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02話:悪夢

 小鳥の声が、明るくなりつつある窓の向こうから聞こえてくる。

 ベッドには入ったが、結局、一睡もできなかった。

 朝日に照らし出された部屋は、まるで超高級ホテルのスウィートルームのように高級感に溢れ広々としていた。スウィートルームに泊まったことなんぞないが。

 

 「くくく……」


 思わず笑みがこぼれる。

 手を伸ばすと布団の中にまで持ち込んだ、勇者の剣をそっと撫ぜる。

 

 昨日、下校途中に魔法陣を踏んだ俺、平凡な高校生の黒崎鹿路(ろくろ)は異世界へと召喚され、魔王を倒す勇者となったのだった。


 ラノベの異世界召喚モノのテンプレそのものな展開。

 すでに読み飽きるほど漁ったが、実際に自分が主人公になってみると、ワクワクして眠れないほど興奮してしまっていた。

 

 案内された豪華な部屋に、勇者という待遇のよさがしれる。

 もしかして、テンプレの流れで魔王討伐の褒美に、あの美しいお姫様との結婚もあったりなんかするかもしれない。

 それどころか、ハーレムなんてのもできてしまうかもしれない。

 考えれば考えるほどに、にやけた笑いに顔が歪む。

 うへへ。自分ながら気持ち悪い笑い声を洩らしながら、俺はまた剣を撫で始めた。


 コンコン


 そんなことをしていると、部屋の扉がノックされ、あわてて起き上がる。

 「失礼いたします」

 扉を開けて入ってきたのはメイド! さんだ。

 ふんわりとした茶髪に愛らしい垂れ目の彼女の恰好は、黒いロングドレスに、真っ白でフリル付きのエプロンドレス。

 まったく、このメイド服を選んだ人間はよく萌えをわかっている。ミニスカメイドも素晴らしい。アンミラ風にハラショーと言いたい。だが、やはりメイド服は清純さと禁欲を兼ね備えたロングこそ至高。異論は受け付ける。


 「おはようございます。クロサキ様」

 「お、おはようございます」


 にっこりと笑うメイドさんの名前はメアリーと言う。

 昨日、召喚され右も左もわからない俺を部屋に案内してくれ、この世界に対する様々な疑問にも嫌な顔一つせず答えてくれた、とても優しい女性だ。

 お姫さまが薔薇の花だとすれば、メアリーさんは野に咲く白い花だろう。

 やわらかな微笑みにお姉さんと呼んで甘えてしまいたくなる雰囲気がある。


 メアリーさんはベッドの脇までくると、こちらの顔を覗きこんできた。


 「うふふ、目の下にクマがありますよ。昨日はあまり眠れませんでしたか?」


 そう言って、頬をさする掌はあったかくて、なんだかいい香りがした。

 DTの俺には刺激が強すぎて、顔が赤くなるのが自分でもわかる。ああ、DTなのは嘆いていない。むしろ高校生でDTなのはおそらく大半の人間が当てはまるだろう。てか当てはまれ。裏切り者のリア充どもは爆発しろ。

 

 心の中でメアリーさんをハーレム候補に入れつつ、挨拶をすませると、着替えるので一度、部屋の外に出てもらった。

 流石にメイドさんに視姦されながら脱衣するのを望むほど、俺は高レベルではない。できれば無表情無感情に視てほしいとかそんなこと言わない。


 パジャマから、勇者にと用意されたカッコイイ服に着替えると、メアリーさんが持ってきた朝食を食べ、そして昨日召喚された謁見の間へと向かった

 今日は俺の能力を調べるらしい。とても楽しみだ。




***




 偉そうな魔法使いっぽい老人に言われるままに、水晶玉に手を乗せる。

 ひんやりと冷たいかと思っていたが、内側からじんわりとした温かさを感じる。

 白い長髭を揺らしながら男が呪文を唱えると、水晶玉の中心が光り始めた。

 その様子に見守る王やその他もろもろの有象無象のものどもが、ごくりと唾を飲む。

 

