第九十話 魔神と戦うということ
「簡単な話だ。魔神は俺とは戦ってくれなかったが、お前が共に行けば戦ってくれる、いや戦わざるを得ないだろう。俺は戦いたいんだ奴と。きっと奴を殺せれば俺はこれまでにない快感を味わえる」
小さく笑いながら黒騎士は身を震わせる。本心なのだろうがそれは一部にすぎず、すべてがそうとは思えなかった。
元いじめられっ子の俺からすると、恐れと怯えを武者震いと言っているあの感じと似ている。昔虐げられ抑圧され逃げられなかった恐怖から、鎧を着たことで逃げられはしたものの、ずっと囚われ続けているように見えた。
強い者と戦うことであの頃の自分に勝ちつつも、圧倒的な者にあって敗北すればあの頃に戻れる、さらにそれに勝ちたいという欲を抱いている気がする。
終わり無い過去の自分の救済、黒騎士の闇とは決して叶うことの無い夢から来ている気がした。元々敵同士なのだから正直に話して恨まれても関係ないと思い、一旦ヴァルドバとエイレアに二人にしてくれと頼み、二人きりになったところでそのまま黒騎士に話した。
「ふふ……なるほどな。お前の言っていることは正しいかもしれん。どうにもお前を他人と思えないのは、恐らく俺と似たような経験があるのだろうな」
「じゃあそうなのか?」
「大筋はそんなところだ。まぁもっと細かいことが色々あった気がするが忘れた。お前の言う通りだとして俺はどうやったら救われる? この鎧を着た以上、もはや死以外に脱ぐ方法は無いのだ」
「探してみたのか?」
「それは俺の望みではない。過去の弱い俺を救う……いや、倒して強いと世界に分からせたい、という願いだと認めたとして、ならば今の俺のやっていることは本心だろう? ならば止まる理由はない。魔神と戦うことはお前にとっても利になる話だ。あの二人では魔神に対抗できない」
「対抗できなくはないが」
「無理だと分かっているはずだ。触れることすら敵わん。俺を信じろなどと薄気味悪い話をする気はない。俺を戦わせろ。俺は魔神と戦いたいんだ心の底から」
兜の隙間から一瞬見えた目からは、願いの強さが伝わってくる。黒騎士の言うように戦力はいくらあっても良い、それも魔神に対抗出来るなら今は一人でも欲しい。
だが勝てる戦とは言えないものに、まるで生贄を連れて行くようなことをして良いのか。それはいじめっ子が俺に抱いていたように、自分の欲や願いを満たすためのアイテムとして見ていないか。
「お前と俺が似ている点があるとして、俺は殺しに走りお前は命を奪わない、という真逆の道を行っているのだから、勝ち目のない戦いに参加したいと言われて良いと言わんだろう。だがお前も分かっているはずだ。人はいつか必ず死ぬ。なら俺の望み通り死にたいのだ。願いを叶えてくれコーイチ」
黒騎士としては俺の気持ちを理解した上で、捨て駒ではなく願いを叶えるために戦わせて欲しい、という理由を提示して来た。こうまで言われてしまってはもうダメだとは言えない。
「分かった。一緒に行くのを許可する」
「ありがとうコーイチ」
「だが隣で勝手に死なれたら困る。必ず生きてくれ。俺はまだお前に勝ってないし、リックさんも仇討ちがやりたいだろうから」
「リックは知らんが、お前のその言葉は覚えておくよ。許可をくれて改めて礼を言う。あの愚鈍なエルフの処理はお前に任せる。俺は先にエルフの里の入口で待っている」
そういうと黒騎士は立ち上がりこちらに手を伸ばしてくる。俺個人としては恨みはないので、一時の共闘相手として礼を失しないよう握手を交わした後、黒騎士は闇の中に消えていった。
「相変わらずおっかないやつだけど、魔神と一緒に戦ってくれるってのは心強いわね」
完全に気配が消えた後でエイレアとヴァルドバがこちらに戻ってくる。
冒険者ランク:シルバー級
職業:二刀流剣士(初級)
魔法:生命力変換
冥府渡り(デッド・オア・ダイブ)
魂斬り (ソウルスラッシュ)
仲間:エイレア(エレクトラ王妃の妹のエルフ族)
ヴァルドバ(ワーウルフ)
所持品
メイン武器:ソードブレイカー・右
サブ武器:ソードブレイカー・左
クリスタルソード(王妃がエルフの里から持ち出した秘剣。追憶のペンダントが無ければ抜けない。鞘のベルトを肩から斜め掛けし背中に背負う)
防具:布の服・ズボン・革の靴(初期装備)
エルフのマント(裏面に魔法陣が隙間なく掛かれ、表はど真ん中にウロボロスのマークが入ったマント)
アイテム:エリナから貰ったリュック
(非常食各種、水、身分証、支援金五十ゴールド、地図、治療セット箱)
キャンプ用品一式
水晶の荒粒
追憶のペンダント(エレクトラ王妃から借りた物。マナの木の持ち物?)
砥石一式
鉄くずの入った袋
メメリカ草(痺れ消し草の粉末一袋)
所持金:二十ゴールド




