霊場の令嬢のレイジョウ ~あら、あなたもお遍路ですの? 付き合ってさしあげてもよろしくてよ~
そこの殿方。ごきげんよう。
うふふ。驚くのも無理はありませんわね。
このわたくしリーズ・ポーが、まさか四国の山の中の道路を一人で歩いているなんて思いませんものね。
ポー家といえば世界屈指の名門貴族。
その令嬢たるわたくしが、SPを付けることもなくたった一人で四国八十八箇所霊場巡りのお遍路だなんて、さぞや驚かれたことでしょう。
顔が割れてしまっているのは有名税というやつかしら……って。
わたくしのこともポー家のこともご存じないの?
やれやれ。無知極まりないですわね。
栄光あるポー家についての知識は、今年から日本の義務教育で必修化されましたわよ。
それを知らないのに、どうして驚かれたのかしら?
え? お遍路のルートをドレス姿で歩いている、変な女がいると思っただけですって?
もう。ドレスが貴族女性の身だしなみなのは言わずもがな。
そして神仏を尊ぶのは、高貴なる者が奢らぬようにするための戒め。
だからこうやって四国の霊場を巡り歩いておりますの。
有名な寺院のあるこの霊山は、山全体が霊場。
その霊場をこうやって歩いていると、高貴な令嬢たるわたくしといえども、身が引き締まる思いが致しますわ。
霊場を歩く令嬢。
霊場の令嬢。
ぷっ、くくく。
あっはっはっは。
だーっはっはっは。
あら、やだ。
品行方正なうら若きレディーのわたくしとしたことが、自らのオヤジギャグで爆笑してしまうなんて。
コホン。
ところで、あなた。
白装束に金剛杖、お地蔵様のような菅笠も被っていらっしゃって。
あなたもお遍路ですの?
付き合ってさしあげてもよろしくてよ。
もう。早足で立ち去ろうとなんてなさらないで。
旅は道連れというではありませんの。
そうそう。街で起きた事件のことはご存じ?
なんと銀行強盗があったそうなんですの。
犯人は拳銃で銀行員を脅迫して、大金を強奪して逃走中とか。
物騒ですわねえ。
ん?
きゃあっ!
どうしたのかって?
あれが見えないの?
木の枝から蛇がぶらさがって、こっちを見ているじゃない!
このままじゃ危なくて通れませんわね。
こうなったら──。
パキュン!
威嚇射撃で追っ払ってやりましたわ。
銃口をフッ。
え? なんで拳銃を持ってるのかって?
別にいいじゃない、そんなこと。
あ、心配なさらないで。
わたくしは断じて、銀行強盗ではありませんもの。
銀行強盗は二人組の男だったとのこと。
それに一人は捕まって、その男の持っていた拳銃は押収されたとか。
逃走中のもう一人も男で、女性のわたくしではありえまえせんわ。
逮捕された側の供述によると、逃走している方の男は拳銃を所持はしていないとのこと。
ですが、かさばるほどの大金を持っているはずですわ。
ときにあなた。
大きな箱を背負っていらっしゃるのね。
お遍路スタイルで、そういう箱を背負うのは珍しいそうなのだけど。
あらあら。また早足になって。
寂しいじゃない。ご一緒しましょうよ。
そうだわ。
えーと、えーと。
あれはどこにいったのかしら。
あら?
わたくしが何を探しているか、気になります?
当ててみて下さいな。
いえいえ。財布でもスマホでもなくってよ。
わたくしが探しているものは『フダ』ですわ。
寺院などでもらった『お札』か?
いえいえ。違いますわ。
それに『フダ』とはいっても『お札』とは言うことはほとんどありませんわね。
そうねえ。『フダ』よりも『レイジョウ』と言う方が一般的かしら。
神社や寺院のような『霊場』は、持ち歩けるはずがないから違うだろう?
その通りですわ。
なら貴族令嬢の『令嬢』か?
ノンノン。
わたくしがわたくしを探す訳ないじゃない。
自分探しじゃあるまいし。
でも、最初の『令』の字だけは合っていますわ。
まだ『令ジョウ』が何かお分かりにならない?
もう。鈍いお方。
でもちょうど見つかったわ。
ご覧になって。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
====逮捕令状====
被疑者指名 ○○○○
罪名 銀行強盗
上記の被疑事実により、
被疑者を逮捕することを許可する。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
レイジョウとは令状のこと。
そして令状のことをフダともいうのよ。
あなた、銀行強盗犯の○○○○よね?
お遍路スタイルで、背中の箱に奪ったお金を入れて逃げようなんて姑息な真似を。
逮捕するわ。ざまぁ♪
ふふ。
私の正体が警察だって、もう分かっているわよね?
もちろんリーズ・ポーなんて名前じゃないわ。あれは英語で警察のポリスをもじっただけよ。
貴族でもないけれど、令嬢といえば令嬢かしら。
私の父、警察の偉い人なの。
さしずめ『警察令嬢』といったところかしら。
それにしても上手くいったわね。
霊場にいる令嬢の格好をした女が、まさか警察とは思わなかったでしょう?
令状を出すまで。
霊場の令嬢の令状。
ぷっ、くくく。
あっはっはっは。
だーっはっはっは。
おっと。
爆笑している間に逃げようとしてもそうはいかないわ。
動くとこの拳銃が火を噴くわよ。
さあ。手を挙げて大人しくしていなさい。
ピーポーピーポー
パトカーが来たわね。
そうだわ。
さっき蛇に向けて発砲したこと、秘密にして頂戴ね。
でないと私、上の人に怒られちゃうから。
まあ、もっと上の父に言ってもみ消してもらうけど。
その場合、あなたも消されちゃったりして♥
おーっほっほっほ。
まあ。秘密にして下さるの?
思ったよりいい男じゃないの。
付き合ってさしあげてもよろしくてよ。
警察署まで、ね。
最後まで読んで下さってありがとうございます。
シャレのタイトルに納得して頂けましたら幸いです。
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