第三十一話 イリスの秘密
「ですがこうして手合わせしてみて安心しましたよ。あなたのような人がイリス様を守ってくれていると分かって」
「そうですか? まだ二刀流も初心者ですし、基礎能力も低いですけど」
「もう初心者というのは止めた方が良いでしょうね。そんな初心者がいるなら、人間族は今頃統一を果たしているでしょうから」
「首都をエルフ族に襲われ、イリスがさらわれてリックさんが連れ戻したと聞きましたが、首都の兵士は弱いのですか?」
「……良いでしょう、あなたの腕を認めここからはお話をしましょう。あ、聞きながらで結構ですので、リックが指示した時のトレーニングをこなしてください」
言われるままリックさんが教えてくれたトレーニングを始める。レオンさんはリックさんの師匠であり、先代の七聖剣だと聞き驚きでバランスを崩し倒れた。
まさかそんな縁だとは思わず、改めてお世話になっていますとお礼を述べると、礼を言われることではないと返される。なぜかと問うと、それはイリス護衛の依頼の対価のようなものだからと言った。
「人間族は元々この周辺に生息し、隣国である獣族と友好関係を築いていたことで、なんとかエルフ族と魔族の脅威から身を守り繁栄出来ました。まぁ彼らの互いに対する憎しみもあるにはあったんですが。それが崩れ始めたのは、人間族の現国王タウマス王にあります」
太古に人間族をこの地に導いた者の子孫であり、人間族の数が増えたことで領土拡大を迫られ、魔族やエルフ族を退け拡大するという偉業を成し遂げている王だと言う。
領土拡大したからテロが過激になったのですねと言うも、それもありますがもっと大きな問題があるとレオンさんは小さな溜息を吐く。
「演劇のお題目には良いんでしょうし、人間族側は融和モードが出始めてはいますが、相手は怒り心頭で手が付けられない」
「具体的には?」
「イリス様を見て何か気付きませんか?」
そう言われて考える。彼女は見たままを言うなら襲ってきたエルフ族と似ているが、なんというか冷たさというかが違っていた。こちらの答えに対しレオンさんは分かります、と同意してくれる。
エルフ族とはそもそも人間族より魔法や精霊など、未知の分野に長け寿命が長く身軽であり、平均的な人間族を凌駕する面が多い。古い時代においては人間族を奴隷として扱っていたこともあって、教育だけでなく生物として格下と見てしまう部分があるのではないか、とレオンさんは言った。
イリスにはそれがない。つまり彼女は教育をそうとして受けておらず、人間は人間であるとして見れる生まれである。だとしてもそれは生まれが首都ヲスカー、というだけで説明になるのだろうか。
「もったいぶるつもりはなかったのですが、あなたが記憶喪失だとリックから聞き、考えることで何か思い出せばと思って色々提示して見ました。どうやらあまり役には立たなかったようですね」
「お気遣いありがとうございます。それで彼女の理由とは」
「簡単ですよ。あの子には人間族の血も流れているから、です」
ああそれでなのかと納得がいった。なぜエルフ族が人間族の首都に行くのか、その答えは彼女の家だからだ。これほど明瞭な回答はない。彼女の母親が幽閉されているという話について聞くと、テロがあったから守備を固めてるだけですよと教えてくれる。
「テロがあったからエレクトラ王妃を守っている、というのとはちょっと違うのですけどね。あのお方は一人で十分強いんですが、如何せんイリス様をさらわれたことでエルフ族に怒り心頭でしてね」
レオンさんは嘆くように言った。タウマス王とエレクトラ王妃は例の領土拡大の際に初めて出会い、幾度も戦場で剣を交えた間柄だったようだ。エルフの秘術を使っても倒せないタウマス王、そして人間族に興味を持ち、王妃は停戦の条件として一部エルフの留学を申し出たという。
エルフ族の上層部に対し敵を研究する為と称し、お付きと共に首都ヲスカーに王妃はやってくる。交流する中で明るく分け隔てなく接する人々や発展する文化を見て、自分の一族の在り方に疑問を持つまでに至ったようだ。
留学も長くなれば国に溶けていく。人間族の中に身を置いている間ですら、エルフ族による小規模な嫌がらせは続いた。王たちはそれに対応しながらも、王妃たちにはそれは別として接していたという。
エルフでありながら人間族側から自分の一族を見た時、その陰湿さ傲慢さを思い知らされ、それを止めるよう何度も説得したが聞き入れられず、キレた王妃は出奔したらしい。
冒険者ランク:ブロンズ初級
職業:二刀流剣士(初級)
魔法:生命力変換
仲間:イリス(護衛対象のエルフ族の子ども)
サジー(白毛で小さめの馬)
所持品
メイン武器:銅の剣(初心者講習修了記念品)
サブ武器:ショートソード(リックさんから頂いた初級講習完了記念品)
防具:布の服・ズボン・革の靴(初期装備)
アイテム:エリナから貰ったリュック(非常食、水、依頼書、身分証、支援金)
水晶の荒粒
所持金:三十三ゴールド三十八シルバー




