飛んだな。これじゃ情報は得られそうにないか」
漆黒のオープンカーをハイウェイに停めて幹耶達と合流した華村が、燃え盛るハンヴィーの前でぼやく。遺体や装備から襲撃者の情報を得られないかと思ったが、これではその望みは薄そうだ。
「各地で襲撃していた部隊もあっさり撤退したみたいだ。今は施設の内部を入念に調べているようだが、空振りの可能性が高そうだな」
少し離れた場所で通信をしていた火蓮が戻ってくる。
「さて、揃った所で改めて自己紹介しておこうか。俺は華村善次。〝ハナ〟でいい。アーツは狙撃だ。初日に見せたな」
幹耶は頷く。ショッピングモールで二体目のポリューションのコアを打ち抜いた黒い光の弾丸がそれだろうと思った。
「で、こいつが爆弾魔」
華村が親指で金髪緑眼の整った顔立ちの男性を指し示す。
「誰が爆弾魔だよ!」こほん、と金髪緑眼の男性が咳払いをする。「おいらはキャメロン・ホーク。あだ名はメロンね。アーツは爆破の《ファニーボム》だよ」
「まぁ戦場で困ったら俺に言え。スマートな戦いってのを見せてやる」
「なーにがスマートな戦いだよ。爆発こそが戦場の華さ」
「お前は雑すぎるんだよ。何でもかんでも吹き飛ばしやがって」
「ハナがチマチマし過ぎなんだよ。それにハナこそ敵車両を無駄に吹っ飛ばしたばっかりじゃん。雑はどっちさ」
「とまぁ、見ての通り二人とも大の仲良しで、色々と似たり寄ったりさ。ちなみにハナが攻めでメロンが受け」
にわかにヒートアップし始めた二人に雪鱗が割り込む。
「おいユキ、変な事言うなよ。新人が引いているじゃないか」
「おいらは普通に女の子が好きだよ!?」
異口同音に二人が言う。とりあえず、息はぴったりと合っているようだ。
「真斗もキラキラした目で俺たちを見るな!」華村が心底嫌そうな顔で言う。「これはユキの冗談だっていつも言っているだろう」
「えー? お雪はいつだって本当の事しか言わないわよー?」
「んな事ねぇよ!? お前も全然そんなふうには思っていないよな!?」
華村がピシリと音がしそうな勢いで突っ込みを入れる。
「え、ええと。私は千寿幹耶です」
一瞬間が開いたのを見計らって幹耶が自己紹介をする。タイミングを逃すと言い損ねそうだった。
「お、おう。よろしくな」
華村が幹耶の肩を叩く。
そこへグレーの都市迷彩を施された軍用車が隊列を組んでやってきた。一瞬幹耶は身構えたが、真斗達が平然としている事と、車体に調査部隊の部隊章を見つけた事で警戒を解く。書かれている数字は二七だ。
「よーう。相変わらずたのしそうだな、お前ら。その和やかな雰囲気を襲撃されてピリピリしている奴らにも分けてやってくれ」
シャルムが車列の真ん中にある軍用車から降りてこちらに近寄ってきた。
「やぁシャルム」火蓮が片手をあげて声を返す。「別に遊んでいる訳じゃないさ」
「ああ、そのようだな」シャルムは炎の燻るハンヴィーを見ながら煙草に火をつける。「ハイウェイの真ん中でキャンプファイヤーとは洒落ている」
「シャルルン達は何をしているの? もう帰り?」
火蓮の横からひょっこりと顔を出した真斗が問いかける。容姿はまるで違うが、そうしているとまるで姉妹のようだ。
「いや、襲ってきた部隊があっさり引いたのは知っているよな。無論、衛星で追っていたんだが……。全てロストした。その捜索だ」
「あぁ? なんだそれ、幽霊じゃあるまいし」
火蓮が眉を潜めて言う。襲撃のあった各研究所のあるアイランド外周部に、監視衛星の追跡を振り切れるような地下道などは無い。
「監視衛星が撮影可能範囲を抜けた間を突かれたらしい。別の衛星がアイランド上空に入った時には影も形もなかった。前回と同じ手段だ」
