第七十一話 新技とその標的
技を教えてもらえるのは助かるが、イリスは無事なのだろうか。
―イリスはもちろん無事です。退屈していたのですが、あなたとの旅で覚えた裁縫を皆でやっていて楽しそうにしています。マナの木も順調に回復しているのですが、長老たちの動きが変なのが気になり、急いで技の伝授に来たのです。
裁縫が気に入ったイリスが皆と編んでいる姿を想像し、微笑ましくなり元気なことを聞いて安心したが、長老たちの動きも気になる。技を急いで教えに来たということは、恐らくそれはエルフの里で必要なのだろうなと察した。
―お察しの通りです。冥府渡りは強化系のスキルですが、今回は生命変換の応用技をお教えしますね。名前は魂斬り、文字通り魂を斬る技になります。
文字通り魂を斬ると言われてもまるでピンとこない。
―この世界には肉体を持たない霊魂や、魔神や神など実体を持たない者も存在します。そういう者たちを斬るための技です。
神様を斬るような恐ろしい事態になって欲しくないし、霊魂を斬るのも存在を消すって感じで嫌なんですが。
―霊魂を斬るのは存在を消すというよりは、悪霊となった魂を成仏させるのに近いです。あなたが悪人であれば良き霊を斬ることも出来ますが、発言や行動からして無理でしょう。神を斬る時、それは魔神の類しかないと私も願っています。
成仏させる……なんだか僧侶っぽいな。
―あなたの命を極力奪わない、という生き様に合った技と思います。この技は生命変換の応用で、簡単に言ってしまうと握っている武器に意識を集中し生命力を注ぐ、という方法で強化します。こうすることで実体のない存在を攻撃可能になるのです。
魔法でそういったものは攻撃不可なのだろうか。
―魔法でも攻撃自体は可能ですが、魂斬りよりもダメージは低くなります。この技の良いところは誰かに乗り移っていた場合、ターゲットを感じそれに対して狙ってダメージを与えられます。
魂斬りって物凄い技なのでは?
―物凄い技なのですがリスクは大きいのです。あなたに伝授している技は、すべてそういった類なのが本当に申し訳ないのですが……。
エリザベスから見てそれが必要だし、俺がそれでなんとかするしかないからこそ、こうして教えてくれていると思っているよ。
―ありがとうございます。あなたにばかり頼って申し訳ないのですが、よろしくお
―お前が勇者か?―
知らない声に驚き目を開けると真っ暗な世界に俺だけが立っていた。
―ほう……たかが人間の癖にこの世界に立てるとはやるではないか……やはり貴様が勇者なのだろうな。
前方から突然強い風が吹き、それを遮るために半身になりながら、目元へ腕を横にして上げる。しばらくしてそれが止んだので姿勢を直し前を見た。
「な、なんだこれは……」
いつの間にか自分は何処かの里へ来てしまったらしい。巨大な木が先の方にあり、周りには木で作られた家が並んでいる里の中に立っていた。全て灰色なので現実では無いだろうが、自分の記憶には無い景色だ。
誰かいないか探しつつ歩いていたが、人どころか生き物すらいないような気がする。巨大な木の麓まで来てみるとそこに一人、灰色ではない人が背を向けて立っていた。声を掛けようと近付こうとした瞬間、こちらを振り向く。
「よく来たな勇者よ。名は何というのだ?」
その人物はパッと見は薄緑のローブに身を包んだエルフだが、目をよく見るとそうではないと分かる。瞳孔が縦長で黒目が赤く白目の部分が黒い。瞳のせいだけでなくその人物が醸し出す、禍々しい気に恐怖心を抱いた。
「聞こえぬ……訳ではないな。お前ほどの者なら我が気の恐ろしさ、分かると思っていたがやはりそうか」
「……俺はコーイチというものだ。別にそこら辺のおじさん冒険者で、お前ほどなんて言われる存在じゃないが」
「謙遜するのも良い。それでこそ私が求める勇者だ」
「勇者を求めているような者には見えないが」
冒険者ランク:シルバー級
職業:二刀流剣士(初級)
魔法:生命力変換
冥府渡り(デッド・オア・ダイブ)
魂斬り
仲間:エイレア(エレクトラ王妃の妹のエルフ族)
ヴァルドバ(ワーウルフ)
所持品
メイン武器:ソードブレイカー・右
サブ武器:ソードブレイカー・左
クリスタルソード(王妃がエルフの里から持ち出した秘剣。追憶のペンダントが無ければ抜けない。鞘のベルトを肩から斜め掛けし背中に背負う)
防具:布の服・ズボン・革の靴(初期装備)
エルフのマント(裏面に魔法陣が隙間なく掛かれ、表はど真ん中にウロボロスのマークが入ったマント)
アイテム:エリナから貰ったリュック
(非常食各種、水、身分証、支援金五十ゴールド、地図、治療セット箱)
キャンプ用品一式
水晶の荒粒
追憶のペンダント(エレクトラ王妃から借りた物。マナの木の持ち物?)
砥石一式
鉄くずの入った袋
メメリカ草(痺れ消し草の粉末一袋)
所持金:二十ゴールド




