第九十五話 知る者と知らぬ者と
見たところ怪我をしている様子は無いし、武器も落としていない。どうしたのかと尋ねるとそれだけ戦えれば十分だろう、そうウォルフガングさんは言った。
「イリス様を取り戻すためにエルフの里へ行くだけなら、エレクトラ様の妹が協力してくれれば問題無いだろう。元々エルフの里は放っておいても勝手に自滅する、というのが大半の見方だ。連中の魔法が使い辛い今であれば、お前の腕があればなんとかなる。こんな状況で無ければもっとお前の腕を試したかったがな」
ここまで止めなかったのは弱いと思われていたからで、筆頭として合格レベルに達したから止めるということのようだ。たしかにエルフの里へ行く、そしてエルフだけが相手であれば何とかなるだろう。
魔神がいるなんて口が裂けても言えないけど、タウマス王が万が一に備えて準備してくれているのは助かる。負けるつもりはないが、こちらもヴァルドバたちに後のことは託してあった。
「お眼鏡にかなったのであれば幸いです」
そう言って一礼し剣を鞘に納めると同時に、ウォルフガングさんも近くにいた兵士に棒を手渡す。
「姫様のこと、頼んだぞ? まだあんな小さい子どもなのに二回も誘拐されるなど、どんな事情があれ許されることなど有り得ない。王とエレクトラ様に行くなと言われなければ、俺様が行っていたところだ」
滲み出る怒りの感情を抑えつつ、右手を差し出されたので
「全力で事に当たらせて頂きます」
そう答えるに留めて手を握ると強めに握り返される。必ずやと言いたいところだが相手は魔神なので嘘でもさすがに言えず、苦笑いして誤魔化すと鼻息荒く手を離された。
「十分に英気を養ってからエルフの里へ行くが良い。この町での飲み食いも宿も物品の購入も、全て俺が持つ。一番高い宿に泊まり美味いものをたくさん食べ、英気をしっかり養ってくれ」
「え!? そんな申し訳ないです!」
「馬鹿を言うな。冒険者に俺たちの大切な姫様の命を預けるのだ。ここで適当な宿に泊まらせ適当な食べものを食べさせその結果、腹を下し体調を崩して失敗したなどとなれば、俺の立つ瀬がない。これは姫様の代わりと思って心して受けてくれ」
そう言われてしまっては断れない。話を聞いた感じ、王妃のことも王妃だから傅いている訳ではなく、イリスのことも王の子どもだからではなく、親愛の情を持っている気がする。
「ご厚意有難く頂戴します。イリスに会ったらこのことは必ず伝えます」
「それは伝えなくてもいい。姫様が元気であればそれが一番の俺への礼だ。では頼んだぞ!」
照れ隠しするように後頭部をかきむしり、言い終えると豪快に笑いながら去って行った。これでなんとか町に入れるなと思い皆の元へ戻る。
そう言えばアライアスのことはどうしようかと考えるも、まさか何も言わずに引き渡せないし、説明して引き渡せば間違いなく酷い目に遭うだろう。
かと言って何も言わずに解放すると、最後にイリスを狙ってきそうで怖いんだよな、と思いながら荷台のラオックを見た。
―何か用か?
エリザベスのように念じれば頭の中で会話できる気がしたので、さっそくそうしてみる。
ラオック、何か良い案は無いかな。アライアスをどうしても信用しきれないが、このまま引き渡すのも寝覚めが悪くなりそうなんだが。
―寝覚めか……実にお前らしい言い方だが、概ね同意する。あの男がアライアスを見た時、目に強い殺意を宿していたしな。
だろうな。で、良い手はありそうかな参謀。
―お前の参謀になった覚えはないが、そう言われるのも悪くないな。ならば提案しよう。私はあの男を一度乗っ取っている。さすがに二度目に乗り移るのは無理だろうが、近くに居れば手や足を止めることくらいなら、私の魔法で可能だ。なので何か私が入りやすい入れ物を用意して、それを持たせればいいのではないか?
それは言い提案だ。さっそく町に入ったら道具屋で探すから、気に入ったのを選んでくれ。
ー分かった。
冒険者ランク:シルバー級
職業:二刀流剣士(初級)
魔法:生命力変換
冥府渡り(デッド・オア・ダイブ)Lv.2
魂斬り (ソウルスラッシュ)
仲間:エイレア(エレクトラ王妃の妹のエルフ族)
ヴァルドバ(ワーウルフ)
所持品
メイン武器:ソードブレイカー・右
サブ武器:ソードブレイカー・左
クリスタルソード(王妃がエルフの里から持ち出した秘剣。追憶のペンダントが無ければ抜けない。鞘のベルトを肩から斜め掛けし背中に背負う)
防具:布の服・ズボン・革の靴(初期装備)
エルフのマント(裏面に魔法陣が隙間なく掛かれ、表はど真ん中にウロボロスのマークが入ったマント)
アイテム:エリナから貰ったリュック
(非常食各種、水、身分証、支援金五十ゴールド、地図、治療セット箱)
キャンプ用品一式
水晶の荒粒
追憶のペンダント(エレクトラ王妃から借りた物。マナの木の持ち物?)
砥石一式
鉄くずの入った袋
メメリカ草(痺れ消し草の粉末一袋)
所持金:二十ゴールド