「おいおい、監視衛星の運用状況まで漏れているってか? 冗談じゃないな」
「ああ、まったくだ。そのせいでこんな無駄な捕り物ハイキングに出かけなくちゃならなくなった」
火蓮とシャルムは苦笑いを交わしあう。
「なぁ。笑わないで聞いてほしんだが」
「なんだ、改まって」
シャルムの言葉に火蓮が応える。
「俺たちは一体何と戦っているんだ?」
「あ? どういう事だよシャルム」
横合いから口を挟んだ華村が腕を組んで首をかしげる。
「いや、な。奴ら……ナチュラルキラーの動き、どうも不可解だ。今頃、情報の流出経路を探って本部は大わらわだろうが、そもそも奴らにそんな諜報能力があるとは思えない」
「ま、確かに。おいらもおかしいって気はするよ」
キャメロンがため息をつきながら言う。
「衛星の件もそうだ。掛け値なしの最高機密だぞ。バックに何か大きな組織が関わっているとしか思えない」
「なんだ。バルミダじゃないのか?」
華村が言う。
「奴らにそんな力は無いはずだ。それに奴らの武装が充実しすぎなのも気になる。そこへ更にポリューションを自在に生み出す技術と来たもんだ。俺にはもう何がなんだか……」
「確かにおいら達はここの所、ずっと後手に回っているね。ハッキリ言って完敗だよ」
「敵を見誤っているって事か? しかし……」
「あ、あの」
頭を抱えるシャルム、華村、キャメロンの三人に幹耶が言葉をかける。
「その事について、先ほど四人で話し合っていたんですが……」
雪鱗が代表してシャルム、華村、キャメロンへ車内で議論していた内容を要約して伝えた。つまりナチュラキラーとバルミダは協力関係ではなく、互いに利用しあっているだけであろうという事、まだ何か狙っているかも知れないという事。そして裏にはどこかの〝国家〟が関与しているであろうという事を。
「うーん、正直話が大きくなりすぎてついていけない、と言うのが本音だけど……」
キャメロンが呻く。華村とシャルムも難しい表情をしていた。
「まぁなんだ。もしお前らの仮説が正しいとしたら、もう全部終わったんじゃないか?」
華村のそんな言葉にその場にいる全員が首をかしげる。
「なんだ、不思議そうな顔をして。だってそうだろう? バルミダ機関は研究の実験をしたかった。しかし成功してもポリューションを駆除する手段が自分たちにはない。一件や二件なら公害事故で済むだろうが、派手にやりすぎると足がつくかもしれない」
「でもそれなら、ばれない程度にゆっくりやれば良かったんじゃない?」
華村の説に真斗が口を挟む。
「最後まで聞け。まぁ確かに真斗の言うとおりだが……、しかし実際にはそうしなかった。ならば原因があるはずだ、たとえば、研究成果を心待ちにしていたクライアント、つまりお前らの言う〝いずこかの国家〟にせっつかれたとかな」華村が煙草を咥えて火をつける。「そこでクライアントはテロ組織を隠れ蓑に実験を繰り返えさせると言う案を思いつき、実行に移した。ナチュラルキラーとしては願ったり叶ったりだっただろうな。兵器や資金を支援し、アイランドへの潜入まで手引きしてくれる」
「かくして研究は完成しました。めでたし、めでたし……って? 筋は通っているけど、スッキリしない感じだなぁ」キャメロンが手を頭の後ろで組んでつまらなそうに言う。「となれば、さっきあちこちで襲撃してきた奴らはなんだろう? もう無駄だよね」
「帰りがけの駄賃のつもりだったんじゃないか? 仮に自分たちが実験の隠れ蓑に使われているのを知っていたなら〝研究が完成した以上、自分たちは用済みだ。もしかしたら口封じに狩り尽くされるかもしれない。だから最後に一撃かましてトンズラしよう〟って訳だ。奴ら今頃は海の上かもな」
