第九十三話 指揮官の前に冒険者として
「そうかならば仕方ない」
「皆離れてくれ」
ウォルフガングさんは仕方ないと言って門の方へ移動するが、聞き分けよく諦めるくらいなら最初から絡んでいないだろう。恐らく得物を持って戻ったに違いない。
ヴァルドバやエイレア、それにラオックにそう告げ下がらせる。本当に久し振りに気持ち良く宿に泊まろう、町で食べ歩きでもしようと思っていたのに、最後の町でこんな目に遭うとはついてない。
「理解が早くて助かる。七聖剣に誘いたいくらいだ」
土煙をあげながら再度戻って来たウォルフガングさんは、大きな槌を携えていた。体に似合った相応しい武器だなと思いつつ、剣じゃないから手合わせしても死なない、などと言わないだろうなと心配になる。
「お断りしますよ。誰かの席を奪ってまで他人の席に座りたくないんでね」
「聞いたか皆の者、歴史上初めてだと思うぞ? 七聖剣入りを断られたのは。列席すれば恩恵も多いというのに勿体ない」
「列席すれば手合わせしなくて済むんですか?」
「御冗談を。これは資格試験だ」
断っているのに押し売りの資格試験なんて、悪徳商法じゃないのかと思いつつ、相手の出方を見ていると真っ直ぐ突っ込んで来た。
早くは無いので普通ならのんびり待つところだが、リーチは確実に長いだろうし、動いた瞬間に避けるくらいの気持ちでいよう。
「攻めずに受けようなどと見下すような真似をする!」
「!? 冥府渡り!」
素早いとは言えない速度で走り間合いを詰めて来ていたが、振り被ると同時に滑るように一気に間合いを詰めてくる。足の防具に特殊な加工がされているのか、それとも独自の走法なのか知らないが手札をオープンして来たので、こちらも手札を一枚切って掻い潜り連撃を腹に入れた。
「っくは!」
「おいおい本当かよ……俺様の地滑り薙ぎを避けただけでなく、何発も腹に入れていったぞ」
通り過ぎて背後に回り込み、深呼吸をして急いで息を取り込む。少しして落ち着いた後でウォルフガングさんを見ると、こちらに背を向けたままそう呟いて震えている。
主語が変わり本気では無かったから本気を出すとか言う、嫌なパターンでないことを祈るしかない。
「俺様? 急に主語が変わったが」
「そりゃお前、皆が皆レオンの爺さんみたいに上品な代物じゃないさ。七聖剣としての強さは召し上げられた時に、そして品性は後付けだ。私などと言うのはこそばゆいが、そういうのを求められるのも筆頭の仕事。お前も他人の上に立てばそうなるし、ならなきゃ失格だ」
「じゃあ前線の指揮官としてこれで手合わせは終わりにしましょう? 指揮官が無責任に野良の冒険者と手合わせして、まかり間違って怪我をしたら国家の損失ですから」
「お前に終わらせる権利など無いし、その言い方が気に食わない。それで理由としては十分だ……陛下も御認めになろう!」
なぜこんなおっさん冒険者に、国家の重鎮がそこまでムキになるのか分からない。一撃受けて終わりにしたいところだが、あんなもの受けた日には里へ行く日数が伸びてしまう。
魔神の気が変わって滅ぼしに来ないとも限らないし、里を離れたらこちらがマナの木のバックアップを受けれなくなる。
相手のプライドを傷つけずに終わらせる方法はないか、と考えたが思いつくまもなく、またあの攻撃が始まったので今度は距離を測り飛び退いた。
「民が巻き込まれない位置へ飛び退くとは見上げた奴! だが手加減などしない!」
悪党のような言動のウォルフガングさんは、地滑り薙ぎを一度空振った後で即もう一度モーションに入る。一回目は冥府渡りを使わずに避けた御蔭で、今回は使用して避けることが出来るが、この感じでは避けても追ってくる気がした。
「冥府渡り!」
ならば負えなくするまでだ、と考え冥府渡りを使用しこちらが先に間合いを潰し、足を狙って機動力を削ぐことにする。
冒険者ランク:シルバー級
職業:二刀流剣士(初級)
魔法:生命力変換
冥府渡り(デッド・オア・ダイブ)
魂斬り (ソウルスラッシュ)
仲間:エイレア(エレクトラ王妃の妹のエルフ族)
ヴァルドバ(ワーウルフ)
所持品
メイン武器:ソードブレイカー・右
サブ武器:ソードブレイカー・左
クリスタルソード(王妃がエルフの里から持ち出した秘剣。追憶のペンダントが無ければ抜けない。鞘のベルトを肩から斜め掛けし背中に背負う)
防具:布の服・ズボン・革の靴(初期装備)
エルフのマント(裏面に魔法陣が隙間なく掛かれ、表はど真ん中にウロボロスのマークが入ったマント)
アイテム:エリナから貰ったリュック
(非常食各種、水、身分証、支援金五十ゴールド、地図、治療セット箱)
キャンプ用品一式
水晶の荒粒
追憶のペンダント(エレクトラ王妃から借りた物。マナの木の持ち物?)
砥石一式
鉄くずの入った袋
メメリカ草(痺れ消し草の粉末一袋)
所持金:二十ゴールド




