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大学を卒業してニートな人の話

大学を卒業したらニートな俺が声優さんを見に大阪へ飛んだ話

作者: napier

この作品はフィクションです。

高倍率を勝ち抜いて、運良く映画チケットを手に入れた。

某魔法少女に感銘を受けていたアニオタの俺は、その舞台挨拶の抽選に申し込みをしていたのだ。


舞台は大阪だった。

あいにく東京在住で、方向感覚に難のある俺が当選を知ってまず調べたのがネットオークションでの取引価格だった。

俺の取れた後方寄りの席は、せいぜい元値の二倍ほどでしか売れないと分かって、大阪行きを決意した。

主演声優を画像検索して、その思いを後押ししてみる。

そしていわゆる卒業旅行と称して、大阪観光を兼ねて、一人旅する経験を作ることにした。

ここまで動機が混乱しているのは、チケットの当選がほとんど予期せぬことであったからだ。

俺はあくまでその作品を観たかったから抽選の狭き門に挑んだだけで、わざわざ大阪へ足を運ぶのに乗り気にはなれなかった。

自分でもおかしなことを言っているのは分かっている。

この通り動機が混乱しているので、もし何か問われたときに色々と矛盾の生じるのを恐れて、俺は家族にも知人にもこのことを一切知らせず、むしろ生涯隠し通すつもりで、当日夜明け前の電車で成田空港へ向かった。

乗ったことのない飛行機から地上を一望することだけがその旅の純粋な楽しみだった。



ジェットコースターよりしょぼい、これが期待して飛行機に乗り込んだ俺の正直な感想だった。

窓から見える景色はやはりすでに様々なメディアで見慣れたもの以上ではなかった。

途中、厚い雲への突入のために機体の揺れが警告されたときだけ妙なスリルを感じることができた。


けれどもこれで一人で飛行機へ乗るための手続きを覚えて、世界中どこへ行くにも自由を得たことを喜ぶべきだと考えた。

でもそれは同時に世界中のあらゆる場所が飛行機一つの価値しか持たないとも意味しえたことに、俺は気が付かざるをえなかった。

我々の機体をまず出迎えたのは地平の遥か向こうまであまりにも規則的に等間隔の波紋を広げて無邪気に輝く海面の光だった。

着陸すると隣席のカップルは早々に退席して行った。



実はこの映画を観るのは二度目だった。

今度は余裕をもって一度目に見逃したフラグに注意を向けることが出来た。

舞台挨拶は15分間かそこらで終わってあっけなく退場を促された。



夜行バスで帰宅する予定を立てた俺は、バスの来るまで近隣の観光に時間を当てることに決めていた。

しかしその日は曇っていて思ったより日の暮れるのも早かったので、俺は見知らぬ街を計画通りに周回するのを諦めてしまった。

早くも星も見えない夜で、ビルのネオンがちらちら光り、走り過ぎる車のライトがまぶしい。

大通りの一本道を見失わないようにしながら、人通りの数と道幅の広さだけを頼りに、目ぼしい路地に入って行くと、計画の地のひとつであったお初天神の前に出た。

なんでもこの神社は近松門左衛門の心中物語と縁が深く、恋愛成就の神社として有名とのことだった。



辺りを一周してからその境内に入った。

狭い境内を同じように見回ろうとすると、ベンチに腰掛ける一組の若いカップルが目に付いた。

俺は二度見のみならず、間をやや置いて三度見、四度見と、場所を変えて彼らの様子を窺ったのだが、恥ずかしげにうつむく女に対して、男の方とは四度とも目が合ったようだった。

やむを得ず無視して彼らのなかば正面で参拝を済ませると、せっかくなので100円セルフの御神籤を引いて帰ることにした。

いかにも自然らしくを心掛けて、御神籤箱のなかに手を伸ばす。

抽選の結果として偶然大阪に来たように、俺は偶然に一枚の御神籤を掴んだ。


見ると小吉だった。

そこには「待人:遅くなるが来るでしょう」と書かれていた。


こういうのもたまには悪くないと俺は思うのだった。


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