第三十五話 陽動
「くっ!?」
捌きつつ剣を振る速度を上げていき、隙が出来た瞬間、即膝とその側面を強打することを繰り返した。個人的に喋る相手を斬るというのに慣れないので、出来る範囲内で不殺はやって行こうと思っている。
「な、何なんだてめぇ! 殺すならさっさと殺せ!」
「悪いけど俺はしない主義なんだ。それだけ動けるなら今なら帰れはするだろう? 時間稼ぎなんだし」
「情けをかけるつもりか!」
「恩を感じてくれるならいつか返してくれると助かる。人間族は弱いし俺はいつかどこかで城をもつかもしれないんでね」
「良いだろう……テメェの顔は覚えたからな! 俺の名はヴァルドバだ! 覚えておけ!」
足を引きずりながらヴァルドバが撤退するのを見て、他のワーウルフたちも撤退していった。他の冒険者たちも引き上げ始めるが、間違いなく撤退したか最後まで残り確認してから町まで戻る。ヴァルドバが教えてくれた時間稼ぎという言葉が気になっていた。
「コーイチさん!」
門に着くとマイアさんが居て手を振っている。お疲れ様っていうことかと思いきや、兵士たちまで手を上げてから前に倒していた。急いで来いということかと思い駆け寄ったところ
「魔族が現れてイリス様を連れ去って行きました!」
と耳打ちされる。レオンさんが付いていたので無事なのか尋ねるも、誰一人として何も言わず視線を落とした。レオンさんのことやイリスのことなど、頭の整理が追い付かない俺に対し、マイアさんはなぜか黒騎士からの伝言を伝えてくる。
―南へ来い
皆に逃げた魔族の行方を聞くも分からないというし、ここは黒騎士の伝言に従い南へ行くしかないと思った。その旨を皆に告げ、上の人たちにも報告して欲しいと告げて再度町の外へ出る。
南というのはどこまで行けば良いのか分からないが、とにかく黒騎士かイリスがみつかるまで走り続けた。
「な、なんだ貴様は!?」
「あっ!」
どれだけ走ったか分からないくらい走った場所で、頭に角を二本生やし蝙蝠の羽を生やした、青い肌の者たち三人とイリスを見つける。こちらは考えずそしてあちらに考える隙を与えてはいけない、そう咄嗟に思い突っ込んで行ってイリスを抱えている者の頭へ、剣腹を素早く叩きつけた。
「イリス、待たせたな!」
「おかえり! おかえり!」
姿からして魔族であろう者からイリスを奪い取り、そのまま踵を返して走り出す。
「逃がすか人間!」
「人間のくせに生意気な!」
一人はなんとか戦闘不能に出来たものの、残りの二人が空を飛びながら追いかけてくる。森の中なので木を利用し、間を縫うように走ることで相手は真っ直ぐ追えず、直ぐに追いつかれることは無いだろう。だが逆に森を抜ければすぐに捕まってしまう。
どうしたものかと考えていたところ、馬のいななく声が聞こえてきた。足を止めずに進んでいたらなぜかサジーが現れる。理由を考えている暇がない。急いで荷台にイリスを乗せ、急いで町へ行くようサジーに頼み木へ駆けあがる。
「なんだありゃ……うわっ!」
「兄者!」
サジーを見て一瞬止まった魔族に対し、木の上から飛び掛かって首に手を回し抱き着き、そのまま思い切りヘッドロックを決めた。気を失った魔族とともに落下し、相手をクッションにしてダメージを軽減する。
「くそぉ人間の分際で兄貴たちを!」
残る一人は空を飛びつついつの間にか手斧を持ち、こちらへ向かって急降下して来た。転がって避け直ぐに立ち上がり得物を抜いて、相手の袈裟斬りをショートソードで弾いて防ぎ、追撃をしようとするも飛んで逃げられる。
「とっととくたばりやがれ人間!」
素早く飛んで逃げられるというのは想像以上に厄介で、相手を避けたりいなしても追撃をする前に飛んで逃げられてしまう。このままでは一方的に嬲られるだけだ。何か、何か手がないのか!?
冒険者ランク:ブロンズ初級
職業:二刀流剣士(初級)
魔法:生命力変換
仲間:イリス(護衛対象のエルフ族の子ども)
サジー(白毛で小さめの馬)
所持品
メイン武器:銅の剣(初心者講習修了記念品)
サブ武器:ショートソード(リックさんから頂いた初級講習完了記念品)
防具:布の服・ズボン・革の靴(初期装備)
アイテム:エリナから貰ったリュック(非常食、水、依頼書、身分証、支援金)
水晶の荒粒
所持金:三十三ゴールド三十八シルバー