 俺の体を探るように蛍のような光の粒がまとわりついたと思ったら、やがてその光の粒子の一つ一つが空へと舞い上がり、文字になっていった。

 まさしく異世界だと感じさせる状況に、俺は何も言わず黙って光が作り上げる美しい光景を見上げていた。

 涙が出そうだ。


 ・・・…別の意味で。




 光の文字は俺のステータスを示していた。


 くろさきろくろ

 じょぶ:ゆうしゃ

 れべる:1


 ここまではいいとしよう。

 ひらがなで読みにくいとか、レベルが1とかは別にいい。

 初めからレベル100なんてつまらないからな。レベルなんてのは冒険をしながら徐々に上げていくのが、セオリーだしな。

 問題はその下の項目。ステータスを示す部分だった。


 ちから:1

 はやさ:1

 まもり:1

 まほう:0

 すきる:なし


 オール1という数値に、足元がなくなったような絶望感を味わう。

 (アヒル)が並んだ成績表を貰ったことはあるが、オール1とはいったいどういうことだ。魔力なんて0だ。

 もしかして、レベル1ならばこれが普通なのかという淡い期待は、辺りの冷たい視線で叩き落とされる。


 「全部1とはゴミではないか」

 「とんだ勇者もいたものだ」

 「スキルがないだと? 聞いたことがないぞ」


 ひそひそという冷たい言葉が、愕然とした俺の耳に棘のように刺さる。

 なにかの間違いではないかと、もう一度測り直したが結果は変わらなかった。

 

 先ほどまでニコニコと上機嫌に笑っていた王は、俺のステータスが1だとわかった途端、さっと色が変わり能面のような無表情になった。

 一縷の助けを求め、恐る恐る姫の方に視線を向けると、こちらは蔑むような表情に口を歪ませている。

 腰に付けている剣がずしりと重みを増した気がした。


 「もうよい、下がれ」


 無表情に王が命じる。

 下がれとの言葉だったが、漠然とした絶望と滲みそうな涙をこらえるのに一杯で、俺が一歩も動けないでいると、屈強な兵士にまるで摘まみ出されるように両脇を担がれ、部屋から無理矢理に引き摺り出された。


 それからは地獄だった。


 初日に宛がわれた豪華な部屋から、物置のほうがまだマシな部屋に移された。部屋の外には常に見張りがつき、どこかに出かけるのにも必ず兵士が着いてきた。

 出かけると言っても、街にではない。

 俺が行くことを許されているのは、訓練所だけだった。

 そこで教官や兵士を相手にひたすらしごかれ、他の時間はずっと狭い部屋の中に押し込まれる。飯は残飯のような粗末なものが一日一度だけ。

 それが、今の、俺の日常だった。


 一体、どこで間違えたのだろう。

 あの時は輝かしい未来を確信していたのに……


 「帰りたい」


 灯りも窓もない暗い部屋の片隅で体操座りになって、ぎゅっと膝を抱えて呟く。

 泣きはしない。涙を流せば負けだと思ったからだ。

 それが剣も取り上げられた俺の誇りだった。


 なぜこんな役立たず勇者が、帰されもせず殺されもせず城に飼われているかというと、唯一魔王を倒せる『神聖剣日之気之棒』を装備できるのは勇者だけで、次の勇者を召喚するのには10年後でなくては出来ないからだ。

 10年間の繋ぎとして保険として置かれ、使えるようにならないかと厳しい修行をさせられる。

 それが俺の置かれている状況だ。


 「誰か、助けてくれよ……」


 小さな声は誰にも届かない。

 ノックもせず扉は開けられ、俺は兵士に無理やりに訓練所に連れていかれる。

 「おら、早くこいよ。ゴミ勇者」

 ストレス解消に何人もの兵士たちに、練習用の木剣で殴られる。

 せめて顔をかばおうと構えた腕は何度も叩かれ、じんじんと熱をもったように熱く痛い。

 倒れるたびに嘲笑が浴びせられて、泥だらけの靴で蹴られた。

 

 倒れたまま、ふと見た廊下の先に、メイド仲間と談笑しているメアリーさんの姿をみつけた。

 こちらの視線に気が付いたメアリーの目が、ひどく冷たくなる。

 

 「ゴミ」


 兵士から投げられた悪口が、彼女の声に聞こえた。



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