いつの間にか咥えていた煙草の灰を落としながら華村が答える。確かにアイランドは洋上の都市で、周辺は海だ。陸へ繋がる橋は監視の目が厳しいので、脱出するとすれば海だろう。今日は多少時化てはいるが、陸路よりは遥かにリスクが少ない。
「……。仮に研究がクライアント……どこかの国家に渡ったとして、使うか?」
シャルムが雪鱗に問う。
「うーん。仮に使うとしても、このまま研究が進んで、もうアゾット無しの経済、軍事、生活は考えられない! って時に〝一回だけ〟使うと思う」
「……一回だけ? またどうして」
雪鱗の言葉に真斗が首をかしげる。
「脅しっていうのはさ、力を誇示したうえで〝恐らくやらない。でも、もしかしたらやるかもしれない〟ってギリギリのラインでチラつかせるのが一番効果あるんだよ。確定しない脅威、これこそが脅しの本質さ」
真斗は解ったような、そうでないような表情で腕を組んでいる。その様子を見て、謀には向かなそうなタイプだな、と幹耶は思った。
「ともかく、俺たちの仕事はしょせん〝ご町内の強い味方〟レベルがせいぜいだ。戦争だのなんだのはどこかの軍隊に任せておけば良いんだよ。ま、このアイランド・ワンが標的って訳でもない限り、俺たちがどこぞの国家とやりあう必要は――」
華村の声は、突然上空を通り過ぎたヘリコプターの編隊が放つ爆音にかき消された。
それらは、どう見ても重武装の戦闘ヘリだった。
『よく見えないが……あれはハヴォックか? またマニアックなものを……』
爆音により通常の会話が困難なので、バベルを通しての思念通信で華村の声が脳内に直接響く。先ほどの銃撃戦でもそうだっただが、改めて便利なものだと幹耶は思う。
不意に後方の空に威圧感を感じた。幹耶が顔をあげると、見た事もないような大型輸送ヘリが通過するところだった。その雄大な姿はまるで、唸り声をあげて空をゆったりと泳ぐクジラのようだ。
『ヘイローだと!? 単機でジェット機を運べるような化け物輸送ヘリが、こんな場所に何の目的で……』
華村が驚きの声を上げる。
ヘリ部隊は一直線にアイランドの都市部へ向かって飛んでいく。幹耶達はその姿をただ見送った。
「ねぇ、あのヘリ部隊……どこから来たのかな。あれが来た方向は海だよ?」
ローターの爆音が収まるのを待ってキャメロンが言う。
「当然、空母とかからだろう? 問題はどこに向かって何をしに来たのか、だな。遊びに来たって訳でもなさそうだ」火蓮が煙草を携帯灰皿に押し込めながら、ふと何かに気が付いたようにその手を止める。「奴ら、まっすぐモノリスタワーへ向かっていないか?」
「やっぱり私の〝何かある〟って予感は正しかったんじゃないのー?」そう苦笑いしながら真斗が萩村へ連絡を取る。『はーちゃん、確認取れてる? 所属不明の攻撃ヘリ六、大型輸送ヘリ一。まっすぐそちらに向かっているわよ』
『はいー。もう目の前ですねー。呼びかけにも警告にも一向に応じません。何か仕掛けてきそうですねぇ。こちらはもう大慌てですよ』
『モノリスタワーに残っている防衛戦力は?』
『施設警備隊が三個分隊のみ、ですー。今日はみんな出払っていますからねー』
『ヘリボーンでモノリスタワーを制圧でもする気かしらね?』
『それは考えにくいですけどねー。仮に占拠されてもスピネルが要求に応じるとは思えませんし』
『うーん。応援要請は?』
『はいー。出してはいるんですが……』
雲雀から何かのファイルがその場にいる全員に送信された。中身を見るとアイランドの地図のようだった。アイランド・ワンは円形の海上都市でその地図も当然丸い。その形をなぞるようにほぼ円形に青いマークが点在していた。
