第三十三話 危険な空気
「黒騎士が出たと聞いてリックは倒すまで追い回すでしょう。そのために包囲網が崩れリックが抜けた穴を整えるまでの間、お二人にはここに滞在していて欲しいのです」
「師の仇であれば仕方がありません」
「私怨で追うなとは口を酸っぱくして言っているのですがね……どうも夫婦で血眼になって探しているようで……コーイチ殿を選んだのも相手が食いつきそうだからでしょう。本当に申し訳ない」
「いえいえ、そのお陰でこうして生きる術を得られましたし、イリスとも出会え多くの事を学べましたから感謝しています」
「ありがとう……滞在中はここを使ってトレーニングをしてください。その間はイリス様は私たちで見ていますので」
「感謝します」
トレーニングも丁度終わり、レオンさんに一礼して二人で上の階に戻る。イリスは待ちつかれたのか、ギルド員の控室のソファで寝ていた。なるべく起こさないようレオンさんたちに協力してもらい、イリスを背負ってギルドを出て宿へ向かいその日は就寝する。
「おはよ」
「おはよう、どうした今朝は。元気がない? 体調悪い?」
「ううん元気」
夢も見ずに朝になったようで、いつものイリスのダイブがあり目を覚ましたが、元気だという割には顔にもダイブにも元気がない。おでこに手を当てるも、熱は無いようなので風邪ではないらしい。
気になるのでギルドで相談しようと考えつつ、朝のルーティーンを終えギルドに向かうため外へ出た。
「え……」
人通りがまったくなく夢でも見てるのかと思った。夢かどうか確かめる為、自分の頬を抓っているとイリスもやるというのでやってもらったが、痛いので夢ではない。現実感のない世界で現実感の無い出来事が起きるのは止めて欲しいなと思いながら、取り合えず警戒しつつギルドを目指す。
「コーイチ殿、緊急依頼が出ましたぞ!」
ギルドに入ると中にも誰もおらず、いよいよエルフの魔法か自分がおかしくなったか疑い出したものの、レオンさんが扉から出て来てほっと胸をなでおろした。
「人がいないということはそれだけ凄いんですか?」
「ええ、ワーウルフの群れが近くまで迫っております。七聖剣の従者たちが報告してくれ、町の者たちは家の中に避難しており、冒険者たちは準備ができ次第すぐに北門から出てもらっています」
「あの、ワーウルフとコボルトの違いはなんでしょうか」
レオンさんはせわしなくカウンターの下を漁ったりと、かなり忙しそうだったが聞いてみる。一旦手を止め姿勢を正し咳払いをした後で簡単に説明してくれた。
ワーウルフはコボルトよりも獣族の狼族に近く、より近代で枝分かれした存在だという。狼族がまだ他種族との交流を可能とするのに対し、ワーウルフは獰猛で力による敗北以外で従うことは無く、奪うか奪われるかの二択しかないらしい。
「ギルドからの依頼は必ず倒すよう指示が出ております。能力はコボルトを凌駕しておりますので、気をつけてください。私のお古で良ければ鎧をお貸ししましょうか?」
「お心遣い感謝します。ですがまだ未熟なのでサイズが合わなかったりすると、恐らく上手く動けなくなってしまうので大丈夫です。出来ましたらイリスの事をお願いします。元気がないみたいで」
手を繋いでいるイリスは相変わらず元気がないままである。しゃがんで怖い動物が近くまで来てるから、イリスが危なくないように倒してくるよと伝えるも、珍しく首を横に振った。
どうしたのか聞くも答えずに首にしがみ付いてくる。周りの空気が変なので怯えてしまったのだろうか。
「イリス様、コーイチ殿はお仕事なので爺やと一緒に居ましょう」
「嫌……」
レオンさんが引き剥がそうとして来たので、少し待ってもらうよう頼む。元々お母さんから無理やり引き離されているのだから、なるべく無理やりということはしたくなかった。
「イリス、直ぐにお仕事終えて帰ってくるから、帰って来たらまた露店を回って美味しいもの食べよう?」
「本当?」
優しく頭を撫でながら本当だよ、だから良い子にして待っていて欲しいと頼むと、少し間があってからゆっくり離れる。レオンさんにイリスの事を頼み、そのまま走ってギルドを出て北門へ向かう。
冒険者ランク:ブロンズ初級
職業:二刀流剣士(初級)
魔法:生命力変換
仲間:イリス(護衛対象のエルフ族の子ども)
サジー(白毛で小さめの馬)
所持品
メイン武器:銅の剣(初心者講習修了記念品)
サブ武器:ショートソード(リックさんから頂いた初級講習完了記念品)
防具:布の服・ズボン・革の靴(初期装備)
アイテム:エリナから貰ったリュック(非常食、水、依頼書、身分証、支援金)
水晶の荒粒
所持金:三十三ゴールド三十八シルバー




