第七十五話 マイヤに向けて
最愛の娘をエルフ族に殺されたとなれば、王は怒り心頭で戦を始めるだろう。戦が始まれば色々な思惑が交差し、ひょっとするとこの国自体が破滅へ向かうかもしれない。
魔神が相手とは言え負けることは許されない、という理由が追加されなんだかどっと疲れが出る。なんとか重い気を引き摺りながら門から出て馬小屋に向かう。
「アライアスはいないみたいだけど、どうする?」
「探し出してまで連れて行くのも可哀想だし、そっとしてあげよう」
自分であればもうさすがに戻ってこれないので、そこは察してあげて何も言わずに別れることにした。ここから先で会うことがあるとすれば、敵同士になるだろうし情けは無用だろう。
ヤクテの町からマイアの町を目指して突き進む。マイアまではまだ道が通りやすくなっている方だ、そう八百屋の御主人に聞いていたが、これまでよりも荷台から悲鳴が聞こえる回数が増える。
「このガタガタは、どうにかならないのかしら……ねっ!」
「衝撃を吸収できるようなものを、車輪に付けられればいいんだけどね。ゴムの木とか無いの?」
「ゴムの木って何?」
「パラゴムノ木っていう、木に傷をつけると乳液が出てくるっていう」
「何言ってるか全然分からない」
天然ゴムなら合成とかじゃないし、エルフの里で作られてるのかなとか思ったけど、どうやらそうでもないらしい。ゴムを作れるほどの乳液が出る木というものが、この世界には無いかまだ見つかっていないのかもしれない。
ひょっとすると世界の文化に影響を与えかねないので、あまりあちら側の知識を出さない方が良いだろうなと思った。こういう時、浅い知識で良かったなと安心する。
元の世界に戻ることはもうないだろうし、この世界の一員としてなるべく星を汚さず、虐殺などにも関与せずにいたい。
「ちょっと休憩して! お尻が痛い!」
エイレアの声が上がって一旦サジーを止めたが、水の流れる音がしたのでそこまで行くことにした。進んでいくと森の間に滝と川があり、そこでサジーにも休憩を取らせることにする。
地図的にもまだまだ先は長く、ここからは野宿確定なので無理せずに進むことにした。休憩中に二人に森で取れるもので、売って資金になりそうなものはないかと尋ねる。
「メメリカ草なんて見つけたら取って道具屋に売りましょうよ。川で取れるシビレっていう魚が美味しいけど、偶にシビレてメメリカ草を飲まないと危険らしいわよ」
「エルフ族では食べないのか?」
「うーん私や姉さまはお肉も魚も食べるけど、今のエルフ族の多くはあまり進んで食べないかも。長老からエルフ族は自然との調和を重んじる為、なるべく肉類を食べない方が魔力も上げやすい、っていうお触れを出してたから」
前までならそういうものかと思ったけど、魔神ラヴァルのことを知った今は違う。彼がそうしたかは定かではないが、恐らくそのお触れは嘘だろう。例の魔法が使えないエルフに関しても、真実は違うのではないかと今では思っていた。
魔族にイリスの誘拐の協力を頼んだのも、魔神ラヴァルが居たから簡単だった、いや、もう手中に収めたからこそなのかもしれない。嫌い合ってそうなイメージの二つの種族が、あっさり目的のために手を結んだことへの違和感の正解は、そう言うことなのだろう。
「なら人間族の町がある今のうちに少し採取して、旅費に使おう。足りないってことはないけど、一応用心するに越したことは無いし」
「コーイチは防具を買わないのか?」
「冥府渡り使うからさ、防具あると素早さ落ちそうで怖いんだよね今は」
体が重くなると速度が落ちるだけでなく、エネルギーの消費も多くなるため酸素取り込みも多くなり、結果として冥府渡りの持続時間も減る。
冒険者ランク:シルバー級
職業:二刀流剣士(初級)
魔法:生命力変換
冥府渡り(デッド・オア・ダイブ)
魂斬り (ソウルスラッシュ)
仲間:エイレア(エレクトラ王妃の妹のエルフ族)
ヴァルドバ(ワーウルフ)
所持品
メイン武器:ソードブレイカー・右
サブ武器:ソードブレイカー・左
クリスタルソード(王妃がエルフの里から持ち出した秘剣。追憶のペンダントが無ければ抜けない。鞘のベルトを肩から斜め掛けし背中に背負う)
防具:布の服・ズボン・革の靴(初期装備)
エルフのマント(裏面に魔法陣が隙間なく掛かれ、表はど真ん中にウロボロスのマークが入ったマント)
アイテム:エリナから貰ったリュック
(非常食各種、水、身分証、支援金五十ゴールド、地図、治療セット箱)
キャンプ用品一式
水晶の荒粒
追憶のペンダント(エレクトラ王妃から借りた物。マナの木の持ち物?)
砥石一式
鉄くずの入った袋
メメリカ草(痺れ消し草の粉末一袋)
所持金:二十ゴールド