『この青いのは?』
『各部隊の現在地ですー。狙ったようにみなさん遠くに居るんですよねー』
『さっきの襲撃はヘリ部隊の到着まで、この形で部隊を固定させるのが狙いか? 大した時間稼ぎにも……いや』火蓮が唸る。『あいにくどの部隊も対空装備は持ってきてない。一旦支部に戻って装備を整えてからじゃ時間がかかる。無理に突っ込んでも攻撃ヘリに食い散らかされる』
「対空車両とか無いんですか?」
幹耶が火蓮に聞く。
「無いな。無防備なアイランドに攻撃を加えれば世界の敵だ。非武装である事こそが最大の武装なんだ。第一、仮に配備するとして……どこの国の兵器を使うか、という議論に何年もかけるんだよ、政治家ってやつは」
火蓮は「今のうちに吸っとくか」と煙草を咥える。
『自衛隊の迎撃機はでていないのか?』
『既にスクランブルが掛っていますが、国際法によりアイランドでの戦闘行為はスピネル以外には認められていないので、外で待機するみたいですねー』
『ちっ。眠たい連中だ』
華村が舌打をしながら毒づく。
『結局の所、あのヘリ部隊は何者かしら?』
『ナチュラキラーではないのは確かだな、武装のレベルが違う』
真斗の疑問に火蓮が答える。
『マザーアゾットが破壊される心配は無いだろうけど、持ち去るのが目的だとしたら放ってはおけないわよね』
真斗が難しい顔で呻く。
『私のホワイトスケイルで車両を防御しつつモノリスタワーに接近、内部から敵部隊を掃討……くらいしか取れる作戦が無いかな? 防御特化のアーツはアイランド・ワンでは私だけだし』
『歩兵は良いとして、ヘリはどうするの? 流石に空中戦はできないわよ?』
雪鱗の言葉に真斗が首をかしげる。
『ヘリだけじゃ施設制圧なんてできないからね。制圧部隊の半分も始末すれば撤退すると思うよ。ヘイローに何人乗ってるか解らないけれど……、まぁ百は行かないと思う。軽いよ』
『それの半分……でも五十ですよ。それを軽いって』
『だからアンジュは嫌われるんだよ』
幹耶の言葉に雪鱗が悪戯っぽく微笑んでウィンクをしてみせる。
『ユキさんの案で作戦許可が降りましたー。即時行動されたし、とのことでーす』
「……随分あっさり認可がおりるんですね。かなり無茶ですよ、この作戦」
うんざりしたように幹耶が言う。
「結局の所、スピネルにとってもアンジュなんて〝多少希少価値の高いモルモット〟でしかないからね。死んだら死んだで、貴重なデータとアゾット結晶が得られるってだけだよ」
「ま、無理でも無茶でもやるだけだ。ビルの合間を縫って接近しよう。ルートを……ん?」
不意に火蓮が言葉を切ると同時に、ぞわり、と全身の毛が逆立つような感覚が幹耶の全身を駆け巡る。真斗やキャメロンも何かを感じて目つきが鋭くなった。次の瞬間――
世界が反転した。
周囲がショッピングモールで感じたものとは比べ物にならないほどの違和感に包まれる。
ここに居てはいけない、と本能が激しく警告している。
まるで知らない別の世界に飛ばされてしまったような、どうしようもない不安感に襲われる。それは、腹を空かせた猛獣と同じ檻に押し込められたかのような――
異変の答えは地図に現れた。部隊の位置を示す青い点の内側に、次々に現れた赤い点でもう一つ円が描かれる。モノリスタワーを中心に二重丸になっている形だ。湧き上がる嫌な予感を裏付けるように、珍しく切迫した様子の萩村の声が脳内に響き渡る。
『モノリスタワー周辺にポリューション多数同時発生! いずれもランクA以上と推測されますー!』
『あぁ!? この赤い点全部がポリューションだって言うのか!? 七十以上あるぞ!』
