第五十二話 記憶の中の声
「そうか……現状人間族の数自体、新たに国を作るほど増えてはおらぬ。徐々に増えてきたので領土拡大をしてはいるが、なるべく他種族のいなさそうなところか、あるいは共存するような感じで移住を計画している状況だ。なので国が欲しい、ということであれば私から奪うか引き継ぐか、はたまた己で開拓するかだが」
王が物騒なことをいうので周りにいる兵士たちがざわつく。人間族の営みを守り徐々に繫栄させ兵士にも慕われている、そんな王様を倒して自分が成り代わっても運営できる気がしない。黙っていると後々大きな火種になる気がしたので、誤解を解くため急いでそのことを伝えることにした。
「是非自分で開拓したく思います。タウマス王たちから奪ったり引き継いでも運営しようがないですし、人間族での国づくりが無理なのであれば開拓の方が、性に合っていますので」
「ふむ……そうなると私は何をしたらよいかな」
「開拓する際に御力添え頂ければ幸いです。その辺りの知識も目星もありませんので」
「面白い。それに関しては人間族にとっても良いことなので、協力は出来る範囲で最大限すると約束しよう。リック、あとで例の女史を紹介してやってくれ」
「はっ」
「他に何かコーイチから何かあるか?」
「言うまでの事でないのは重々承知しておりますが、イリスの事を大切にしてあげてください。旅の最初から最後までとても良い子で、共に過ごした日々は宝物です」
そう長い期間でも無かったけど、異世界に来て初めてその世界の人と一緒に過ごした、楽しくも色々あった濃い日々を思い、おじさんだからか目頭が熱くなる。嗚咽を漏らしてはみっともないので堪えた。
「よくぞ多くの敵から我が愛娘を守ってくれた。当初とはまったく違う展開で我々も肝を冷やしたが、お前が予想以上に強くて助かった。娘は今後敵の手に渡すことは無いくらい、強固な守りを固めるつもりだ。奪われたとしても私の全てを掛けて取り戻すだろう」
「そうなのですね良かった。でも必要なのはコーイチ一人だけです」
突然後ろにいるエイレアがそう言った。言ったが声色が彼女ではなく、生命変換や冥府渡りを教えてくれた声だったので、驚き振り向くとエイレアは立ち上がり掌を前に向けている。
「何のつもりですか? エイレア」
「エイレアは今眠っています。コーイチのお陰でわざわざ仕向けなくても、首都ヲスカーに興味を持ってくれて助かりました。この子は少々用があって借りているだけで、終わったら返しますので安心してください」
「誰なのです? あなたは」
「……哀しいですねエレクトラ、昔はよく遊んだのに私を忘れてしまって」
何をするつもりか知らないが止めようとするも、体が動かない。周りも誰も動けず、ヴァルドバに至っては倒れいびきを掻いて寝ていた。しばらくエイレアを見ていると、突き出した掌の先に寝ているイリスが浮遊して近付く。
「娘に何をするつもりなのですか?」
「少々手伝って頂きたいことがあるのでお借りします。あとコーイチにマナの木まで行くよう指示してください。それでだいたい問題は解決するでしょう。間違っても軍勢を差し向けたりしないように。今のエルフの里は窮鼠状態ですから、他の種族を利するだけですよ? ではさようなら」
そういうとエイレアは力が抜け床に倒れ落ち、浮かんでいるイリスは黒騎士が撤退する時のように、景色に溶けて消えてしまった。
少し間があったあとで、誰かがイリス様がさらわれたぞと声を張り上げ、皆驚いて体を跳ね上げ立ち上がる。リックさんやタウマス王は王座の間を走って出て行ったが、俺は意味がないと考え天井を見つめた。
俺に技を教えてくれた声の主で間違いないだろうし、あの声から悪意や敵意は一切感じられない。マナの木まで来いと言っていた上に、エイレアもエレクトラ王妃も知っていたということは、エルフの里の関係者なのだろうか。
冒険者ランク:ブロンズ初級
職業:二刀流剣士(初級)
魔法:生命力変換
冥府渡り(デッド・オア・ダイブ)
仲間:エイレア(エレクトラ王妃の妹のエルフ族)
ヴァルドバ(ワーウルフ)
所持品
メイン武器:銅の剣(初心者講習修了記念品)
サブ武器:ショートソード(リックさんから頂いた初級講習完了記念品)
防具:布の服・ズボン・革の靴(初期装備)
アイテム:エリナから貰ったリュック(非常食、水、依頼書、身分証、支援金)
水晶の荒粒
所持金:三十三ゴールド




