第四十六話 普通に起こされない人
「いってぇ!?」
割と強めの衝撃が右頬に発生し、驚き目を開けるとイリスが体に乗っていた。彼女は満足なのか笑顔でこちらを見た後で体から降り、何も言わずに朝のルーティーンに入る。
恐らく昨夜のことを怒っているのだろうなと思い、ベッドから出て謝ろうとするも体に力が入らない。こんなことは初めてで愕然として天井を見上げていると、イリスが憮然とした表情で視界に入ってきた。
彼女に対し昨日はごめんねと謝るとしばらく黙った後で、一回だけ許すと言ってくれたのでほっと胸をなでおろす。なんとか会話できるようになったイリスに対し、外に出てリックさんを呼んで来てくれないかと頼む。
「どうしたコーイチ」
外にいたらしいリックさんは直ぐに入って来てくれたので、体の状態を伝えると分かったと言って再度外へ出て行く。イリスにはご飯を食べてくるように伝え、分かったと言って彼女も外へ出て行った。
息を止めるだけでリスクなく相手より倍以上動ける、なんていう素晴らしいチート能力ではないらしい。最悪死ぬとは言われていたので、生きているだけマシなのかもしれないが、これでは食事どころかトイレにも行けないので困る。
やることもないので二度寝をしていると、いつもの朝のようにイリスがダイブしてきて目が覚めた。リックさんも一緒に居り、強力な助っ人を頼んだから安心しろというが、その言葉を聞いた瞬間に背筋が凍る。
知らない人の方が良いなと祈りつつ、イリスと散歩して来ると言って出て行ったリックさんを見送り、再度眠りに就いた。
「起きて!」
「え!?」
突然馴染みのない大きな声がし、驚いて目を開くとエイレアがそこに居てまた驚く。異世界での俺は普通に起こされるということがないのか、と嘆きながら上半身を起こすとエイレアは
「私気になるからコーイチたちと首都へ行くことにした」
そうご飯でも食べに行くみたいな感じで軽く言う。首都にテロをしたんじゃないのかと問うも、姉であるエレクトラ王妃から特別に来ることだけは許す、そう言われたと胸を張って答える。
胸を張れる要素がどこにあるのか分からないし、イリスの性格やレオンさんから聞いた話からして、呑気に行ってただで済むわけがないと思うと伝えた。
「姉さまは昔から私を一番に考えてくれているわ。きっとそれは子どもが出来た今でも変わらない、だからこそ私に来いと言ってくれてるのよ」
「可愛さ余って憎さ百倍という言葉があるんだが……」
「本当に人間族って心配性ね! まぁ見てなさいって! じゃあ私イリスたちとお昼食べて来るね!」
鼻歌を歌いながらエイレアは外へ出て行く。彼女には笑顔で来いと言っている王妃の映像が、頭の中に流れているのだろうが、俺には鬼の形相で手招きしている姿しか思い浮かばない。
まぁ本人がああいっていることだし、止めても聞かないなら放置する。せめて今だけは幸せな夢を見るが良いエイレアよ、などと思いつつ再度寝ることにした。
「この……馬鹿たれが!」
「んごぉ!?」
そろそろ普通に起こしてもらいたい心臓に悪いと言いたくなったが、投げ飛ばされた先で壁にもたれ掛かりながら逆さで見た人物に、それを言うのは命取りになると思い言葉を飲む。
「何度言っても分からないようで……」
「いや、今回のは色々あってですね……どあっ!?」
説明出来るようなものは何も無いのだが、一応それなりに努力をしようと試みるも、足を掴まれベッドに投げ飛ばされる。
冒険者ランク:ブロンズ初級
職業:二刀流剣士(初級)
魔法:生命力変換
冥府渡り(デッド・オア・ダイブ)
仲間:イリス(護衛対象のエルフ族の子ども)
サジー(白毛で小さめの馬)
所持品
メイン武器:銅の剣(初心者講習修了記念品)
サブ武器:ショートソード(リックさんから頂いた初級講習完了記念品)
防具:布の服・ズボン・革の靴(初期装備)
アイテム:エリナから貰ったリュック(非常食、水、依頼書、身分証、支援金)
水晶の荒粒
所持金:三十三ゴールド三十七シルバー