華村が思わず叫んだ。七十を超えるポリューション、しかもガルムと同等のランクA。その脅威は計り知れない。
「思っていたより多い……。この数は、まずいかな?」
雪鱗がいつの間にか取り出した棒付きキャンディーを舐めながら小さな声で呟く。いつもチェシャ猫のように無意味に微笑んでいる雪鱗も、この時ばかりは流石に深刻そうな表情をしていた。
『……駄目ですー。何度検索しても真斗さんたちの位置からモノリスタワーへ接近するにはポリューションとデミが邪魔ですー……。そちらに突っ込むか、攻撃ヘリに正面から挑むしかなさそうですねぇー』
「どうする? どちらも放置はできないよ」
柔らかそうな金髪を指で弄りながらキャメロンが唸る。
「くそ、一気に地獄に早変わりだ。街はポリューションで溢れかえっている。各部隊ともに対ポリューション装備ではあるが……」火蓮が頭痛を抑えるように額に手をあてる。「ユキと数人をモノリスタワーへ、残りはポリューションの対応に回るしかないな。真斗、編成してくれ」
「えっ、私!?」真斗がなぜか驚いたように後ずさる。
「がんばれー隊長様―」華村がいやらしい笑顔を真斗に向ける。
「もっと普通に応援しなさいよ! そ、そうね……」腕を組み、しばし考え込む。「ユキと私は適当に足を確保してタワーへ、火蓮と幹耶くんはシャルルンの部隊について火力支援と一般人の避難誘導補助をお願いね。近寄るデミは全て灰にしてやって」
「おいらとハナは?」キャメロンが言う。
「機動力と火力を生かして遊撃。他の部隊は人員を割いてポリューションの対応と一般人の避難誘導にあたるはずだから、火力が薄いところとか避難が遅れているところがあれば援護してあげて」
「了解だ」
華村は懐から携帯灰皿を取り出し、その中へ吸殻を放り込む。
「真斗。幹耶くんもタワーに回してくれないかな」
雪鱗が声をあげる。
「それは構わないけれど……、ひょっとしなくても対人戦になるわよ。幹耶くん、君は人を斬れる?」
「……必要とあらば」
「あたしは一人でも問題ないぞ。シャルムも居るしな」
火蓮が白い煙を吐き出しながら言う。
「そう。じゃあ幹耶くん、お願いね」
真斗はそう言って、全員を見回す。
「以上、各自迅速にクリーニングを開始せよ! ムーブムーブ!」
そう真斗が手を叩くと、真斗の愛すべき隊員たちは「へーい」と気のない返事をしてぞろぞろと歩き出した。
「ま、まったくやる気があるんだか無いんだか……」
真斗は大きくため息をついた。ただでさえ低い身長が更に縮まってしまいそうだ。
「さってー、私たちも移動と行きたいところだけど、まずは足を確保しないとね。でも普通の車じゃ装甲なんて望めないし、お雪の消耗も抑えたいからそれなりに硬い車が欲しいんだけど……」
真斗は火蓮の愛車である高機動装甲車を横目で見ながらつぶやく。しかし攻撃ヘリのキリングゾーンに飛び込もうというのだ、そんな連中に自慢の愛車を快く貸し出してくれるはずもない。華村のオープンカーも論外だ。どれだけ速度が出せようとも、それだけで攻撃を凌げるほど戦闘ヘリは甘くない。第一、華村はキャメロン以外には自分の愛車を触らせない。
となれば、いつも緊急時にはそうしているように、適当に一般乗用車を探して、電子キーのロックをスピネルの権限でハッキングして解除、そして拝借。後日持ち主に返却……という手段になるだろうか。今回は返却時に新車を用意する必要がありそうだが。
「じゃあアレを貸してやろうか。あぶれた奴らは他の車にしがみ付きゃいい」頭を抱える真斗にシャルムが車列先頭の装輪装甲車を親指で示す。「命の恩人へのお返しだ。誰にも文句は言わせねぇよ」




