第七話 シスターアヤメの授業と謎の声
「くっ!」
さすがに避けきれず、左側頭部への蹴りを左腕を立てて防ぐと彼女は目を座らせる。いじめられて死に掛けた後に、なんで暴力の練習なんてと親を恨んだこともあったが、あの時に空手を学んでおいて良かったと感謝した。
空手を習ったからと言って誰かに使ったことは無かったし、もう離れて二十年以上が経っているのに体があの頃のように動くのは、チート能力の一種なのだろうか。
「……わかりました。少し本気を出します。死なないでくださいね? 身体強化」
再度粒子が視覚として現れ、彼女の言葉が終わる前に体に吸い込まれる。一瞬だけ体の周りが赤く光ると同時に突っ込んで来た。倒しきれないこちらに対処するために何かしたんだろう、と考えると恐らくパワーアップしたと思われる。
「いってぇ!」
「死ね!」
「死ねってどういうことですか!? 殺す気ですか!?」
「黙れ!」
俺は確か魔法の授業を受けに来たはずなのに、なぜか殺されかけている……なにを言ってるのか分からないと思うが、俺が一番訳わからないんだが!
予測通りスピードそのままでパワーが上がったらしく、受け止めても吹き飛ばされてしまう。腕や足がジンジンどころではない痛みが走っており、折れてるのではないかという気さえして来た。
剣を抜いても彼女の力なら平気だろうと思わなくはないが、万が一があってはいけない。魔法だって万能ではないだろうし無限でも無いだろう。万能で無限であれば今頃は、それを使える者たちが支配する世になっているに違いない。
「チッ……どうやら覚悟は本物のようですね。ですが忠告しておきます。魔法は女性の方が強く上手く使え、魔族もエルフ族も獣族も女はいます。果たしてあなたはどこまで女性不殺を貫き通せますかね」
「なるべくしたくないですね。そのためには知識を得つつ体も鍛えていきますよ……痛たた……」
―左手に意識を集中してください。
「え?」
「なんです?」
やっとシスターアヤメが止まってくれ、一息吐けるようになると同時に痛みが増してきた。どうしたものかと思っていると声が聞こえてくる。目の前の彼女の声では無いし、いったい誰の声なんだろう。
―言われた通りにしてみてください。きっとお役に立ちますから。
声は透き通るような綺麗な女性の声で、こちらを騙そうとしているようには感じなかった。取り合えず目を瞑り左手に意識を集中する。
―それを右の痛い箇所に当ててください。
指示通りにするとシスターアヤメに筋肉痛を治してもらった時のような、じわじわと温かな感触と共に痛みが引いて行くような気がした。
―生命力変換という、今の世界ではあなただけが使える回復スキルです。但し気をつけてください、名前の通り傷を治す代わりに生命力が減るので、使い過ぎたり大きすぎるケガで使うと死にます。寝たり食事をしたりなど、元気になるようなことをすれば生命力は回復しますから、上手く使ってくださいね。
物騒なことを言う人だなと思っていたが、目を開いたら視界がぼやけ世界が揺れ始め、前のめりに倒れ気を失ってしまう。
「目が覚めましたか?」
割と大き目なシスターアヤメの声に驚き、目を開け飛び起きる。見れば礼拝堂の長椅子に寝かされていたらしい。
「あなたはいったい何者なのですか?」
「え?」
姿勢を直し椅子に座り直すと彼女は真顔でそうこちらに問う。こういう時は転生者です! とか最初みたいに言う訳にはいかない。恐らくこの人は冗談が通じないし、殺されかねない気がしているからだ。
「リックさんから記憶喪失だとは聞いていましたが……」
「そうなんですよ記憶喪失で何も覚えてなくてぇ!」
「にしては可笑しいんですよね……私は加減は一応しましたけど割と力入れてましたのに、五体満足なんて……」
「シスターアヤメさんはシスターなのに物騒ですね……」
「ああ失礼。異教徒とテロリストには優しくするな、というのがクロウ教の経典にもありますもので」
「俺はテロリストでも異教徒でもありませんので」
「私の口真似ですか?」
「いやいや違いますよ! それより授業してもらえませんでしょうか!」
「ああそうですね……人間が使用できるのは先ほどのような身体強化の魔法と、身体回復の魔法が主です。攻撃魔法は魔力そのものが低くて使用できません。稀に魔力が高い人間もいますが、あいにく攻撃魔法は私は使えませんので、あると言うことだけ覚えておいてください」
「生命力変換って言うのは知ってますか?」
そう聞くといきなり胸倉を掴まれ強引に立たされた後で、目を座らせながら顔を近付けてきた。
「それをどこで?」
「夢で」
「意味が分かりませんが、それは禁忌ですので二度と人前で口にしないように。遥か昔、まだ人間が魔法を習得する前に使用されていたとされる、死の危険を冒すに等しい魔法とも言えないものと聞いています。あなたは生命力が高そうですが、使わないように。良いですね?」
「は、はい……」
話しが終わったらしく、彼女はこちらを突き飛ばし今日は帰ってよろしいと言い放つ。気を失ってしまった手前、これ以上続けてくれというには無理があったので、大人しくこの日は宿に戻ることにする。
外はいつの間にか夕方になっており、疲れがどっと出て宿に戻ると即布団に入り眠ってしまった。
禁忌術:生命力変換をシスターに内緒で習得した!
職業:二刀流剣士(初級)
魔法:生命力変換
仲間:なし
師匠:シスターアヤメ(クロウ教シスター)
所持品
メイン武器:銅の剣(初心者講習修了記念品)
サブ武器:ショートソード(リックさんから頂いた初級講習完了記念品)
防具:布の服・ズボン・革の靴(初期装備)
アイテム:無し
所持金:五十ゴールド




