第八十九話 地獄で女性が夢見た鎧
「そんなむごい光景を見たら、マナの木どころか俺ですら気持ち悪くて無理」
ヴァルドバの言うようにマナの木が弱っているのは、恐らくそうした恐ろしい出来事の数々と、魔神ラヴァルと同じように呆れたからかもしれない。
純粋で良い子どもであるイリスと触れ合えば、そういう醜さ恐ろしさを忘れられて回復できるのかもしれない、そう呟くと二人ともそう言うことなのかもねと同意してくれる。
ラオックはというと起きて話は聞いているけど黙っていた。あくまでも主はラヴァルと言うことに変わりはなく、黙ることで主を売るような真似をしない、ということの意思表示をしているように見えた。
こちらとしても主を売るようなことを強要たくはないので、彼を見ながらそれで良いという意味を込めて頷く。
「まぁこれまでと方針としては変わらない。思った以上にエルフ族の自爆だけど、それにイリスは関係無い。あの子を助ける為に俺は魔神と戦う。二人には他に邪魔が入らないようにして欲しい」
「一緒に戦わなくて良いのか?」
ヴァルドバもワーウルフの戦士だから、本当であれば戦いたい気持ちはあるだろう。だが相手は魔神なのでどうなるか俺にも分からないし、駄目だった場合はその後のことを何とかしてもらいたい。
なので彼とエイレアには勝てなかった場合、クリスタルソードを回収してヲスカーまで戻り、陛下と王妃に事の詳細を伝えて欲しいと頼んだ。
左肩に居るラオックに向いて言葉に出さず、俺が倒れたらこの鎖も無くなるだろうから、その時は主のところへ戻ると良いと思うと通じたのか頷いた。
一瞬静寂が訪れ、星空を見上げていると遥か後方からどす黒い、久し振りに感じる殺気を感じる。どうやらそれは俺にだけ向けられているようで、二人は何も気づいていないように見えた。
ただ一人気付いたであろうラオックは、わざと欠伸をして見せ肩から降りテントの方へと歩いて行く。
「コーイチごめんね……私たちのしでかしたことの尻拭いをさせちゃって」
「良いよ。向こうは特殊な存在っぽいし、何よりご使命だからね俺を。二人には難しい仕事を頼んで申し訳ないけど」
―上級種族であるエルフが人間族に頼るとは情けないな、エイレアよ。
どす黒い殺気が近付いてくることで、俺にだけ向けていても二人もさすがに気付く。
「おや、親玉のご登場とは恐れ入ります」
「アルヴの件のことか? ふふ、そう嫌味を言わないでくれコーイチ。あれは彼女らに自己紹介をさせようと思っただけなのだ。俺も座っても良いかな?」
「襲撃が挨拶とは斬新だが、俺たちの間だとそれが正しいか。隣と言わずどこでもどうぞ」
鎧を着たまま隣に座った黒騎士からは、先ほどまで発していた殺気はもうなくなっている。魔神ラヴァルも恐ろしかったが、殺気があろうとなかろうと黒騎士の威圧感はさすがだ。
「競争しようと思っていたのだがな……先にエルフの里へ潜り込もうとしたところで魔神に見つかり、お前などに用は無いと言われてな」
「大人しく引き下がって来るなんて、これまた珍しいことをする。これは明日は雨かな?」
「雨か……ここ久しく振っていないから良いかもしれん。とまぁそんな軽口はあの愚鈍なエルフに任せるとして、ここは一つ私に関する情報を訂正しようと思って来たのだよ」
「黒騎士の情報の訂正とは何かな」
「お前はひょっとしてあのエルフから話を聞き、可哀想なエルフか何かだと思っているかもしれんと思ってな」
「違うのか?」
「始まりは可哀想な者だったかもしれんが、今は違う。私は純粋に戦いを求めているし、戦場で死ぬのが私の望みだ。運が良いのか私はまだ生きているので、望みを叶えるために動いている」
エルフの部分を否定したように聞こえるが、ということはエルフではないのか? そうすると一体誰なんだ黒騎士は。
なぜエルフ族でも無い者がダークエルフたちを助け、さらに地獄で女性が夢見た鎧などという、エルフの里の秘宝を身に着けているのか。
「昔話や俺の可哀想な話をするなんて性に合わない。戦争はこのまま行けば起こるだろうが、恐らくそれは魔神による一方的な虐殺になる。そんな面白くも無いものにされては困るのだ」
「俺は戦争自体起こされたら困るのだが」
「茶化さないでくれコーイチ。はっきり言う。俺もお前たちと共にエルフの里へ行かせてくれ」
一瞬何を言っているのか分からず途方に暮れてしまう。エイレアから名前を呼ばれなんとか我に返り、どういうことなのかと真意を問う。
冒険者ランク:シルバー級
職業:二刀流剣士(初級)
魔法:生命力変換
冥府渡り(デッド・オア・ダイブ)
魂斬り (ソウルスラッシュ)
仲間:エイレア(エレクトラ王妃の妹のエルフ族)
ヴァルドバ(ワーウルフ)
所持品
メイン武器:ソードブレイカー・右
サブ武器:ソードブレイカー・左
クリスタルソード(王妃がエルフの里から持ち出した秘剣。追憶のペンダントが無ければ抜けない。鞘のベルトを肩から斜め掛けし背中に背負う)
防具:布の服・ズボン・革の靴(初期装備)
エルフのマント(裏面に魔法陣が隙間なく掛かれ、表はど真ん中にウロボロスのマークが入ったマント)
アイテム:エリナから貰ったリュック
(非常食各種、水、身分証、支援金五十ゴールド、地図、治療セット箱)
キャンプ用品一式
水晶の荒粒
追憶のペンダント(エレクトラ王妃から借りた物。マナの木の持ち物?)
砥石一式
鉄くずの入った袋
メメリカ草(痺れ消し草の粉末一袋)
所持金:二十ゴールド




