第四十二話 夜霧の中で
首都は厳戒態勢が続いているのでナクルに人が多く来ており、そのせいか露店もどの町よりも数多く並んでいて、イリスはご機嫌であれやこれやと食べたり遊んだりした。
「旅の最後もご機嫌で終えたようだな」
ある程度回り終えるとついに寝始めたので、宿へ戻ってベッドへ寝かせる。エルフからは何時とかいう指定は無いので、警戒しつつ町を回っていれば出てくるだろう。
リックさんにイリスの事を頼み、そのまま宿を出て町をうろつく。飲み屋さんが空いてはいるものの、賑やかというよりは夜の見回りの兵士へ、暖かいものや軽食を提供するためにあるように見えた。
特に今は首都がテロを受けた影響からか、夜遅くまで飲む人は減っているとギルドの受付嬢教えてくれたので、余計に少ないのだろうなとは思う。
しばらく当てもなく歩いていたところ、突然足元に霧が発生する。これは前回のと似た展開だと気付き、両方の腰にある剣の柄に手を置きながら歩いて行く。
「こんばんは人間さん、ちょっと遊んで行かない?」
建物の陰から前回と同じように、ローブで全身を覆いながらそう言いながら出てきた。人間さんなんて言った時点でアウトだよツッコミを入れると、頭の部分の布を後ろへ下げるとイリスと似た顔が現れ、髪を梳かしながら興味なさげに言う。
「そういえばあなたの名前なんだっけ?」
明らかにどうでも良さそうに聞いていたので、君の名前も知らないよというと人間は野蛮ねと呆れたように答えた。こちらはイリスもいるのでエルフに特段嫌な気持ちは無いが、相手の態度は関わりたくない感じを出している。
こちらとしては黒騎士のことが気になるので、さっさと用件を済ませたいとはっきり伝えることにした。
「君は慣れ合う気は無いんだろう? なら用件だけ言って欲しい。黒騎士が来るかもしれないから暇じゃないんだよ」
「黒騎士?」
「知らないなんていう嘘には付き合わないし、これ以上無駄話をするなら帰るけど」
「分かったわよ。用件はイリスを私に預けて欲しいってことなんだけど、それは無理なのはわかってる。で、黒騎士は来るの?」
かなり重要な要件のはずなのに自分で言って自分で処理してしまう。エルフ側で要請したであろう黒騎士が来るかどうかも知らないのは、なにかこちらに対する罠とかなんだろうか。
その辺りの事を言うと魔族には要請したが、黒騎士には要請していないという。こちらとしては訳が分からないので黒騎士は魔族ではないのか、と問うと分からないと嘆くように答える。
「長老たちに聞いても何も教えてくれないどころか、黒騎士に近付くなって言うしなんか変じゃない?」
「確かにな……俺も黒騎士と交戦経験があるけど、彼は退却する時に魔法を使ったような気がしたから、エルフか魔族か……いや羽が無いからエルフなのか?」
「エルフの訳ないじゃない……いやでも羽が無いならエルフなのかな……その退却する時ってどんな様子だったの?」
「ん? 景色に溶けていくような感じ」
「……それ高位の転移魔法よ。魔族が使う類のものじゃない」
「てことはエルフなのに魔族に属して依頼を受けてきたのか?」
「エルフ族なら一族の現状を知っているはずなのに、状況は好転していない。魔族は明らかに損害が出ないように動いているように見えるわ」
「現状を知っている黒騎士が本気を出さないってことは、エルフ族を意図的に苦しめてることにならないか?」
「魔族側なんだからそうするのは妥当よね。だから魔族なんて信じるなって言ったのよ!? 私」
「エルフ族が全力で来ないのも、イリスの母親は自分から出て行ったからなんじゃないのか?」
「姉さまの行動はそうでも、エルフ族が全力で来ないのはそうじゃないのよ……全力で来れれば来てるのよ。元々人口が増え辛い種族で前回の領土戦で減って、その分の兵士の補充も追いつかないから、戦いに振り分けられるほど余裕ないし」
「なら無理に今イリスを奪還するの止めたら?」
「そうはいかないんだって! マナの木も具合が良くなくて」
「イリスの魔力に頼るしかない、か」
「そうなのよね困ったわ……って私なんであなたにこんなペラペラしゃべってるの?」
「良いんじゃない? 誰かに話した方が頭が整理できるし。あ、あそこの飲み屋さんであったかいものでも飲む? お腹空いてない?」
そうこちらが聞いた瞬間、彼女のお腹がぐぅとなる。
冒険者ランク:ブロンズ初級
職業:二刀流剣士(初級)
魔法:生命力変換
冥府渡り(デッド・オア・ダイブ)
仲間:イリス(護衛対象のエルフ族の子ども)
サジー(白毛で小さめの馬)
所持品
メイン武器:銅の剣(初心者講習修了記念品)
サブ武器:ショートソード(リックさんから頂いた初級講習完了記念品)
防具:布の服・ズボン・革の靴(初期装備)
アイテム:エリナから貰ったリュック(非常食、水、依頼書、身分証、支援金)
水晶の荒粒
所持金:三十三ゴールド三十八シルバー




