第九話 高難易度の依頼
「……面倒な依頼を押し付けないでいただきたいのですが」
「ここから西に向かって馬車で行くと4日ほどのところにある、首都ヲスカーのギルドへの護送依頼です」
「取りつく島が無いな……って護送!? 俺まだブロンズじゃなかったでしたっけ?」
「自業自得です。リックさんとアヤメさんに手ほどきを受けた人間に、誰がただの荷物運びを頼むんですか? 買い出しを頼んだりしますか?」
偶然リックさんに出会って、シスターにまで教えを乞うことが出来たのは幸運だ。今周囲に稽古の効果を身をもって知っているのは自分だけだが、七聖剣のリックの手ほどきを受けた、ということの凄さは先ほどのギルド内にいた人たちの反応で分かる。
分かるがそれをはいそうですかと言う訳にはいかない。何しろまだ一人で何一つ成し遂げていないのに、他人を守りながら行ったこともない町へ送り届ける、なんていうのは難易度が跳ね上がり過ぎだろう。
まぁそんなことをエリナが考えていない訳がない、とは思った。彼女は過激ではあるが俺のような変人のおっさんにも、駄目なことは駄目だとちゃんと言ってくれる人だ。
嫌がらせをしたり無理なことを押し付けたりはしない、そう勝手に信頼している。とは言え出来ればもっと確実な人に担当してもらいたいので、ここは折れずに提案だけでもしてみよう。
「だ、だとしてもですよ? ほら、簡単なモンスター退治とかあるじゃないっすか……」
「もちろん考えてました。ですがブロンズ帯のモンスター退治では合わないので、ギルドでも協議した結果、この護送依頼完遂をもってシルバーランクへ昇給させる、ということで話が付いてますのでやってください」
「俺との話はまだついていないかと……」
「知りません。組織に属した以上、組織の方針に従ってください。最初に署名しましたよね? それが嫌ならフリーでやるか爵位でも頂いてください」
組織の恩恵を受けるのだから、組織に従うのは当然の話だ。エリナのぐうの音も出ない反論に俺は押し黙るしかない。彼女やギルドとしても思案した結果の命令に近いものだ、というのは雰囲気や言葉から理解出来る。
思えば組織に所属するのが嫌で個人の配送業をやってたのだから、異世界といえど自由に生きるなら個人でやるか名をあげるしかない。今はフリーでやれるほどの伝手も人望も名声も無いので、ここは大人しくギルドの方針に従おう。
「分かりました。で、護送対象は?」
「物分かりが良くて助かります。外で待っててください」
厳しい二か月間を乗り越えてレベルアップして戻ったら、依頼内容がレベルアップしていたでござる、などとしょーもないことを心の中で呟きつつ外に出る。
「お待たせしました。この子を護送してください」
「はーい……って、え!?」
エリナの声に振り向くとそこには金髪ボブカットで強めの癖毛、耳の尖った白のワンピースを着た子供が一緒にいた。緊張しているのかエリナのスカートの裾を握り、身を寄せて隠れつつこちらを見ている。
「え!? じゃありません。この子が護送対象のエルフ族の子どもです。ちなみに連れ去られたり殺されたりしたら民族紛争になるし、相応の罰が下るのでくれぐれも無事送り届けて下さいね」
「……え? 俺本当に何かしてませんか? 復帰初回でいりなり子供の護送なんていう、ハイレベルな依頼やらされるなんて」
「仕方ありません。リックさんかアヤメさんに頼みたかったんですが、お二人からのご指名でもありますので」
「オイ何してくれてんだあの二人! 可笑しいだろ!」
ギルドの苦渋の決断かと思っていたら、有名人からの後押しだったと分かり、愕然として膝から崩れ落ちた。実戦経験もない独り立ちもしてない俺を、こんな難易度高そうな依頼に推薦するとかどういうことだよ、と憤りを隠せず見悶えているとエルフの子は笑っていた。
どうやら俺の動きが面白いようである。警戒心が緩まって良かったような気もするが、これからの事を考えれば不安しかない。
一対一の命のやり取りもしたことがない最底辺に、それをやりつつ子どもを守れとかハードル高過ぎだ。獅子が子を谷に突き落とすどころじゃなくて、富士山の火口に突き落とすレベルだぞこれ。
冒険者ランク:ブロンズ初級
職業:二刀流剣士(初級)
魔法:生命力変換
仲間:無し
所持品
メイン武器:銅の剣(初心者講習修了記念品)
サブ武器:ショートソード(リックさんから頂いた初級講習完了記念品)
防具:布の服・ズボン・革の靴(初期装備)
アイテム:無し
所持金:五十ゴールド




