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世界の終わり

作者: 頭蓋

思ったより唐突に、

あり得ない程早く、

世界の終りがやってきた。




何が起きたのかなんて

一般市民の僕には解らなかったし

この事件(事故?現象?)が起き始めて

世界中がその波にのまれるよりずいぶん前に、メディアは壊滅していた


最初はゆっくりとした異変が

最期は突然畳みかけるように

良くフィクションにある終末の展開はそんな感じだったと思う


けど、現実はそんなことはなくて


いきなり目の前の人が倒れこんで

次はあのビルが崩れて

そしたら空が真っ白になって

地面が割れて


何が起きたかなんて、到底わからなかった



お気に入りの音楽を耳元で鳴らして

ただ、大学へ向かおうとしていただけだったのに


世界は唐突に店仕舞いを始めたみたいに

バタバタと

倒れだした





そんな地獄のような真っ白な光景の中で

『僕』は『君』を見つけた






真っ白いテラス

いつも通りかかる、お洒落なカフェ

『僕』とは全然釣り合わなくて、敬遠してたそのカフェのテラスに、

『君』は居た


『君』は紅茶のカップを片手に

遠くの街並みが、今まさに壊れる瞬間を

心底楽しそうに、子供の様に喜んで

ただ、観ていた


コロコロと可愛く笑うその姿は、あまりにも様になっていた

イヤホンをしていても、立て続けに聞こえる轟音や

遠くで巻き立つ煙や埃

逃げまどう人々なんて、意にも介さない

『君』は笑っていて

『僕』はただその姿から目を離すことができなかった


不意に、『君』はこちらを向く

口にした言葉を、音として認識することはできなかったけれど

『僕』には何故か、『君』の口にする言葉の意味が、手に取るように解った



―――ね どう思う?



薄く、無邪気な笑みを浮かべたまま

『君』は『僕』に向かって話しかける

音としての認識はできない

イヤホンを外すことすら、今の『僕』はできずにいたから

美しいだとか、可愛いだとか

綺麗だとか、ましてや愛しいとか

そんな風には思って無いし

そんな安っぽい感情ではなくって


今、『僕』の心を埋めているのは、まるで別の

根源的な、感情

恐怖でも、憤りでも、なんでもなくて

喜びや、まるで幸福といった、そんな感情


そして本能的に、何故かはわからないけれど

『君』も

そう感じてくれているのではないかと思えた



―――素晴らしいでしょう



もう一度口を動かした『君』は

何故か、『僕』の心の根底にある

理性に阻まれて口に出す事の出来なかった本性を代弁した


『僕』は、まだ『君』を見つめるだけ





紅茶をすすりながら

『僕』は世界の終わりを眺めている

12月の終わり

冬の昼下がり


素晴らしいシチュエーションだと思うのに

何かが足りないな なんて考えていた

『僕』に足りない何か

そう、できれば『君』が現れてくれれば良いのになと

そんな風に 思いながら


緩やかにこちらへ向かってくる崩壊の足音が

崩れて行く世界の一端が

ゆっくりと

ゆっくりと


静かに待っている

待ち焦がれている


最後の一瞬でも

刹那の最期まで

『君』に会える瞬間を





―――『君』は誰?




『君』が口にする言葉は

もう、まったくもって聴き取れないけれど


意味はわかるから 嬉しい

『君』が『僕』に語りかけてくれる事実が ただ 嬉しい



―――『君』が、やったの?



『僕』は、唐突に、直観的に

そんな言葉を口にしていた

『君』ならできそうだったから

『君』は、この状況でも楽しそうだから


初対面のはずの『君』へ

知らず知らずのうちに

そう、質問していた



―――だとしたら どうしようか?



『君』は でも 驚いた風でもない

『僕』の答えを まるで解っていたように



―――そっか



とだけ 『君』は応えた

それが可笑しくって それが嬉しくって

『僕』は ただ笑った

ただただ 笑った

笑いながら ただ 待っていた

こうして この今の瞬間を永遠にしてくれる 世界の終わりを



やがて 『君』は終わりに飲みこまれるだろう

それを ただ待つだけだった

これでやっと結ばれるから

これで やっと二人きりになれるから


永遠に

永遠に



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