第四十四話 底知れぬ黒騎士
体力的には十分とは言わないが、エイレアと休んでいたお陰で良い方だ。剣筋は徐々に鋭くなり、温存していては切り殺されてしまうと考え
「冥府渡り!」
この間習得した技を早速使用して見る。世界の全てが遅くなり、黒騎士の剣も余裕で避けられたものの、彼はさらに速度を上げて襲い掛かって来た。
前回と違い相手はこちらを狙って地に足を付けて動いており、その上に敵は黒騎士である。レベル一の相手に余裕だった技では通用する保障は全く無い。
さらに時間に余裕もない。なぜなら前回よりも早く息がすいたくなっているからだ。黒騎士の一瞬の隙をついて銅の剣の剣腹で相手の腹を殴り、さらに蹴りを入れて距離を取らせ息を吸う。
「……やはりな。あの魔族は誓って雑魚ではない。最後に援護があったとはいえ、地の利も相手にあったのにお前は勝った、たかが人間族なのに」
言い終えるや否や小さく笑い出し、徐々にそれは大きくなって声をあげて笑い出した。
「何が可笑しい!」
不意打ちを狙いリックさんが背後から斬りつけるも、まるで見えているかのように半身で避け、彼を突き飛ばしこちらに向き直る。
「最初に会った時、そして今回とお前は確実に成長している、それも秘技を習得してな。やはり戦争は起こるべきだよ。俺やお前のような存在が現れるのも戦争があってこそだ」
「悪いが俺は戦争なんて起こって欲しくないね。のんびりくらしたいんだよおっさんなんだし」
「それは残念だ。お前が戦わなければイリスは死ぬことになる」
「どういう意味だそれは」
「お前にとってあの子供は大事らしいからな。戦わないというなら理由を作ってやる。あの子供を殺せば俺はお前にとっての仇になるはずだ」
「冥府渡り!」
連続使用になるがためらってはいられない。イリスはせっかく家に帰って父と母に会えるんだ。その為に俺もここまで来たのだから、必ず依頼はハッピーエンドで終わらせる。
命を奪う気で行かなければ駄目だと考え、その覚悟を持って斬りかかるも、黒騎士は一度見た技なら合わせられると言わんばかりに、先ほどよりも早く動いてきた。
ならばとこちらもそれに合わせていくが、息を止めるという条件で早く動けているので、長時間稼働できるわけではない。恐らく黒騎士ほどの強さの者であれば、こちらの弱点にそろそろ気付かれてしまう頃だろう。
「ぐはっ!」
「ふははは! 良いぞコーイチ! 今のお前の底がどこまでか俺に見せてみろ!」
なんとか隙をついて思い切り蹴り飛ばし息を吸うも、まるでダメージがないようで直ぐに距離を詰めてくる。呼吸を整えるまでしばらく逃げ切ろうとしたが、剣筋の鋭さや力が思っていた以上に凄まじく、とても通常の状態では対処できず
「冥府渡り……っ!」
三連続使用した。使用後動き出すも視界が揺れ始める。さすがに酸素欠乏症に陥るだろうと分かるけど、止める訳には行かない。ここでコイツを倒さなければ、イリスが危険にさらされてしまう。
「がっ……げほっげほっ」
息を吸う為にまた距離を取ろうとしたところで、黒騎士になぜか蹴り飛ばされ吹き飛んだ。直ぐに大きく息を吸い込みながら立ち上がろうとすると、黒騎士がのんびり息継ぎをするが良いと言い出して驚く。
「そんなに驚くことはない。お前も分かっているだろうが、私はもうお前の強さの理由は理解している。今夜はそこのエルフのお陰で私にも余裕があるのだから、限界までの間は楽しませてもらいたいのだ。ちなみにお前を殺すつもりはないぞ? コーイチ。お前はまだまだ強くなる」
冥府渡りを三連続で使用しても圧倒出来ず、黒騎士は余裕があるままで戦闘を継続している。対してこちらは使用が続けば続くほど、体の痛みが増し動きも鈍くなっていた。
誰が見ても大人と子供ほどの差があり、文字通り遊ばれている状況である。だからと言って止めることは許されないらしい。イリスだけでなく、リックさんやエイレアも人質にとられているし、なんなら町の人たちもそうだ。
黒騎士が本気なれば皆殺しすら可能な気がして、その強さに怯えずにはいられない。
冒険者ランク:ブロンズ初級
職業:二刀流剣士(初級)
魔法:生命力変換
冥府渡り(デッド・オア・ダイブ)
仲間:イリス(護衛対象のエルフ族の子ども)
サジー(白毛で小さめの馬)
所持品
メイン武器:銅の剣(初心者講習修了記念品)
サブ武器:ショートソード(リックさんから頂いた初級講習完了記念品)
防具:布の服・ズボン・革の靴(初期装備)
アイテム:エリナから貰ったリュック(非常食、水、依頼書、身分証、支援金)
水晶の荒粒
所持金:三十三ゴールド三十七シルバー




