第三十九話 助けたことの迷い
―ガチャガチャガチャ
ドアノブをガチャガチャする音で目が覚める。鍵を掛けているのかなとか別の人に部屋に寝かされているのかな、などと思い待っていたら扉が少し開いた。
「……あ!」
「あれ、イリス」
ゆっくりと扉を開け見覚えのある小さな顔が見える。イリスもこちらを見つけて大きな声を出し、扉を勢いよく開け放ち駆け寄ってダイブして来た。
「もーーーどこいってたの!?」
イリスは足をバタバタさせ顔を左右に動かしながら叫ぶ。ここにいたけどと思いつつ、ごめんねと言いながら頭を撫でる。
「ねーお出かけしよう? 宿に帰ろう?」
「そうしたいけど大人しくしてろって言われてるんだ」
「えーーー! もう良いよ大人しくするの! 飽きた!」
「飽きたか……正直言うと俺ももう寝るの飽きたから、二人でお出かけする?」
「する!」
「しません」
イリスと話していたのに扉の方から、意図的に低くしてる女性の声がした。聞こえて直ぐイリスはベッドの反対側へ移動し身を隠す。
「飽きようが何しようが黙ってあと二日は寝てなさい。わかりましたか?」
声の主はアヤメさんで、そう言いながらイリスを探し抱えると部屋から颯爽と去って行く。レオンさんは国王と王妃とは長い付き合いで、イリスのことも小さい頃から知っている感じだったが、とうのイリスは彼をとても苦手にしていたのを覚えている。
アヤメさんも言っていたがイリスはこの国の次期国王候補なのに、彼女に敬意の欠片も抱いていない。レオンさんとアヤメさんでは苦手としている理由は違うだろうけど、親子揃って次期国王候補に嫌われるなんて面白いな、と思いながら眠りに就く。
次は夜にドアノブガチャガチャで起こされ、以降二日間の間、イリスとアヤメさんの鬼ごっこは俺のベッドを挟んで行われた。寝ているのにも飽きたので、寝転がりながら二人の鬼ごっこに茶々を入れつつ、何とか二日間をやり過ごす。
「解放!」
「かいほー!」
言いつけを守って生きるよう釘を刺された後で、やっとアヤメさんの監視下から解放される。教会の皆さんにもお礼を言って外へ出るなり、二人でそう叫んでしまった。
イリスは嬉しくて仕方ないらしく、俺の周りを走り回りよじ登り頭にしがみ付いたりと忙しい。どうやら寝かされていたのは教会のベッドだったらしく、彼女も同じ場所に居たようだ。別々の場所で寝かされていて、あちこち探し回っていたらどうしようかと思ったが、そうでなくてほっとする。
「コーイチ殿、無事出られたようですな」
「レオンさん!」
動き回るイリスを捕まえ抱きかかえ、久し振りに散歩しようかと思っていたところで、レオンさんがマイアさんに肩を借りながら現れた。
「御無事で良かったです」
「命を助けて頂き感謝しています。あなたのお陰で数日で歩けるようになりました」
「腕の具合は……」
「残念ながら今度こそ本当に引退です。同じ相手に二度も同じ右腕をやられてしまい、この腕ももう限界だと悲鳴を上げましてな。これからは家の庭いじりでもして過ごします」
そう言った後で微笑むレオンさんの顔は、恨みも憎しみも悲しみもなくただ晴れやかに見える。対してマイアさんは視線を落とし涙ぐんでいた。
どんな顔をして何を言えばいいか分からず当方に暮れていると
「父上、そんな暇があると良いですな。恐らく父上が暇と知れば、あちこちから剣を教えて欲しいと人がくるでしょう」
「そうですよお父様。まだなにも終わっていない」
レオンさんたちの後ろからマチルダさんが、教会からアヤメさんが出て来てレオンさんを囲む。
「師匠、屈辱に塗れても生きろと言われた言葉、そのまま返しますよ」
リックさんも現れそう言葉を掛け、聞いたレオンさんも涙ぐむ。家族って良いなと思いながらも、俺は本当にレオンさんを助けて良かったのか、と思ってしまった。
剣士として我を張って生きてきた人に、同じ相手に同じ場所を刺され終わらされた人に、生きろというのは想像以上に残酷なのではないか、と。
いたたまれなくなった俺は、目の前の家族に一礼するとその場を後にする。
冒険者ランク:ブロンズ初級
職業:二刀流剣士(初級)
魔法:生命力変換
冥府渡り(デッド・オア・ダイブ)
仲間:イリス(護衛対象のエルフ族の子ども)
サジー(白毛で小さめの馬)
所持品
メイン武器:銅の剣(初心者講習修了記念品)
サブ武器:ショートソード(リックさんから頂いた初級講習完了記念品)
防具:布の服・ズボン・革の靴(初期装備)
アイテム:エリナから貰ったリュック(非常食、水、依頼書、身分証、支援金)
水晶の荒粒
所持金:三十三ゴールド三十八シルバー




