第六十一話 別々のゴールを目指して
「口を挟んで申し訳無いが、エレクトラ王妃は秘術を使っていたと聞いているけど」
「彼女が秘術を使えたのは個人の能力とは関係ない。薬とコーイチがしているペンダントがあって始めて、秘術が使えるのだ」
追憶のペンダントというのは凄いアイテムなんだなと思いつつ、これのことも知っていて王妃のことも恨んでいないのに、なぜイリスを見殺しにするような真似をしているのか。矛盾に感じ気になって質問してみることにする。
「王妃を恨んでいないと言いながら、なぜ俺たちの邪魔をするんだ? このまま助けずに放置すれば、イリスはマナの木の犠牲になってしまうかもしれないのに」
「イリスにも王妃にも恨みは無いが、このままお前たちが任務を失敗すれば、人間族とエルフ族は戦争になる。タウマス王は娘を目に入れてもいたくないほど可愛がっているだろう?」
また戦争というワードが出てくる。俺の元の世界でも戦争を止められた無かったので、この世界でもそうなるのは仕方がないが、戦争をしなくても危険なことは幾らでもあるのにな、とは思わずにはいられなかった。
俺も同じ日本人から虐められたし、同族で争わずに支え合って生きるというのは、結局難しいのだろう。別に法律があったところで同じことは繰り返される。だからこそ倫理観を育てる教育は必要だなと改めて思った。
国を作るうえで必要そうな点に気付かせてくれるなんて、他国の厄介事に首を突っ込むのも悪くはない。他人のふり見て我がふり直せ、とはよく言ったものである。
彼女は戦争を起こすことで里を崩壊させ、自分たちのような悲劇を止めようとしているが、他の種族が支配するとなった時に改善するとは言えないだろう。
エルフ族に恨みを持つ者は彼女たちだけではないし、そうなると新たな悲劇を引き起こすだけな気がした。それでも起こすのかと言葉にして問いかけてみたところ、
「私たちは正義の味方になりたいと思ってはいない。一人でも多く未来での犠牲を出さないために行動している。その結果として私たちも恨まれて滅ぶだろうが、それで良い」
視線を下に落としながらそう言われる。言葉から長老たちと同じように恨まれ、自分たちも滅びることを受け入れ諦めているように聞こえた。
ダークエルフたちがエルフの里を何とかしたい、というのであれば俺たちの行動を邪魔する必要はない。何しろイリスを取り戻すためには、恐らく長老たちと戦う以外の道は無いだろう。
戦わずともダークエルフの話を聞いた今、とても友好的な気分にはなれない。イリスを見つけるのが最優先だが、彼女たちの話が真実か確かめる必要がある。
とは言えそれを口に出すと聞かれる可能性もあるので、それとなく伝えることにした。
「悪いが目的を果たさせる訳には行かない。実験ではなく戦争で亡くなる子供たちを見たくないし、イリスを犠牲にお前たちの目的を果たさせても、今度はお前たちを憎む人間族とエルフ族が出てくるだけだ。結局恨みの連鎖は止められない」
「エルフ族の子どもや妊婦がこのまま犠牲になり続けても良いと?」
「勘違いしているな。俺はイリスを助けたいだけだ。その為に邪魔をするなら誰であろうと戦う」
そう遠回しに伝えた瞬間、後ろから口笛の音が聞こえる。総攻撃の合図かと警戒するも、重苦しかった森の雰囲気が徐々に軽くなっていく気がした。
「……まぁ良いでしょう。あなたの全てをここで明らかにしたかったのですが、さすがに首都の近くで長居しすぎました。今日は撤退しますがここからは競争です。どちらが先に自分のゴールにたどり着けるか……ではまたお会い致しましょう」
二、三歩下がると黒騎士と同じように景色に溶け消えていく。ゴールとは恐らく相手にとっては戦争の引き金を引くことで、こちらはイリスを取り戻すことだ。
イリスを助ける為だけが目的だったのに、何か色々おまけがついて来て困ったな、そう思いつつ溜息を吐いた。
冒険者ランク:シルバー級
職業:二刀流剣士(初級)
魔法:生命力変換
冥府渡り(デッド・オア・ダイブ)
仲間:エイレア(エレクトラ王妃の妹のエルフ族)
ヴァルドバ(ワーウルフ)
所持品
メイン武器:ソードブレイカー・右
サブ武器:ソードブレイカー・左
防具:布の服・ズボン・革の靴(初期装備)
アイテム:エリナから貰ったリュック
(非常食各種、水、身分証、支援金五十ゴールド、地図、治療セット箱)
キャンプ用品一式
水晶の荒粒
追憶のペンダント(エレクトラ王妃から借りた物。マナの木の持ち物?)
砥石一式
鉄くずの入った袋
所持金:二十三ゴールド




