とある少女の夏祭り
八月のちょうど中旬。
お盆。
うだるような暑さが身体中にネットリと嫌らしく絡みついてくるなんとも嫌な季節だ。
既に夜の七時を回っているというのに昼間とあまり気温が変わらない。
いや、むしろ湿度が上がったからか昼間より更に暑く感じる。
しかも、今は浴衣を着ているのだ。
暑いのは当然だ。
そこまで考えてクスリと笑いながらコッソリと左を向いてみる。
そこにいるのは少年。
祭りの屋台で買い占めた物を両手いっぱいに持ち笑っている。
今宵は祭りだ。
活気のいい祭囃子が遠くから聞こえてくる。
だが、それに対し私の心は暗い。
横にいる彼のせいだ。
私にとって…
何年も昔から一緒にいる彼が変わらずそこにいる。
それだけで十分だった。
それだけで十分な筈だった。
でも、最近ふと考えてしまう。
もし、私が彼の彼女だったら?
もし、私と彼が両想いだったら?
こんなに、辛い思いはしなかったのだろうか。
こんな…
彼が誰かに奪われてしまうなんて悩む必要はなかったのだろうか。
彼が女子の中で人気があるのは知っている。
この間も後輩が告白したらしい。
どうやら、断ったらしいがその時から私は変な事を心配するようになってしまった。
もしかしたら彼が誰かに奪われてしまうんじゃないか?
彼が私の隣からいなくなってしまうんじゃないか?
そんな他愛もないことが。
毎日の心配事になってしまった。
毎日、毎日。
誰かに彼を取られてしまうかもしれない。
そんな心配ばかりだ。
馬鹿らしい。
こんな自分が嫌になる。
最低だ。
私は。
ひゅーーーーっ…
ドォーーーーーーーん‼︎
溜め息を吐こうとした瞬間、そんな爆音と共に夜空に綺麗な大花が咲いた。
大きい、大きい、こんなジメジメや悩みを吹き飛ばすような綺麗な花火が。
ーーおー、すっげえ!
花火に君がはしゃぎ笑う。
その笑顔を見て決めた。
『ねえ…』
ーーん?
『言いたいことがあるんだ』
ーーなに?
『ずっと…ずっと…大好きでした!』
そう言った私の背後でまた大花が咲く。
大きい、大きい綺麗な花が。
ひとつの恋が動き出したこの夜に。