第三十二話 イリスを狙う訳
「エレクトラ王妃様は武人としては元より、種族的な器用さから裁縫を得意とされ、我らの裁縫文化が進んだのもあの方のお陰。皆に指導し文化の促進に尽力する王妃の姿を、王は間近で見られている。容姿もお美しく気立ても素晴らしく惹かれぬ者はいなかった。それは王とて例外ではない」
元々タウマス王が分け隔ての無い人だったからこそ、エレクトラ王妃も人間族への見方を変えた。二人はなるべくしてなり、今繫栄する都の主となり民を支え守っている。
それを良しとしないのがエルフ族であり、王と王妃の間に生まれたイリスは本来エルフ族の国にあるべき、ということから引き渡すよう勧告して来たらしい。
汚れているとか言い出しそうな気がしたが、どうやら彼女は想像を超える魔術粒子を持っていると判明し、それ欲しさに言ってきたという。
「彼らの信仰するマナの木の強化、そして詳細は不明ながらギャラルホルンというのを起動させるには、エルフ族の女王についたものの莫大な魔術粒子を必要とするらしいのです」
どうやらこれまでそれを可能にする女王は現れず、それを人間族とエルフ族の間に生まれたイリスに見出してしまった。もどかしいが古の儀式の復活が出来るなら、とやる気を出しているらしい。
魔族を頼ったのも相手が王と王妃だけと踏んでいたのに、それ以外にも強い人間がいたことが予想外だったらしく、そのため屈辱を抑え込んででも協力を求めたようだ。
「ただやはりといえばやはり、相手は上手くいっていないようです。魔族も犠牲を払って奪取したイリス様をエルフ族が奪い返された、というのが魔族的にも許せなかったのかと」
首都へのテロはエルフ族と合同で行っており、奪還の任は七聖剣に一任され、その間にタウマス王は獣族へ魔族の領地襲撃を持ち掛け、結果として魔族の領地を複数得たという。多大な犠牲を払ってもイリス奪取に協力したその対価がなんなのか、恐らくそれはギャラルホルンというキーワードな気がする。
でなければ相手が失敗し領土を奪われてなお、上手く行かない程度で済ますはずがない。魔族にとっても利益となるギャラルホルンとはなんなのか、王妃様はそれを知らないのだろうかと思い聞くも、上層部とエルフ族の女王以外知らない門外不出の情報らしい。
気になることはそれだけではない。イリス奪還の任務を七聖剣が任されたと聞いたが、それは今も続いているのではないかという点である。
どうしてそう思ったのかと言えば、それはここまでの話を聞いた限りだが、イリスを奪うことは相手にとって絶対にも拘らず襲撃が少ないのは可笑しいからだ。
護送の任を負っているのが初心者冒険者のおっさんなのに、なぜか襲って来たのは2回のみ、それも全力とは思えない戦力だった。
以前自分を餌に釣りをしているのではないかと思ったけど、この想像は当たっていたのかもしれない。タイミング良くリックさんやマチルダさんが現れたのも、元々迎撃を行っていたからと考えれば辻褄が合う。
「私としては腕諸々よりもイリス様にとってためになるかどうか、が重要だったのですが、黒騎士がリックたちの包囲網を抜けてきたと聞き、こうして失礼ながら腕試しをさせて頂いたのです」
「黒騎士を御存知なのですか?」
「もちろん。彼は私がリックに七聖剣の座を譲る切っ掛けになった人物です」
レオンさんはそう言うとシャツの右腕をめくる。そこには黒い炎のようなあざがあった。恐る恐るそれは何かと尋ねると呪いだと教えてくれる。
まだリックさんが二十代だった頃、七聖剣の一振りとしてタウマス王のと共に戦場を掛けていた際、黒騎士と戦場で相対したという。
最初の方は経験の差で圧倒していたというも、徐々に差は詰められ遂に敗北しその時にリックさんが割って入り、黒騎士を下がらせたのを見て座を譲る決意をしたと教えてくれた。
「その際に負った傷痕がこれです。彼は言っていました。こんな技を使わなければ勝てないのか、と。それ以降こういった傷痕を負ったものは見たことありませんので、恐らく禁忌のような技なのでしょうな」
「あの、後遺症とかは」
「ありましたよ特大の後遺症が。これを受けて以降、精一杯の力を入れることが出来なくなりました。トレーニングのお陰で多少はマシになりましたが、全盛期には及びません」
だから俺のような初心者のおっさんでも押せたのかと納得する。
冒険者ランク:ブロンズ初級
職業:二刀流剣士(初級)
魔法:生命力変換
仲間:イリス(護衛対象のエルフ族の子ども)
サジー(白毛で小さめの馬)
所持品
メイン武器:銅の剣(初心者講習修了記念品)
サブ武器:ショートソード(リックさんから頂いた初級講習完了記念品)
防具:布の服・ズボン・革の靴(初期装備)
アイテム:エリナから貰ったリュック(非常食、水、依頼書、身分証、支援金)
水晶の荒粒
所持金:三十三ゴールド三十八シルバー




